ペンギン鳥の歌 原民喜 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)真白《まっしろ》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)[#ここから2字下げ] -------------------------------------------------------  森は雪におおわれて真白《まっしろ》になりました。高い大きな枯木《かれき》の上で、カラスが拡声器をすえて、今しきりに、こんなことを喋《しゃべ》っています。 [#ここから2字下げ] ああああ ただ今 試験中です ああああ ただ今 試験中です ああああ ただ今 試験中です [#ここで字下げ終わり]  いつまで待っていても、ああああ と云《い》うばっかしなので、小鳥たちは顔を見あわせてくすくす笑いました。でも、何か始まるだろうと思って待っていました。 [#ここから2字下げ] ああああ ええ ただ今 試験中です ああああ ええ ただ今 試験中です [#ここで字下げ終わり]  また同じことをくりかえしています。小鳥たちは、また、くすくす笑いました。でも、何か始まるのかと思って待っています。 [#ここから2字下げ] ああああ ただ今 試験中です [#ここで字下げ終わり]  カラスはまた同じことを平気で喋《しゃべ》っています。ガガガガガ……拡声器の音が少し変って来ました。さあ、何かはじまるよ、と小鳥たちは静かにしていました。 [#ここから2字下げ] ああああ ええ ただ今からペンギン鳥の歌をはじめます [#ここで字下げ終わり]  音楽がきこえて歌がはじまりました。 [#ここから2字下げ] ペンギン鳥 ペンギン鳥は雪の上 ペンギン鳥 ペンギン鳥は雪の上 白熊 あざらし 走る風 海は真青《まっさお》 空も真青 雪は真白《まっしろ》 虹は七色 沖で鯨《くじら》は潮を吹く チンチンチンチン 鈴の音 すういすういと ペンギン鳥 ペンギン鳥の列はゆく ペンギン鳥の列はゆく 夜でも朝でも ペンギン鳥 ペンギン鳥はペンギン鳥 ちょっと楽しく ちょっと立派で ちょっと元気で ちょっと優しく ちょっと賢《かし》こく ちょっと静かで ペンペンペンペン ペンギン鳥 ペンギン鳥は 雪の上 ペンギン鳥は 雪の上 チンチンチンチン 鈴の音 すういすういと ペンギン鳥 ペンギン鳥の列はゆく ペンギン鳥の列はゆく [#ここで字下げ終わり]  ふと拡声器がゴロゴロ鳴って、歌はやんでしまいました。 [#ここから2字下げ] ああああ…… [#ここで字下げ終わり]  またカラスの声がはじまりました。 [#ここから2字下げ] ああああ…… [#ここで字下げ終わり]  カラスは拡声器の前でしきりに気どっていました。 [#ここから2字下げ] ああああ ええ ただ今から こんどは カラスの歌をはじめます [#ここで字下げ終わり]  小鳥たちは顔を見あわせて、くすくす笑いだしました。 底本:「原民喜童話集」イニュニック    2017(平成29)年11月15日第1刷発行 底本の親本:「近代文学 8月号」近代文学社    1951(昭和26)年8月1日 初出:「近代文学 8月号」近代文学社    1951(昭和26)年8月1日 入力:竹井真 校正:砂場清隆 2020年10月28日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。