ハツカネズミと小鳥と腸づめの話 グリム Grimm 矢崎源九郎訳 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)小鳥《ことり》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)くじ[#「くじ」に傍点] -------------------------------------------------------  むかしむかし、ハツカネズミと小鳥《ことり》と腸《ちょう》づめがなかまになって、一家《いっか》をもちました。長いあいだ、みんなはいいぐあいになかよくくらして、財産《ざいさん》もだいぶこしらえました。  小鳥のしごとは、まい日森のなかをとびまわって、たきぎをとってくることでした。ハツカネズミは水をくんで、火をおこし、おぜんごしらえをする役《やく》めです。それから、腸《ちょう》づめは煮《に》たきをすることになっていたのです。  しあわせすぎるものは、なにかかわった、あたらしいことをやってみたがるものです。そんなわけで、ある日、小鳥はとちゅうでほかの鳥にであって、じぶんの身《み》のすばらしいしあわせを話して、さかんにじまんしました。ところが、その鳥は、 「おまえはばかだな。おまえはほねのおれるしごとをしているのに、ほかのふたりはうちでらくをしているじゃないか。」 と、小鳥をこばかにしていいました。  なるほど、そういわれれば、たしかにそのとおりです。だって、ハツカネズミは火をおこして、水をくんでしまえば、あとはじぶんのへやにはいって、おぜんごしらえをしろといわれるまでは、やすんでいられます。腸《ちょう》づめは土《ど》なべのそばにいて、食べものの煮《に》えぐあいを見ていればいいのです。そうしているうちに、ごはんどきになったら、おかゆか、煮《に》もののなかを、せいぜい四回もころがりまわれば、それで油《あぶら》っけも塩《しお》っけもうまくついて、したくもできあがりというわけです。そこへ小鳥《ことり》がかえってきて、おもたい荷《に》をおろすのです。そこで、みんなはおぜんについて、やがてごはんがすみますと、あしたの朝までぐっすりねむります。なるほど、まことにもってすばらしいくらしです。  小鳥は、ほかの鳥に知恵《ちえ》をつけられたものですから、つぎの日は、 「ぼくは、もうずいぶん長いあいだ下男《げなん》しごとをやってきた。まるで、きみたちにばかにされていたようなもんだ。ここらでひとつ役《やく》めをかえて、ちがったやりかたをしてみようじゃないか。」 と、いって、どうしても森へいこうとはしませんでした。  ハツカネズミばかりか腸《ちょう》づめまでが、小鳥にいってきてくれとしきりにたのみましたが、小鳥はなんとしてもききいれませんでした。そこで、とにかくやってみなくてはというわけで、みんなでくじ[#「くじ」に傍点]をひいてみました。すると、腸《ちょう》づめにくじがあたりましたので、腸づめがたきぎをとりにいくことになりました。そして、こんどは、ハツカネズミが料理番《りょうりばん》になり、小鳥が水をくむ役《やく》にまわりました。  さてそれで、どんなことになったでしょうか。  腸《ちょう》づめは森をさして、でかけていきました。いっぽう、小鳥《ことり》は火をおこして、ハツカネズミはふかいおなべの用意《ようい》をしました。こうして、腸づめがあしたのたきぎをもってかえってくるのを、待《ま》つばかりになりました。  ところが、その腸《ちょう》づめはいつまでたってもかえってきません。それで、ふたりは、腸づめがどうかしたのではないかと心配《しんぱい》になってきました。そこで、小鳥がちょっととんでいってみました。  すると、あまり遠くないところに、道ばたに一ぴきの犬がいました。この犬が、かわいそうに、腸《ちょう》づめを見るとどうじに、いいえものがきたとばかりにひっつかまえて、殺《ころ》してしまったのです。小鳥は犬にむかって、 「そりゃあおまえ、だれがみたって強盗《ごうとう》というもんだぞ。」 と、はげしくもんくをいいたてました。  けれども、犬のほうでは、 「おれは、あの腸《ちょう》づめのやつが、にせ手紙《てがみ》をいくつももっているのを見つけたんだ。だから、おれがあいつの息《いき》の根《ね》をとめてやったのさ。」 と、いいますので、どうにもしかたがありませんでした。  小鳥は、しおしおと、たきぎをせおってとんでかえりました。そして、見たり、きいたりしてきたことを、ハツカネズミに話してきかせました。ふたりは、すっかりかなしくなりましたが、それでも、できるだけのことをしよう、そうして、いつまでもふたりでいっしょにいよう、と、かたく約束《やくそく》しました。  こういうわけで、小鳥《ことり》は食卓《しょくたく》のじゅんびをし、ハツカネズミは食べものの用意《ようい》をしました。そして、ハツカネズミはすっかりごはんごしらえをしてしまおうと思いました。そこで、まえに腸《ちょう》づめがやったように、土《ど》なべのなかにはいって、おかゆのなかをころがりまわって、味《あじ》をつけようと思ったのです。ところが、ハツカネズミはまんなかまではいらないうちに、身動《みうご》きができなくなってしまいました。そして、皮《かわ》と毛《け》をなくすだけではすまないで、命《いのち》までもなくしてしまったのです。  小鳥がやってきて、食べものをならべようとしましたが、料理番《りょうりばん》のすがたが見えません。小鳥はあわてふためいて、たきぎをあっちこっちへほうりだして、大声によびながら、さがしまわりました。でも、料理番のすがたはどこにも見えません。  こんなことでうっかりしているうちに、火がたきぎのなかにはいってしまって、火事《かじ》になりました。小鳥はいそいで水をくみにいきました。ところが、水をくむおけが井戸《いど》のなかへおっこちるひょうしに、小鳥もいっしょにおっこちてしまいました。こうして、小鳥はもうどうすることもできなくなって、あぶあぶしているうちに、とうとう水におぼれて死《し》んでしまいました。 底本:「グリム童話集(1)」偕成社文庫、偕成社    1980(昭和55)年6月1刷    2009(平成21)年6月49刷 ※表題は底本では、「ハツカネズミと小鳥《ことり》と腸《ちょう》づめの話」となっています。 入力:sogo 校正:チエコ 2021年2月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。