灰かぶり グリム Grimm 矢崎源九郎訳 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)金持《かねも》ち |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)一|羽《わ》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)ままむすめ[#「ままむすめ」に傍点] -------------------------------------------------------  あるお金持《かねも》ちのうちで、そのうちのおくさんが病気《びょうき》になりました。おくさんは、もういよいよじぶんはだめだと感じましたので、ひとりむすめの小さい女の子をまくらもとによびよせて、こういいました。 「あのね、いつまでも神《かみ》さまを信《しん》じて、すなおな心でいるんですよ。そうすれば、神さまは、いつもおまえのそばについていてくださるからね。おかあさんもおまえを天国《てんごく》から見まもっていて、おまえのそばをはなれませんよ。」  おかあさんはこういって、目をつぶりました。そして、そのまま、この世《よ》をさってしまったのです。  女の子は、まい日、おかあさんのお墓《はか》のところへいっては、泣《な》いてばかりいました。でも、神さまを信《しん》じて、すなおな心でいました。  やがて、冬になりますと、雪がそのお墓の上に白い布《ぬの》をひろげました。それから、春になって、お日さまがその布をとりのけるようになったころ、お金持ちのうちには、またべつのおくさんがきました。  こんどのおくさんは、じぶんのむすめをふたりつれてきました。そのむすめたちは、顔だけは白くてきれいでしたが、心のなかときたら、ひねくれていて、まっ黒でした。ですから、かわいそうなままむすめ[#「ままむすめ」に傍点]の女の子にとっては、それからは、つらい日がまい日つづくことになりました。 「このあほうなガチョウむすめったら、うちんなかにすわりこんでいるよ。」 と、まま[#「まま」に傍点]母やそのむすめたちが口ぐちにいいました。 「ごはんが食べたかったら、だれだってじぶんでかせぐんだよ。さあ、さっさといって、女中《じょちゅう》といっしょにおはたらき。」  こういうと、みんなは、女の子のきていたきれいな着物《きもの》をぬがせて、そのかわりに、ネズミ色の古ぼけたうわっぱりをきせて、木ぐつをはかせました。 「ちょいと、この高慢《こうまん》ちきなお姫《ひめ》さまをごらんよ。ずいぶんおめかししたこと。」  みんなはこうはやしたてながら、大わらいをして、女の子を台所《だいどころ》につれていきました。  それからというものは、まい日まい日、女の子はつらいしごとをしなければなりませんでした。朝は日のでるまえにおきだして、水をはこび、火をもやし、煮《に》ものをし、せんたくをしました。  ところが、そういうつらいしごとがあるうえに、ねえさんたちは、つぎからつぎへと、いろんなことを考えだしては、女の子をいじめたり、ののしったりするのです。そして、わざと豆《まめ》つぶを灰《はい》のなかにぶちまけては、女の子がいやでもすわって、それをひろいださなければならないようにしむけるのでした。  一日じゅうはたらいたあとで、どんなにくたびれきっていても、晩《ばん》には、寝床《ねどこ》にはいらずに、かまどのそばの灰《はい》のなかに横にならなければなりませんでした。ですから、この子はいつもほこりだらけで、よごれたかっこうをしていましたので、みんなはこの子のことを、「灰かぶり」「灰かぶり」とよびました。  ある日のこと、おとうさんが市《いち》へでかけることになりました。それで、おとうさんは、ふたりのきょうだいに、 「おみやげにはなにがほしいね。」 と、たずねました。 「きれいな着物《きもの》よ。」 と、ひとりがいいました。 「あたしは真珠《しんじゅ》と宝石《ほうせき》。」 と、もうひとりがいいました。 「ところで、灰《はい》かぶり、おまえはなにがほしいな。」 と、おとうさんがききました。 「おとうさん、それじゃ、おとうさんがかえっていらっしゃるとき、いちばんさきにおとうさんのぼうしにさわった木の小枝《こえだ》を、おってきてちょうだい。」  さて、おとうさんは、ふたりのままむすめのおみやげに、きれいな着物《きもの》と、それに、真珠《しんじゅ》と宝石《ほうせき》とを買いました。  それから、馬にのってかえってきました。やがて、とある青あおとした木立《こだち》に、さしかかりました。すると、一本のハシバミの小枝《こえだ》にぶっつかって、ぼうしがおちてしまいました。そこで、おとうさんはその枝をおって、もってかえりました。  うちにかえると、おとうさんは、ふたりのままむすめに、めいめいのほしがっていたものをやりました。それから、灰《はい》かぶりには、ハシバミの小枝をやりました。  灰かぶりはおとうさんにお礼《れい》をいって、おかあさんのお墓《はか》のところへいき、その小枝《こえだ》をお墓の上にうえました。そして、泣《な》いて泣いて泣きじゃくりましたので、涙《なみだ》がはらはらとこぼれおちて、その小枝にふりかかりました。おかげで、小枝はずんずん大きくなって、美しい木になりました。  灰《はい》かぶりは、まい日三度、その木の下へいって、泣きながら、おいのりをしました。すると、そのたびに、一|羽《わ》の白い小鳥《ことり》がその木の上にとんできては、灰かぶりがほしいというものを、なんでもおとしてくれました。  さて、お話かわって、この国の王さまが大きな宴会《えんかい》をもよおすことになりました。その宴会は、三日もつづくことになっていました。そして、その宴会には、国じゅうの美しいむすめたちが、ひとりのこらずまねかれていました。つまり、その人たちのなかから、王子《おうじ》の花よめになる人をさがしだそうというわけだったのです。  ふたりのまま子のきょうだいは、じぶんたちもその宴会《えんかい》にでられることになっているときかされて、大よろこびでした。それで、灰《はい》かぶりをよびつけて、 「さあ、あたしたちの髪《かみ》をすいておくれ。くつもみがいておくれ。それから、しめ金《がね》で胸《むね》をぎゅっとしめておくれ。あたしたちは、王さまの宴会によばれて、お城《しろ》へいくんだからね。」  灰かぶりは、ねえさんたちのいうとおりにしてやりました。けれども、泣《な》きました。むりもありません、灰かぶりだって、いっしょにいって、おどりたかったのですもの。それで、まま母に、 「あたしもいかせてください。」 と、おねがいしてみました。 「なにをいってるの、灰《はい》かぶり。そのほこりだらけの、きたならしいかっこうで宴会《えんかい》へいこうっていうのかい。だいいち、着物《きもの》もくつもないのに、おどろうっていうの。」 と、まま母はいいました。  でも、灰かぶりがしきりにおねがいしましたので、まま母もとうとう、 「それじゃ、灰のなかに、おさらに一ぱいぶんのお豆《まめ》がぶちまけてあるから、それを二時間のうちにひろいなさい。そうしたら、いっしょにつれてってやるよ。」 と、いいました。 [#挿絵(fig59745_01.png、横400×縦537)入る]  女の子はうら口から庭《にわ》へでて、大きな声でよびました。 「飼《か》いバトちゃんに、山バトちゃん、それから、お空の下の小鳥《ことり》ちゃん、みんなでここへとんできて、あたしのお豆《まめ》ひろいの、お手つだいをしてちょうだい。 [#ここから4字下げ] いいお豆は つぼのなか いけないお豆は 餌《え》ぶくろに。」 [#ここで字下げ終わり]  その声をききつけて、たちまち、白い小バトが二|羽《わ》、台所《だいどころ》の窓《まど》からはいってきました。つづいて山バトが、いく羽もいく羽もはいってきました。そのうちに、バタバタ、バタバタ、羽《はね》の音をたてながら、空の下の鳥が一羽のこらずあつまってきて、灰《はい》のまわりにおりたちました。  小バトたちはかわいい頭をさげて、こつこつこつとやりだしました。すると、ほかの鳥たちも、みんな、こつこつこつとやりだしました。そして、いいほうの豆《まめ》つぶはひとつのこらず、おさらのなかにひろいいれました。  こうして、一時間たつかたたないうちに、みんなは灰のなかからすっかり豆つぶをひろいだして、またおもてへとびだしていきました。  そこで、女の子は大よろこびで、おさらをまま母のところへもっていきました。そして、これで宴会《えんかい》へつれていってもらえるものとばかり思っていました。ところがまま母は、 「だめだめ、灰《はい》かぶり。おまえなんか着物《きもの》もないじゃないか。それにおどりなんてできやしないよ。みんなのわらいものになるだけさ。」 と、いうのです。  それをきいて、女の子がわっと泣《な》きだしますと、まま母は、 「それじゃ、一時間のうちに、灰《はい》のなかから、お豆《まめ》をふたつのおさらにいっぱいひろいだせたら、いっしょにつれてってやるよ。」 と、いいました。  でも、腹《はら》のなかでは、 (そんなことは、とてもできっこないさ。) と、思っていたのです。  まま母がふたさらぶんのお豆《まめ》を灰《はい》のなかにぶちまけてしまいますと、女の子はうら口から庭《にわ》へでて、大きな声でよびました。 「飼《か》いバトちゃんに、山バトちゃん、それから、お空の下の小鳥《ことり》ちゃん、みんなでここへとんできて、あたしのお豆ひろいの、お手つだいをしてちょうだい。 [#ここから4字下げ] いいお豆は つぼのなか いけないお豆は 餌《え》ぶくろに。」 [#ここで字下げ終わり]  その声をききつけて、たちまち、白い小バトが二|羽《わ》、台所《だいどころ》からはいってきました。つづいて、山バトが、いく羽もいく羽もはいってきました。そのうちに、バタバタ、バタバタ、羽《はね》の音をたてながら、空の下の小鳥が一羽のこらずあつまってきて、灰のまわりにおりたちました。  小バトたちはかわいい頭をさげて、こつこつこつとやりだしました。すると、ほかの鳥たちも、みんなこつこつこつとやりだしました。そして、いいほうの豆つぶは、ひとつのこらずおさらのなかにひろいいれました。  こうして、三十分とはたたないうちに、みんなは灰《はい》のなかからすっかり豆《まめ》つぶをひろいだして、またおもてへとびだしていきました。そこで女の子は大よろこびで、おさらをまま母のところにもっていきました。そして、こんどこそ、宴会《えんかい》へつれていってもらえるものと思っていました。ところが、まま母は、 「なにをしたって、おまえはだめだよ。おまえなんかいっしょにつれていけやしない。だって、着物《きもの》もなけりゃ、おどりもできないじゃないか。おまえをつれていったりすれば、わたしたちがはじをかくにきまっているよ。」  こういいおわると、まま母はくるりとむこうをむいて、高慢《こうまん》ちきなふたりのむすめをつれて、さっさといってしまいました。  うちにだれもいなくなりますと、灰《はい》かぶりはおかあさんのお墓《はか》のハシバミの木の下へいって、大きな声でよびかけました。 [#ここから4字下げ] ねえ ハシバミさん ゆれてうごいて 金《きん》と銀《ぎん》とをおとしてちょうだいな [#ここで字下げ終わり]  すると、いつもの鳥が、金と銀の糸で織《お》った着物と、絹糸《きぬいと》と銀の糸でぬいとりした上《うわ》ぐつとをおとしてくれました。女の子は、おおいそぎで着物をきかえて、宴会《えんかい》へでかけていきました。  でも、ねえさんたちにも、まま母にも、これが灰《はい》かぶりだとはわかりません。たぶん、どこかよその国のお姫《ひめ》さまだろうと思っていました。金《きん》の着物《きもの》をきた灰《はい》かぶりはそれほど美しく見えたのです。  三人は、これが灰かぶりだとは夢《ゆめ》にも考えてみませんでした。いまごろ、あの灰かぶりはうちで、きたないもののなかにすわって灰のなかから豆《まめ》でもさがしているだろうと思っていたのです。  灰《はい》かぶりのすがたを見ますと、王子《おうじ》はさっそくむかえにでて、その手をとって、いっしょにおどりはじめました。そして、ほかのものとはだれともおどろうとはしませんでした。ですから、王子はいちどとった灰かぶりの手を、いつまでもはなしませんでした。だれかほかのものがやってきて、灰かぶりといっしょにおどりたいといっても、王子は、 「このひとはぼくの相手《あいて》だよ。」 と、いって、ことわりました。  おどっているうちに、日がくれましたので、灰《はい》かぶりはうちにかえろうとしました。すると王子は、 「ぼくがいっしょにおくっていってあげよう。」 と、いいだしました。  というわけは、王子は、この美しいむすめがどこのむすめなのか、知りたかったのです。でも、灰かぶりは王子のそばをうまくすりぬけて、ハト小屋《ごや》にとびこみました。  王子がそとで待《ま》っていますと、やがて、灰かぶりのおとうさんがでてきました。そこで、王子はおとうさんに、いまよそのむすめがこのハト小屋《ごや》にとびこんだ、と、おしえてやりました。その話をきいて、おとうさんは、 (いまはいったのなら、それは灰《はい》かぶりのはずだが。) と、思いました。  そこで、おとうさんはおのとなた[#「なた」に傍点]をもってこさせて、ハト小屋をまっぷたつにたたきわってみました。でも、なかにはだれひとりおりません。  それから、みんながうちのなかへはいってきますと、灰かぶりはいつものよごれた着物《きもの》をきて、灰のなかにねころんでいました。そして豆《まめ》ランプがひとつ、煙出《けむだ》しのなかでぼんやりともっていました。つまりそれは、こういうわけだったのです。灰かぶりは、ハト小屋のなかにとびこみましたが、すばやく小屋のうしろからとびだして、あのハシバミの木の下へかけていったのでした。そこで、きれいな着物《きもの》をぬいで、お墓《はか》の上におきますと、いつもの鳥がそれをどこかへもっていってしまったのでした。いっぽう、灰かぶりは、それから、ネズミ色のいつものうわっぱりをきて、台所《だいどころ》へはいって、灰のなかにもぐりこんでいたのです。  そのつぎの日にも、また宴会《えんかい》がもよおされました。おとうさんとおかあさんと、それに、ふたりのねえさんたちがでかけてしまいますと、灰かぶりは、さっそく、ハシバミの木のところへいって、よびかけました。 [#ここから4字下げ] ねえ ハシバミさん ゆれてうごいて 金《きん》と銀《ぎん》とをおとしてちょうだいな [#ここで字下げ終わり]  すると、いつもの鳥が、きのうよりも、ずっとずっとりっぱな着物《きもの》をなげおとしてくれました。灰《はい》かぶりがこの着物をきて、宴会《えんかい》の席《せき》にあらわれますと、だれもかれもがその美しさにあっとおどろいてしまいました。  ところで、王子《おうじ》は、灰かぶりのくるのをずっと待《ま》っていました。ですから、灰かぶりのすがたを見ますと、すぐにその手をとって、灰かぶりとばかりおどりつづけました。だれかほかのものがやってきて、灰かぶりといっしょにおどりたいといっても、王子は、 「これはぼくの相手《あいて》だよ。」 と、いって、ことわりました。  そのうちに、日がくれましたので、灰《はい》かぶりはうちにかえろうとしました。すると、王子はあとからついていって、灰かぶりがどこのうちにはいるか見ようとしました。  ところが、灰かぶりは、王子のそばからすばやくにげだして、うちのうしろの庭《にわ》のなかにとびこみました。  庭には美しい大きな木が一本はえていて、それには、まことにみごとなナシの実《み》がなっていました。灰《はい》かぶりはリスのようにすばしこく、この木によじのぼって、たちまち、枝《えだ》と枝とのあいだにかくれてしまいました。そのため、王子《おうじ》には、灰かぶりがどこへいってしまったのやら、わからなくなりました。  でもそこで待《ま》っていますと、やがて、灰《はい》かぶりのおとうさんがやってきました。そこで、おとうさんに、王子《おうじ》はいいました。 「よそのむすめが、ぼくのところからにげだして、あのナシの木の上にとびあがってしまったらしい。」  それをきいて、おとうさんは、 (木の上にとびあがったのなら、それは灰《はい》かぶりのはずだが。) と、思いました。  そこで、おのをもってこさせて、その木を切りたおしました。けれども、木の上にはだれもいませんでした。  それから、みんなが台所《だいどころ》にはいってきますと、灰かぶりは、いつものように、灰のなかにねころんでいました。  じつをいうと、それはこういうわけなのです。つまり、灰かぶりは木のむこうがわにとびおりて、ハシバミの木の上のいつもの鳥に、きれいな着物《きもの》をかえしておいて、じぶんは、ネズミ色のいつものうわっぱりにきかえていたのでした。  三日めにも、おとうさんとまま母が、ねえさんたちをつれてでかけてしまいますと、灰《はい》かぶりは、またおかあさんのお墓《はか》のところへいって、ハシバミの木によびかけました。 [#ここから4字下げ] ねえ ハシバミさん ゆれてうごいて 金《きん》と銀《ぎん》とをおとしてちょうだいな [#ここで字下げ終わり]  すると、いつもの鳥が着物《きもの》をなげおとしてくれました。ところが、その着物ときたら、目もさめるように美しくて、きらびやかで、それこそ、まだだれもきたことのないようなものでした。それに、上《うわ》ぐつはぜんぶ金《きん》でできているというすばらしさです。  ですから、灰《はい》かぶりがこの着物をきて、宴会《えんかい》の席《せき》へあらわれたときには、だれもかれもが、ただただおどろきあきれるばかりで、なんといったらいいのか、わからないくらいでした。  王子《おうじ》は、灰かぶりとばかり、ずっとおどりつづけました。だれかがやってきて、灰かぶりといっしょにおどりたいといっても、王子は、 「このひとはぼくの相手《あいて》だよ。」 と、いって、ことわりました。  そのうちに、日がくれましたので、灰《はい》かぶりはかえろうとしました。もちろん、王子はあとからついていくつもりでした。ところが、灰かぶりがあんまりすばやくにげてしまいましたので、とうとう、あとからついていくことができませんでした。  でも、王子は、きょうは計略《けいりゃく》をめぐらして、階段《かいだん》じゅうにチャンというべたべたする薬《くすり》をぬらせておきました。そのため、灰かぶりが階段にとびおりたとたん、左の上ぐつがべったりとチャンにくっついて、そのままあとにのこってしまいました。  王子がそのくつをとりあげてみますと、それはちっちゃくて、きれいで、ぜんぶ金でできていました。  そのつぎの朝、王子《おうじ》はそのくつをもって、あの金持《かねも》ちの男のところへいきました。そして、 「この金《きん》のくつがぴったり足にあう女を、ぼくは妻《つま》にしたいのだ。」 と、いいました。  それをきいて、ふたりのきょうだいはよろこびました。だって、ふたりともきれいな足をしていましたからね。  まず、ねえさんのほうが、そのくつをもってへやのなかにはいり、ためしてみようとしました。まま母もそのそばに立っていました。  ところが、足の指が大きすぎるために、どうしてもはいりません。だいいち、くつぜんたいが小さすぎます。そのようすを見て、まま母はほうちょうをわたしながら、 「足の指なんか、切ってしまいなさいよ。お妃《きさき》さまになれば、もう足で歩くこともなくなるからね。」 と、いいました。  むすめは足の指を切りおとして、くつのなかに、むりやりに足をおしこみました。そして、いたいのをやっとがまんしながら、へやをでて、王子《おうじ》のところへいきました。  そこで、王子はこのむすめを花よめとして馬にのせ、いっしょにそこをでかけました。ところが、ふたりは、あのお墓《はか》のそばをとおっていかなければなりませんでした。すると、ハシバミの木にとまっていた二|羽《わ》のハトが、 [#ここから4字下げ] ちょいとうしろを見てごらん ちょいとうしろを見てごらん くつのなかは血《ち》がいっぱい だってくつがちいちゃすぎるもの ほんとのよめさん うちにいる [#ここで字下げ終わり] と、よびかけました。  こういわれて、王子《おうじ》がむすめの足もとを見ますと、なるほど、血がそとまでながれでています。  王子はすぐさま馬のむきをかえて、にせの花よめを、またうちへつれていきました。そして、 「このむすめはほんものではないから、もうひとりのきょうだいにくつをはかせてみなさい。」 と、いいました。  そこで、こんどは、妹のほうがへやのなかにはいりました。うまいぐあいに、足の指はくつのなかにはいりましたが、かかと[#「かかと」に傍点]が大きすぎます。そのようすを見ますと、まま母がほうちょうをわたして、いいました。 「かかとのすこしぐらい、切ってしまいなさいよ。お妃《きさき》さまになれば、もう足で歩くこともなくなるからね。」  むすめはかかとをすこし切りとって、くつのなかに、足をむりやりにおしこみました。そして、いたいのをやっとがまんしながら、へやをでて、王子《おうじ》のところへいきました。  そこで、王子はこのむすめを花よめとして馬にのせ、いっしょにでかけていきました。ふたりがハシバミの木のそばをとおりかかりますと、木の枝《えだ》にハトが二|羽《わ》とまっていて、 [#ここから4字下げ] ちょいとうしろを見てごらん ちょいとうしろを見てごらん くつのなかは血《ち》がいっぱい だってくつがちいちゃすぎるもの ほんとのよめさん うちにいる [#ここで字下げ終わり] と、うたいました。  いわれて、王子がむすめの足を見おろしますと、なるほど、くつから血がながれでて、しかも、白いくつしたが上のほうまでまっかにそまっています。  そこで、王子はすぐさま馬のむきをかえて、にせの花よめをまた家へつれていきました。 「このむすめもほんものではない。もう、ほかにむすめはないのかね。」 と、王子はいいました。 「ございません。」 と、お金持《かねも》ちの男がいいました。 「もっとも、なくなりました家内《かない》がのこしていったむすめがひとりおりますが、これは発育《はついく》もおくれておりまして、いつも灰《はい》だらけのきたないかっこうをしております。とても、花よめになれるようなものではございません。」  すると、王子《おうじ》は、 「そのむすめをここへつれてきなさい。」 と、いいました。  ところが、まま母は、 「まあ、とんでもないことでございます。とてもきたなすぎて、こちらへつれてまいれるようなものではございません。」 と、もうしました。  けれども、王子がどうしても見たいというので、とうとう灰かぶりがよびだされることになりました。それで、灰かぶりは、まず両手と顔とをきれいにあらいました。それから、でてきて、王子のまえでおじぎをしました。  王子は灰かぶりに金《きん》のくつをわたしました。そこで、灰かぶりは足台《あしだい》にこしかけて、おもたい木ぐつから足をぬきだして、上《うわ》ぐつにいれてみました。ところが、どうでしょう。くつはぴったりと灰かぶりの足にあっています。  それから、灰かぶりは立ちあがりました。王子がその顔を見ますと、それこそ、じぶんといっしょにおどった、あの美しいむすめではありませんか。それで、王子は思わず大きな声をだして、 「これがほんとうの花よめだ。」 と、いいました。  まま母とふたりのきょうだいは、びっくりしました。そして、くやしさのあまり、まっさおになりました。  けれども王子《おうじ》は、そんなことにはおかまいなく、灰《はい》かぶりを馬にのせて、いっしょにでかけました。ふたりがハシバミの木のそばをとおりかかりますと、二|羽《わ》の白いハトが声をそろえて、 [#ここから4字下げ] ちょいとうしろを見てごらん ちょいとうしろを見てごらん くつのなかには血《ち》がないよ くつはちいちゃすぎないもの こんどは ほんとの花よめつれていく [#ここで字下げ終わり] と、うたっていました。ハトは、こううたってから、二羽ともまいおりてきて、灰《はい》かぶりの肩《かた》の上にとまりました。一羽は右に、一羽は左に。そして、そのまま、ずっとそこにとまっていました。  いよいよ灰かぶりと王子との婚礼《こんれい》がおこなわれることになりました。そのとき、にせの花よめになった、ふたりのきょうだいがやってきて、さかんにおせじをふりまきました。こうして、ふたりは灰かぶりのしあわせを、わけてもらおうと思ったのです。  花よめ、花むこが教会《きょうかい》へいくときには、ねえさんのほうは右がわに、妹のほうは左がわにつきそって歩いていきました。すると、二|羽《わ》のハトがとんできて、きょうだいの目玉を、ひとつずつ、つつきだしてしまいました。  それから、式がすんででてきたときには、ねえさんのほうは左がわに、妹のほうは右がわにつきそっていました。すると、二羽のハトが、きょうだいのもうひとつずつのこっている目玉をつつきだしました。  こんなわけで、ふたりのきょうだいは、いじわるをしたり、にせの花よめになったりしたばちがあたって、一生《いっしょう》目が見えませんでした。 底本:「グリム童話集(1)」偕成社文庫、偕成社    1980(昭和55)年6月1刷    2009(平成21)年6月49刷 ※表題は底本では、「灰《はい》かぶり」となっています。 入力:sogo 校正:チエコ 2021年8月28日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。