心のゆくところ(一幕) THE LAND OF HEART'S DESIRE ウイリヤム・バトラ・イエーツ 松村みね子訳 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)彼女《あれ》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定    (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数) (例)𢌞 ------------------------------------------------------- [#ページの左右中央] [#ここから2字下げ] 人[#「人」は1段階大きな文字] [#ここから3字下げ] マアチン・ブルイン  [#1段階小さな文字]父[#小さな文字終わり] ブリヂット・ブルイン [#1段階小さな文字]母[#小さな文字終わり] ショオン・ブルイン  [#1段階小さな文字]マアチンの子[#小さな文字終わり] メリイ・ブルイン   [#1段階小さな文字]ショオンの妻[#小さな文字終わり] 神父ハアト フェヤリイの子供 遠いむかし アイルランド、スリゴの地、キルマックオエンの領内にあったこと [#ここで字下げ終わり] [#改ページ] [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] 部屋の右の方に深い凹間がある、凹間の真中に炉。凹間には腰掛とテイブルあり、壁に十字架像がある。炉の火の光で凹間の中が明るい。左手に戸口、戸があいている、その左に腰掛。戸口から森が見える。よるではあるが、月かあるいは夕日の消え残ったうすあかりか樹々のあいだにほのかなひかりがあって、見る人の眼をとおくのぼんやりした不思議な世界にみちびく。マアチンとショオンとブリヂットの三人が凹間のテイブルの側や火の側に腰かけている。古いむかしの服装。その側に神父ハアト腰かけている。僧服をつけて。テイブルの上に食物と酒。  若き妻メリイ戸のそばに立って本を読んでいる。彼女が本から眼をあげて見れば戸口から森の中まで見えるのである。 [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] [#改ページ] ブリヂット [#ここから4字下げ] 夕食の支度に鍋を洗えといいますと 屋根うらからあんな古い本を出して来ました それから読みつづけております。 神父様、彼女《あれ》をほかの人たちのように働かせましたら どんなに苦しがったり泣いたりいたしましょう わたしのように夜明から起きて縫いものをしたり掃除をしたり また、あなたのように尊いお器と聖いパンをお持ちになって あらい夜も馬でお歩きになる、そのようにしろといいましたら [#ここで字下げ終わり] ショオン [#4字下げ]お母さん、あなたはやかまし過ぎる ブリヂット [#ここから4字下げ] お前は夫婦だから 彼女《あれ》の気に逆うまいと思って、彼女《あれ》の味方ばかりする [#ここで字下げ終わり] マアチン [#1段階小さな文字](神父ハアトに[#「ハアトに」は底本では「ハトアに」]向って)[#小さな文字終わり] [#ここから4字下げ] 若いものが若い者の味方をするのは当前で 彼女《あれ》は時々わたしの家内と喧嘩もやります 今はあのとおり古い本に夢中になっていますが しかしあまりお叱り下さるな、彼女《あれ》もいまに 木に生えたやぶだまのように静かになりましょう 新婚の夜の月が夜明になりやがて消えて それを十遍もくり返しているうちには [#ここで字下げ終わり] ハアト [#ここから4字下げ] 彼等の心は荒い 鳥どもの心と同じように、子供が生れるまでは [#ここで字下げ終わり] ブリヂット [#ここから4字下げ] 薬缶の湯を入れるでもなし、牛の乳をしぼるではなし 食事の支度の切れをかけたりナイフを並べることもしません [#ここで字下げ終わり] ショオン [#4字下げ]お母さん、もし―― マアチン [#ここから4字下げ] これには半分しか酒がないよ、ショオン、 行って家にある一ばん良い酒の壜を持って来てくれ [#ここで字下げ終わり] ハアト [#ここから4字下げ] いままで彼女《あれ》が本を読んでるのを見たことはなかったが 何の本だろう [#ここで字下げ終わり] マアチン [#1段階小さな文字](ショオンに)[#小さな文字終わり] [#ここから4字下げ] 何を待っているのだ 口をあけるとき壜を振ってはいけない 大切な酒だ、気をつけておくれ[#1段階小さな文字](ショオン行く)[#小さな文字終わり] [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (神父に向って) [#ここで小さな文字終わり] [#ここから4字下げ] オクリスの岬でスペイン人が難船したことがありました わたしの若い時のことですが、まだその時の酒が残っています 倅は彼女《あれ》の悪くいわれるのを聞いていられないと見えます。あの本は この五十年来、屋根うらに置いてあったのです わたしの父の話では祖父《じじい》がそれを書いたのだそうで 牡犢を殺してその皮で本のおもてを拵えたのだそうです―― 夕食の支度が出来ました、食べながらお話しましょう 祖父《じじい》はあの本のために何もよい事は来なかったようです 家のなかは、旅の胡弓ひきや 旅の唄うたいの人たちでいっぱいになりました そこにあなたの前に焼パンがあります。 むすめや、どんな不思議な事がその本にあるのだい パンがつめたくなるまで夢中で読んでいるほどの? もしわたしや わたしのおやじがそんな本を読んだり書いたりしていたらば わたしが死んだあと、黄ろい金貨《かね》のいっぱい詰まった靴足袋を ショオンやお前に残してやることは出来なかったろう [#ここで字下げ終わり] ハアト [#ここから4字下げ] ばからしい夢を頭に入れてはいけないよ 何を読んでいるのだい [#ここで字下げ終わり] メリイ [#ここから4字下げ] 王女イデーンという アイルランドの王のむすめが、きょうと同じ 五月祭の前の夜、誰かのうたってる歌の声をききました 王女は覚めてるような眠ってるような気持でその声を追って フェヤリイの国に行きました その国はだれも年とったりしかつめらしくなったり真面目になったりしない だれも年とったりずるくなり賢くなったりしない だれも年とったり口やかましくなったりしない国なのです 王女はまだ今でもそこにいていつも踊っているそうです 森の露ふかい蔭や 星の歩く山のいただきで [#ここで字下げ終わり] マアチン [#ここから4字下げ] その本を捨てるようにむすめにおっしゃって下さい わたしの祖父《じじい》はちょうど同じような事をいっていました それで犬や馬を見分ける眼も持たず どんななまけ者の若い衆のお世辞にものせられました あなたのお考えをあれにおっしゃって下さい [#ここで字下げ終わり] ハアト [#ここから4字下げ] むすめよ、その本は捨てておしまい 神はわれわれの上に天を大きな翼のようにお拡げなされ 生きて暮してゆく日の小さなくりかえしをお与え下さる そこに、堕された天使《つかい》たちが来て罠をかけて 愉快な希望や真実らしい夢で人を釣るのだ 釣られた者の心は誇りにふくらんで おそれたり喜んだりして神の平和から離れて行く それは堕されて、涙に目のくもった天使《つかい》たちの一人であったろう そのイデーンの心に楽しい言葉でとり入ったのは むすめよ、わしは心の落ちつかない苛々した 娘たちを見たこともあるが、年つきが過ぎて かれらも隣近所の人たちと同じようになり、よろこんで 子供たちの世話をしたりバタを拵えたり 婚礼や通夜の噂ばなしをするようになってしまった 人のいのちは夢の赤い輝きから出て 平凡な月日の平凡なひかりの中にはいってゆくのだ 老年がふたたびその赤い輝きを持って来てくれるまで [#ここで字下げ終わり] マアチン [#4字下げ]それは本当です――しかしそれが本当だとは、彼女《あれ》のような若いものには分かりません ブリヂット [#ここから4字下げ] 遊んだりなまけたりしているのが 悪いということぐらいは分かる年齢《とし》です [#ここで字下げ終わり] マアチン [#ここから4字下げ] わたしは彼女《あれ》をとがめはしません 倅が畑に出ていると彼女《あれ》はぼんやりしているようです それと、あるいは家内の口小言に追われて 彼女《あれ》は自分の夢のなかに隠れるようになったのでしょう 子供たちが夜具の中に暗黒《くらさ》から隠れるように [#ここで字下げ終わり] ブリヂット [#4字下げ]彼女《あれ》は何一つしやしませんわたしが黙っていたらば マアチン [#ここから4字下げ] こういう五月祭の前の夜、フェヤリイの世界の人たちのことを 考えるのは自然かも知れない。それはそうと、むすめよ 祝福《いわい》の山櫨子《さんざし》の枝があるか 家のなかに幸運が来るようにと 女のひとたちが入口の柱にかける山櫨子の枝は 五月祭の前夜の日がくれては フェヤリイは新しくよめいりした花嫁でも盗みに来るかも知れない 炉辺で年寄の女たちの話すことは うそばかりでもあるまいから [#ここで字下げ終わり] ハアト [#ここから4字下げ] それは本当のことかも知れない 神がなにかの不思議な目的のために 魔の霊どもにどれだけの力をお許しおきなさるかは 我等には分らない。それがよろしい[#1段階小さな文字](メリイに)[#小さな文字終わり] むかしからの罪のない習慣は守る方がよろしい [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (メリイ・ブルイン山櫨子の枝を腰掛から取り上げて入口の柱の釘にかける。見なれない服装の、不思議なみどり色の衣を着た女の子が森から来てその枝を取る) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] メリイ [#ここから4字下げ] あの枝を釘にかけるが早く 子供が風のなかから駈けて来て 枝を取っていじっています 夜明の前の水のように青い顔をした子供です [#ここで字下げ終わり] ハアト [#4字下げ]どこの子供だろう マアチン [#ここから4字下げ] 何処の子でもないでしょう 彼女《あれ》は時々たれかが通ったように思うのです 風がひと吹き吹いただけでも [#ここで字下げ終わり] メリイ [#ここから4字下げ] 祝福《いわい》の山櫨子の枝を取って行ってしまったから ここの家《うち》には幸運《さいわい》は来ないかもしれない でもわたしはあの人たちに親切にしてやって嬉しい あの人たちも、やっぱり、神の子供たちでしょう [#ここで字下げ終わり] ハアト [#ここから4字下げ] むすめよ、彼等は悪魔の子供たちだよ 彼等は最後の日まで力を持っている 最後の日に神は彼等と大なる戦いをなされて 彼等をこなごなにお砕きなさるだろう [#ここで字下げ終わり] メリイ [#ここから4字下げ] 神は微笑《ほほえみ》なさるかも知れません [#ここで字下げ終わり] ハアト [#ここから4字下げ] そして神父様、神は天の戸を開けておやりになるかも知れません 悪の天使《つかい》たちはその戸を見るだけで 無限の平和に打れて亡びるだろう その天使《つかい》たちがわれわれの戸を叩く時 いでて彼等と共に行くものはおなじ暴風の中も彼等と共に行かなければならぬ [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (瘠せて[#「(瘠せて」は底本では「瘠せて」]老人じみた手が柱のかげから出て叩いたり手招きしたりする。それが銀いろの光にはっきり見える。メリイ・ブルイン戸口に行きその光の中に暫らく立っている。マアチン・ブルインは神父の皿に何か盛るのに忙しい。ブリヂット・ブルイン火をいじる) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] メリイ  [#1段階小さな文字](テイブルの方に来る)[#小さな文字終わり] [#ここから4字下げ] だれか外にいてわたしを手招きしています 杯でも持ってるように手をあげて 飲む手つきをします、きっと 何か飲みたいのでしょう [#ここから1段階小さな文字] (テイブルから乳を取って戸口に持ってゆく) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] ハアト [#4字下げ]何処の子でもあるまいとお前がいったその子供だろう ブリヂット [#ここから4字下げ] それでも神父様、この人のいうことは本当かも知れません 一年のうちに二度とはございません 今夜のように悪い晩は [#ここで字下げ終わり] マアチン [#ここから4字下げ] 何も悪いことが来る筈はない 神父様がうちの屋根の下にいて下さるあいだは [#ここで字下げ終わり] メリイ [#4字下げ]みどり色の着物を着た小さい奇妙な年寄の女です ブリヂット [#ここから4字下げ] フェヤリイの人たちも乳と火を貰いに歩くといいます 五月祭の前夜《よみや》には――それをやった家は災難です 一年のあいだその家はフェヤリイの力の下にあるといいます [#ここで字下げ終わり] マアチン [#4字下げ]黙って、黙っていなさい ブリヂット [#ここから4字下げ] 彼女《あれ》は乳をやってしまった わたしは彼女《あれ》がこの家に悪いことを持って来るだろうと思っていた [#ここで字下げ終わり] マアチン [#4字下げ]どんな人だった メリイ [#4字下げ]言葉も顔つきも異《かわ》っていました マアチン [#ここから4字下げ] 前の週にクロオバア・ヒルに外国の人たちが来たそうだ その女はその人たちの一人かもしれない [#ここで字下げ終わり] ブリヂット [#4字下げ]わたしは恐ろしい ハアト [#ここから4字下げ] 十字架があすこにかかっているあいだは どんなわざわいもここの家には来ない [#ここで字下げ終わり] マアチン [#ここから4字下げ] むすめよ、ここに来てわたしの側におかけ 物たりなさの夢は忘れてくれ わたしはお前に自分の老年を明るくしてもらいたいのだ その泥炭《すみ》の燃えてるように明るく。わたしが死ねば お前はこの辺いちばんの金持になれる、むすめよ わたしは黄ろい金貨のいっぱい詰まった靴足袋を 誰も見つけ出せないところに隠して持っているのだよ [#ここで字下げ終わり] ブリヂット [#ここから4字下げ] お前は綺麗な顔には直ぐだまされる わたしは物惜しみをしたりけちにしなければならないのか、倅のよめが いろいろなリボンを頭につけるために [#ここで字下げ終わり] マアチン [#ここから4字下げ] 腹を立てるな、彼女《あれ》はまったくいい娘だ バタはあなたのお手の側に、神父様 むすめよ、運も時も変《かわり》も わたしとそこにいるブリヂット婆さんのためにはうまく行ったと思わないか わたしらはよい田地の百エーカアも持っている そして火のそばに並んで腰かけている ありがたい神父さまを自分の友だちにし お前の顔を見、倅の顔も見ていられる―― あれの皿をお前の皿の側に置いたよ――そら、あれが来た そしてわれわれがたった一つ不足にしていたものを持って来てくれた 好い酒をたくさん [#1段階小さな文字](ショオン登場)[#小さな文字終わり]火を掻き立ててくれ 燃え上がるように新しい泥炭《すみ》を入れて 火からうず巻いてのぼる泥炭《すみ》の煙をながめ 心に満足と智慧を感じる これが人生の幸福だ、われわれ若いときは 前にだれも蹈んだことのない道を蹈んで見たがるものだ しかし尊い古い道を愛のなかから 子を思う心の中から見つけ出す、そしてその道を行くのだ 運と時と変《かわり》とにさよならを言うときまで [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (メリイ炉から泥炭の一塊を取り戸口から外に出る、ショオン彼女の後に行き、内にはいって来る彼女と会う) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] ショオン [#ここから4字下げ] あのうすら寒い森に何しに行ったのだ 樹の幹と幹のあいだに光がある 身ぶるいがするような光が [#ここで字下げ終わり] メリイ [#ここから4字下げ] 小さな変な年よりが わたしに手真似をして火が欲しいというんです 煙草を吸うために [#ここで字下げ終わり] ブリヂット [#ここから4字下げ] お前は乳と火をやったね 一年じゅうのいちばん悪い晩に、そしてきっと この悪に家い[#「この悪に家い」はママ]ことを来させるのだろう 結婚前にはお前はなまけもので上品で 頭にリボンをつけて歩き𢌞っていた そして今――いいえ、神父様、いわせて下さいまし これは誰の女房にもなれる人ではないんです [#ここで字下げ終わり] ショオン [#4字下げ]静かにしないか、お母さん マアチン [#4字下げ]お前は気むずかし過ぎるよ メリイ [#ここから4字下げ] わたしは構いはしません、もしこの家を 一日じゅうにがい言葉ばかり聞かせられる この家をフェヤリイの力に陥しいれたところで [#ここで字下げ終わり] ブリヂット [#ここから4字下げ] お前もよく知ってる筈だ あの人たちの名を呼び あの人たちの噂をするだけでも その家にいろいろな災難の来るということは [#ここで字下げ終わり] メリイ [#ここから4字下げ] おいで、フェヤリイよ、このつまらない家からわたしを連れ出しておくれ わたしの失くしたすっかりの自由をまた持たせておくれ 働きたい時にはたらき遊びたい時に遊ぶ自由を フェヤリイよ、来てわたしをこのつまらない世界から連れ出しておくれ わたしはお前たちと一緒に風の上に乗って行きたい みだれ散る波のうえを駈けあるき 火焔のように山の上でおどりたい [#ここで字下げ終わり] ハアト [#4字下げ]お前は自分の言葉の意味が分らないのだ メリイ [#ここから4字下げ] 神父様、わたしは四つの言葉にあきあきしました あんまりこすいあんまり賢い言葉と あんまりありがたいあんまり真面目すぎる言葉と 海の潮よりもっとにがい言葉と ねぶたい愛に充ちた、ねぶたい愛とわたしの牢屋の話ばかりする 親切な言葉に、あきあきしました [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (ショオン彼女を戸口の左の席につれてゆく) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] ショオン [#ここから4字下げ] わたしのことを怒らないでおくれ、わたしはたびたび夜中に目をさましていて お前の美しい頭をかき乱すいろいろな事を考えて見る うつくしいね――雲みたいにぼやけた髪の毛の下の ひろい真白なお前の額は わたしの側におすわり――あの人たちは年をとりすぎているのだ 一度は自分たちも若かったということを忘れている [#ここで字下げ終わり] メリイ [#ここから4字下げ] ああ、あなたはこの家の大きな門柱です そしてわたしは祝福《いわい》の山櫨子の枝 もし出来ることならわたしは自分をあの柱の上にかけて この家に幸運を来させたいとおもいます [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (腕をショオンの身にかけようとして恥かしそうに神父の方を見て、力なく手を垂れる) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] ハアト [#ここから4字下げ] むすめよ、その手を持っておやり――ただ愛によって 神は我々を神と家とに結んで下さる 神の平和の届かない荒野の 狂わしい自由と目もくるめく光からわれわれを隔てて下さる [#ここで字下げ終わり] ショオン [#ここから4字下げ] この世界がわたしの物であったら、世界もお前にやりたい 静かな炉辺ばかりでなく、その上に 光と自由のすべてのまぶしさも もしお前が欲しければ、お前にやりたい [#ここで字下げ終わり] メリイ [#ここから4字下げ] わたしは世界を持って それをわたしの両手でこなごなに砕いて そのくずれて行くのを眺めてあなたが微笑《わら》うのを見たい [#ここで字下げ終わり] ショオン [#ここから4字下げ] そしたら、わたしは火と露との新しい世界を造りたい にがい心のものも真面目なものも賢すぎるものもない お前の邪魔をする醜いものも年とったものもいない世界を そして空の静かな歓喜《よろこび》に蝋燭を立てつづけて お前のさびしい顔を照らして見たい [#ここで字下げ終わり] メリイ [#4字下げ]あなたのお眼があれば、わたしにはほかの蝋燭は入りません ショオン [#ここから4字下げ] 前には、日の線のなかに飛ぶ羽虫も あかつきの中から吹く微風も お前の心をだれも知らない夢で充すことが出来た しかし今は、解きがたい聖い誓いが 気高くつめたいお前の心を永久に わたしの温い心と交ぜてしまった。日も月も 消えて天が巻物のように巻き去られるときも お前の白い霊はやっぱりわたしの霊のそばに歩いて行くだろう [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (森の中にうたう声する) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] マアチン [#ここから4字下げ] だれか歌っているようだ。子供のようだ 「さびしい心の人が枯れる」とうたっている 子供がうたうには不思議な歌だ、だが好い声でうたっている お聞き、お聞き [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (戸口に行く) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] メリイ [#ここから4字下げ] どうかわたしをしっかり抑えていて下さい 今夜わたしは悪いことを言いましたから [#ここで字下げ終わり] 声   [#1段階小さな文字](うたう)[#小さな文字終わり] [#ここから6字下げ] 日の門から風がふく さびしい心の人に風が吹く さびしい心の人が枯れる そのときどこかでフェヤリイがおどる しろい足を輪に踏み しろい手を空に振って 老人もうつくしく かしこいものもたのしく物いう国があると わらいささやきうたう風をフェヤリイはきく クラネの蘆がいう 風がわらいささやきうたう時 さびしいこころの人が枯れる [#ここで字下げ終わり] マアチン [#ここから4字下げ] 自分が幸福だから、わたしはほかの人も幸福にしてやりたい あの子をそとの寒いとこから内に入れよう [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (フェヤリイの子を内に連れて来る) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] 子供 [#4字下げ]風と水と青い光に、あたしあきあきしました マアチン [#ここから4字下げ] それももっともだ、夜が来れば 森はさむくて路も分からない ここにいるがいいよ [#ここで字下げ終わり] 子供 [#ここから4字下げ] ここにいます あたしがこの温かい小さい家に倦きる時分には ここに一人出てゆく人がありますよ [#ここで字下げ終わり] マアチン [#ここから4字下げ] あの夢のような不思議な話を聞いてやれ さむくはないかい [#ここで字下げ終わり] 子供 [#ここから4字下げ] あたしあなたの側でやすみましょう 今夜とおい遠い路を駈けて来たの [#ここで字下げ終わり] ブリヂット [#4字下げ]お前は美しい子だね マアチン [#4字下げ]お前の髪は濡れている ブリヂット [#4字下げ]お前の冷たい足を温ためて上げよう マアチン [#ここから4字下げ] お前はほんとうに遠い 遠いとこから来たのだろう――お前の美しい顔を わたしは前に見たことがない――疲れてひもじいだろう ここにパンと葡萄酒があるよ [#ここで字下げ終わり] 子供 [#ここから4字下げ] おばあさん、何かあまい物はないの 葡萄酒はにがいわ [#ここで字下げ終わり] ブリヂット [#ここから4字下げ] 蜂蜜がある [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (ブリヂットとなりの部屋にゆく) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] マアチン [#ここから4字下げ] お前は機嫌をとるのがうまいな お婆さんは機嫌がわるかったよ、お前が来るまで [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (ブリヂット蜂蜜を持って戻って来て茶椀に乳を充たす) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] ブリヂット [#ここから4字下げ] いい家の子供だろう、ごらん この白い手と綺麗な着物を わたしは新しい乳をお前に持って来て上げたよ、だがすこしお待ち 火にかけてあたためて上げよう わたしたち貧乏人にはおいしい物でも お前のようないい家の子供には気に入るまい [#ここで字下げ終わり] 子供 [#ここから4字下げ] 夜明から起きて、火を吹きおこして お前は手の指の折れるまで働くのね、お婆さん 若い人たちは床にいて夢を見たり希望を持ったりできるけれど お前は指の折れるまで働くのね お前の心が年をとっているから [#ここで字下げ終わり] ブリヂット [#4字下げ]若いものはなまけものだよ 子供 [#ここから4字下げ] おじいさん、お前は年の功で利口ねえ 若いものは夢や希望のために溜息をつくけれど お前は利口ね、お前の心が年をとっているから [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (ブリヂット彼女にもっとパンと蜜を与える) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] マアチン [#ここから4字下げ] 珍らしいことだな、こんな若いむすめが 年よりや智慧者を大事がるのは [#ここで字下げ終わり] 子供 [#4字下げ]もう沢山よ、おばあさん マアチン [#ここから4字下げ] ぽっちりしか食べないな! 乳が出来た [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (乳を彼女に渡す) [#ここで小さな文字終わり] [#ここから4字下げ] ぽっちりしか飲まないね [#ここで字下げ終わり] 子供 [#ここから4字下げ] 靴をはかせて頂戴、おばあさん あたし食べたから今度は踊りたいの クラネの湖のそばで蘆も踊っているのよ 蘆も白い波も踊りつかれて眠ってしまうまで あたしも踊っていたい [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (ブリヂット靴をはかせる。子供は踊ろうとして不意に十字架像を見つける。叫んで眼を覆う) [#ここで小さな文字終わり] [#ここから4字下げ] あの黒い十字架の上のいやなものは何 [#ここで字下げ終わり] ハアト [#ここから4字下げ] お前はたいへん悪いことを言ってるんだよ あれはわれわれのおん主なのだ [#ここで字下げ終わり] 子供 [#4字下げ]あれを隠して頂戴 ブリヂット [#4字下げ]わたしは又怖くなって来た 子供 [#4字下げ]隠して頂戴 マアチン [#4字下げ]それは悪いことだ ブリヂット [#4字下げ]神様を汚すことだよ 子供 [#ここから4字下げ] あの苦しがってるもの あれを隠して頂戴 [#ここで字下げ終わり] マアチン [#4字下げ]この子に教えない親がいけないのだ ハアト [#4字下げ]あれは神の子のお姿だ 子供  [#1段階小さな文字](神父にすがりつき)[#小さな文字終わり] [#4字下げ]隠して頂戴、隠して頂戴 マアチン [#4字下げ]いけない、いけない ハアト [#ここから4字下げ] お前はそんなに小さくて木の葉のそよぎにも おどろく鳥のようなものだから わしはあれを取り下ろしてあげよう [#ここで字下げ終わり] 子供 [#ここから4字下げ] 隠して頂戴 見えないような思い出せないようなところに隠して頂戴 [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (神父ハアト壁から十字架像を取り奥の部屋に持ってゆこうとする) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] ハアト [#ここから4字下げ] お前もこの土地に来たからには ありがたい教の道にわしが導いて上げる お前はそんなに賢いのだからすぐに覚えてしまう [#1段階小さな文字](他の人たちに向って)[#小さな文字終わり] すべてつぼみのような若いものに対してわれわれは優しくしなければならない 神はカルバリイの悲しみのために あかつきの星どもの最初《はじめて》の歌をさまたげはなさらなかった [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (奥の部屋に十字架を持ってゆく) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] 子供 [#ここから4字下げ] ここは平だから踊るのにいい。あたし踊りましょう [#ここから8字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (うたう) [#ここで小さな文字終わり] [#ここから6字下げ] 日の門から風が吹く 風がさびしい心の人に吹く さびしい心の人が枯れる [#ここから8字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (子供おどる) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] メリイ  [#1段階小さな文字](ショオンに)[#小さな文字終わり] [#ここから4字下げ] 今あの子がそばに来た時、床《ゆか》のうえに ほかの小さい足音がひびくのを聞いたと思います そして風の中にかすかに音楽が流れて 眼に見えない笛があの子の足に調子をつけてるように思いました [#ここで字下げ終わり] ショオン [#4字下げ]わたしにはあの子の足音だけしか聞えない メリイ [#ここから4字下げ] いま聞えます 聖くない霊がここの家のなかで踊っているのです [#ここで字下げ終わり] マアチン [#ここから4字下げ] ここへおいで、もしお前がわたしに 神さまのことで勿体ないことをいわないと約束すれば お前に好いものを上げるよ [#ここで字下げ終わり] 子供 [#4字下げ]ここまで持ってらっしゃいよ、おじいさん マアチン [#ここから4字下げ] 倅の嫁にと思ってわたしが町から買って来た リボンがある――彼女《あれ》もこれをお前に上げるのを承知するだろう 風が散らばしたその乱れた髪を結ぶのに [#ここで字下げ終わり] 子供 [#4字下げ]あのねえ、あなたはあたしが好き マアチン [#4字下げ]うん、わたしはお前が好きだ 子供 [#4字下げ]ああ、それでもあなたはこの火の側が好きでしょう。あなたはあたしが好き ハアト [#ここから4字下げ] 神がこれほどたくさんに 御自分の無限の若さをお分けなされた一人のひとを 見ることは愛することだ [#ここで字下げ終わり] 子供 [#4字下げ]それでも、あなたは神様も好き ブリヂット [#4字下げ]神を涜している 子供 [#4字下げ]それから、あなたも、あたしが好き メリイ [#4字下げ]わたしは知らない 子供 [#ここから4字下げ] あなたはあすこにいるあの若い人が好きなのでしょう それでも、あたしはあなたを風に乗らせたり 散る波の上を駈けさせたり 火焔のように山の上で踊らせて上げることも出来るのに [#ここで字下げ終わり] メリイ [#ここから4字下げ] 天使たちと優しい聖者たちの女王さまお守り下さい 何か恐ろしい事が起りそうだ。先刻《さっき》 あの子は山櫨子の枝を持って行ってしまった [#ここで字下げ終わり] ハアト [#ここから4字下げ] お前はあの子のわけの分らない話を怖がっている あれよりほかに知らないのだよ。小さい人、お前はいくつだい [#ここで字下げ終わり] 子供 [#ここから4字下げ] 冬の眠が来る時分はあたしの髪が薄くなって 足もよろよろになるの。木の葉が目をさます時分は あたしの母が金いろの腕にあたしを抱いてくれますよ あたしは直きに大人になって結婚します 森や水の霊と。でも誰にも分らないわ あたしが始めて生れて来た時のことは。あたしは バリゴオレイの山で眼をまばたきしまばたきしている あの雄鷲よりもよっぽど年よりらしいの 月の下であの鷲がいちばんの年よりだけれど [#ここで字下げ終わり] ハアト [#4字下げ]おお、フェヤリイの仲間か 子供 [#ここから4字下げ] 呼んだ人がいるの あたしは乳と火を貰いに使をよこすと また呼ばれたから、来ましたよ [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (ショオンとメリイのほかは保護されようとして神父の後に集まる) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] ショオン [#1段階小さな文字](立つ)[#小さな文字終わり] [#ここから4字下げ] お前はここにいるみんなを従わせたが まだわたしの眼を惑わして、お前に力を与えるような 物にしろ願望《のぞみ》にしろわたしから取ったものはない わたしがお前をこの家から追い出そう [#ここで字下げ終わり] ハアト [#4字下げ]いや、わしが向って見よう 子供 [#ここから4字下げ] あなたがあの十字架像を取ってしまったから あたしは強い、あたしが許さなければ あたしの足が踊ったところ、あたしの指さきの動いたところを だれも通ることは出来ない [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (ショオン彼女に近づこうとして、進むことが出来ない) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] マアチン [#ここから4字下げ] 見ろ、見ろ 何かあれを止めるものがある――そら、手を動かしている まるでガラスの壁にでもこすりつけているように [#ここで字下げ終わり] ハアト [#ここから4字下げ] わしはこの力づよい霊に一人で向おう おそれなさるな、「父」はわれわれと共にいて下さる 聖なる殉教者たち。罪なき幼児たちも また甲鎧をつけてひざまずく東方の聖人たちも 死にて三日の後よみがえりたまいし「彼」も また、ありとあらゆる天使の群も [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (子供は長椅子《セトル》の上のメリイの側に跪き両腕を彼女にかける) [#ここで小さな文字終わり] [#ここから4字下げ] むすめよ、天使と聖徒たちを呼びなさい [#ここで字下げ終わり] 子供 [#ここから4字下げ] 花嫁さん、あたしと一しょにおいで そしてもっと愉快な人たちを見るのよ しろい腕のヌアラ、鳥の姿のアンガス さかまく波のフアックラ、それから 西を治めているフィンヷラと 心のゆきたがるあの人たちの国があります そこでは美しいものに落潮《おとろえ》もなく、滅びるものに昇潮《あげしお》も来ない そこでは智慧が歓びで、「時」が無限の歌なの あたしがお前に接吻すると世界は消えてゆく [#ここで字下げ終わり] ショオン [#ここから4字下げ] そのまぼろしから醒めて――ふさいでおいで お前の眼と耳を [#ここで字下げ終わり] ハアト [#ここから4字下げ] 彼女《あれ》は眼で見、耳で聞かなければならぬ 彼女《あれ》の霊の選択のみがいま彼女《あれ》を救うことが出来るのだ むすめよ、わしの方に来て、わしのそばに立っておいで この家とこの家に於けるお前のつとめを考えておくれ [#ここで字下げ終わり] 子供 [#ここから4字下げ] ここにいてあたしと一緒においで、花嫁さん お前があの人のいうことを聞けば、お前もほかの人たちと同じようになるよ 子供をうみ、料理をし、乳をかき𢌞し バタや鶏や玉子のことで喧嘩をし やがてしまいには、年をとって口やかましくなり あすこにうずくまって顫えながら墓を待つようになるよ [#ここで字下げ終わり] ハアト [#4字下げ]むすめよ、わしは天への道をお前に教えている 子供 [#ここから4字下げ] あたしはお前を連れて行って上げるわ、花嫁さん 誰も年をとったり狡猾になったりしない 誰も年をとったり信心ぶかくなったり真面目になったりしない 誰も年をとったり口やかましくなったりしないところへ そして親切な言葉が人を捕虜《とりこ》にしないところへ まばたきするとき人の心に飛んで来る 考えごとでもあたしたちはすぐその通りにするのよ [#ここで字下げ終わり] ハアト [#ここから4字下げ] 十字架の上のお方の愛する御名によって わしは命令する、メリイ・ブルイン、わしの方においで [#ここで字下げ終わり] 子供 [#4字下げ]お前の心の名によって、あたしは、お前を止める ハアト [#ここから4字下げ] 十字架像を取りのけたから わしが弱いのだ、わしの力がないのだ もう一度ここへ持って来よう [#ここで字下げ終わり] マアチン [#1段階小さな文字](彼にすがりついて)[#小さな文字終わり] [#4字下げ]いけません ブリヂット [#4字下げ]わたしたちを捨てていらしってはいけません ハアト [#ここから4字下げ] おお、わしを放してくれ、取り返しがつかなくなる前に こんな事にしたのはみんなわしの罪なのだ [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (そとに歌の声) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] 子供 [#ここから4字下げ] あの人たちの歌がきこえるよ「おいで、花嫁さん おいで、森と水と青い光へ」とうたっている [#ここで字下げ終わり] メリイ [#4字下げ]わたしあなたと一緒にゆく ハアト [#4字下げ]駄目か、おお 子供  [#1段階小さな文字](戸口に立って)[#小さな文字終わり] [#ここから4字下げ] お前にまつわる人間の希望《のぞみ》は捨てておしまい 風に乗り、波の上をはしり 山の上でおどるあたしたちは 夜あけの露よりもっと身が軽いのだから [#ここで字下げ終わり] メリイ [#4字下げ]どうぞ、一しょに連れてって下さい ショオン [#ここから4字下げ] 愛するひと、わたしはお前を止めておく わたしは言葉ばかりではない、お前を抑えるこの腕がある あらゆるフェヤリイのむれがどんな事をしようと この腕からお前を放すことは出来まい [#ここで字下げ終わり] メリイ [#4字下げ]愛する顔、愛する声 子供 [#4字下げ]おいで、花嫁さん メリイ [#4字下げ]わたしはいつもあの人たちの世界が好きだった――それでも――それでも 子供 [#4字下げ]しろい鳥、しろい鳥、あたしと一緒においで、小さい鳥 メリイ [#4字下げ]わたしを呼んでいる 子供 [#ここから4字下げ] あたしと一しょにおいで、小さい鳥 [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (遠くで踊っている大勢の姿が森に現われる) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] メリイ [#4字下げ]歌と踊りがきこえる ショオン [#4字下げ]わたしのところにいておくれ メリイ [#4字下げ]わたしはいたいと思うの――それでも――それでも 子供 [#4字下げ]おいで、金の冠毛の、小さい鳥 メリイ  [#1段階小さな文字](ごく低い声で)[#小さな文字終わり] [#4字下げ]それでも―― 子供 [#ここから4字下げ] おいで、銀の足の、小さい鳥 [#ここから6字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (メリイ・ブルイン死ぬ、子供出てゆく) [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] ショオン [#4字下げ]死んでしまった ブリヂット [#ここから4字下げ] その影から離れておしまい、体も魂ももうないのだよ お前が抱いているのは吹き寄せた木の葉か 彼女《あれ》の姿に変っている秦皮の樹の幹かもしれない [#ここで字下げ終わり] ハアト [#ここから4字下げ] 悪い霊はこうして彼等の餌を奪ってゆく 殆ど神の御手の中からさえ 日ごとに彼等の力は強くなり 男も女も古い道を離れてゆく、慢りの心が来て瘠せた拳で心の戸を叩くとき [#ここから8字下げ] [#ここから1段階小さな文字] (家の外に踊っている人たちの姿が見える、そして白い鳥も交っているかも知れない、大勢のうたう歌がきこえる) [#ここで小さな文字終わり] [#ここから6字下げ] 日の門から風が吹く さびしい心の人に風がふく さびしい心の人が枯れる そのときどこかでフェヤリイが踊る しろい足を輪に踏み しろい手を空に振って 老人《としより》もうつくしく かしこいものもたのしく物いう国があると 笑いささやきうたう風をフェヤリイは聞く クラネの蘆がいう 風がわらいささやき歌うとき さびしい心の人が枯れる [#ここで字下げ終わり] [#地付き]――幕―― 底本:「近代劇全集 第廿五卷愛蘭土篇」第一書房    1927(昭和2)年11月10日発行 ※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。 ※「そして神父様、神は天の戸を開けておやりになるかも知れません」がメリイでなくハアトのセリフになっているのは、底本通りです。WB Yeats の原作では、メリイのセリフです。 入力:館野浩美 校正:岡村和彦 2019年1月29日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。