読者諸氏に 伊藤野枝 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)丈《だ》け [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)ねうち[#「ねうち」に傍点] -------------------------------------------------------  私は自分で編輯するこの雑誌を、出来る丈《だ》け、立派なものにしたいと思ひます。けれども如何に、私が自惚《うぬぼ》れて見ましても本当に貧弱な内容しか持つことが出来ません。私一個の微力では勿論どうしても読者諸氏を満足させるやうな大家の執筆を乞ふことは出来ません。目次にならんだ人達はまだ世間の表に立つてゐない人の方が多数を占めて居ます。私は毎号々々かうして貧弱だとかつまらないとか云ふ非難を耳にしながらも何時もねうち[#「ねうち」に傍点]のない雑誌ばかり編輯して居ります。けれども私の考へではそれにも相当の理屈はつくのです。私自らはこの雑誌自身に単なる苗床としてより以上の何の価値をも求めやうとはしません、私はこの雑誌を引きつぐ際に、一切の規則を取り去つて無規則無方針、無主義無主張と云ふことをお断はりしました。主義の欲しい方規則のなくてはならない方は各自におつくりなさるがいゝ。何の主義も主張もない雑誌を凡《すべ》ての婦人達に提供いたしますから各々に自由勝手にお使ひ下さい。お用ひになる方の意のまゝに出来るやうに雑誌そのものには一切意味を持たせません。と云ふことも其の際に申ました。何卒この貧弱な雑誌を覗く丈けの方でもこの事を御承知下さいまし、この雑誌は苗床としての価値より他には何にもありません。此処に芽を出した苗がどんな処にうつされ、どの苗がどう育つてゆくか――未成品――と云ふことに興味をもつて下さる方に初めてこの雑誌は雑誌自らの存在の意義を明らかにするのです。私はかう云ふ負け惜しみな理屈を楯に何と非難されても相変らず貧弱な雑誌を倦きずにこしらへてゐるのです。[#地から2字上げ]――編輯者―― [#地付き][『青鞜』第六巻第一号、一九一六年一月号] 底本:「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」學藝書林    2000(平成12)年5月31日初版発行 底本の親本:「青鞜 第六巻第一号」    1916(大正5)年1月号 初出:「青鞜 第六巻第一号」    1916(大正5)年1月号 入力:酒井裕二 校正:かな とよみ 2021年8月28日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。