福岡の女 伊藤野枝 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)豊前《ぶぜん》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)福岡県といつても豊前[#「福岡県といつても豊前」に白丸傍点] /\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号) (例)こせ/\ ------------------------------------------------------- ■福岡県の女は佐賀県や、熊本県の同性のやうに、海外に密航して浅ましい生活するのは少いやうですが、小学校や、女学校を出た後、米国などへ行つて人の妻となり、健全な家庭を作つてゐるのは、少くはないやうです、殊に私の生れた糸島郡などは、此の米国行きの婦人は大変なものです。 ■今は其の地にゐるかどうか知りませんが、以前浦塩お徳といつて、洗濯屋か何かをして、ウラジヲストツクで成功した婦人があります、此の人がやはり福岡県の人なのです。 ■福岡県といつても豊前[#「福岡県といつても豊前」に白丸傍点]、筑前[#「筑前」に白丸傍点]、筑後[#「筑後」に白丸傍点]、皆其の性格が違い[#「皆其の性格が違い」に白丸傍点]、其の区別が著しいやうに思はれます[#「其の区別が著しいやうに思はれます」に白丸傍点]、豊前は上方の気風を受け[#「豊前は上方の気風を受け」に白丸傍点]、筑前は多血質[#「筑前は多血質」に白丸傍点]、筑後は粘液質とでもいゝましやうか[#「筑後は粘液質とでもいゝましやうか」に白丸傍点]。 ■豊前《ぶぜん》や筑後《ちくご》は好く存じませんが、筑前《ちくぜん》殊に福岡は鷹揚《おうよう》な人が多い、久留米《くるめ》などのこせ/\した気性に比ぶれば余程男らしい処があります。博多《はかた》は芸人の多い処で三味線のうまい魚屋とか、踊のうまい酒屋とかいふのはザラにあります。 ■其処で大阪の役者などは博多で芝居をするのは非常に骨が折れるさうで[#「其処で大阪の役者などは博多で芝居をするのは非常に骨が折れるさうで」に傍点]、博多の人は眼が肥えてゐるから[#「博多の人は眼が肥えてゐるから」に傍点]、役者のアラはすぐ見破ることが出来るのです[#「役者のアラはすぐ見破ることが出来るのです」に傍点]、一たいで博多は大阪の感化を受けるのは非常なものですが[#「一たいで博多は大阪の感化を受けるのは非常なものですが」に傍点]、人間は快活で[#「人間は快活で」に傍点]、濶達で[#「濶達で」に傍点]、東京人に類似して大阪人と反対です[#「東京人に類似して大阪人と反対です」に傍点]。 [#地付き][『廿世紀』第三巻第二号、一九一六年四月号] 底本:「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」學藝書林    2000(平成12)年5月31日初版発行 底本の親本:「廿世紀 第三巻第二号」    1916(大正5)年4月号 初出:「廿世紀 第三巻第二号」    1916(大正5)年4月号 入力:酒井裕二 校正:Butami 2019年12月27日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。