とんぼの眼玉 北原白秋 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)可愛《かは》いい |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)一|反《たん》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)[#5字下げ] /\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号) (例)いろ/\ *濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」 ------------------------------------------------------- [#5字下げ][#大見出し]はしがき[#大見出し終わり] [#ここから2字下げ] 山火事焼けるな、ホウホケキヨ、 可愛《かは》いい小鹿が焼け死ぬぞ。 [#ここで字下げ終わり]  これは春の暮、夏のはじめの頃に、夕方かけて、赤い山火事の火の燃える箱根あたりの山を眺めて、この小田原の町の子供たちが昔歌つた童謡の一つだと申します。  昔の子供たちはかういふ風におのづと自然そのものから教はつて、うれしいにつけ悲しいにつけ、いかにも子供は子供らしく手拍子をたたいて歌つたものでした。  それが、この頃の子供たちになると、小さい時から、あまりに教訓的な、そして不自然極る大人の心で咏まれた学校唱歌や、郷土的のにほひの薄い西洋風の飜訳歌調やに圧えつけられて、本然の日本の子供としての自分たちの謡を自分たちの心からあどけなく歌ひあげるといふ事がいよいよ無くなつて来てゐるやうに思ひます。  今の子供たちはあまりに自分の欲する童謡やその他を、その学校や親たちから与へられて居りません。それは今の世の中があまりに物質的功利的であるからでもあります。  私たちの子供の頃は今から考へましても、それはなつかしい情味の深いものでした。あの頃子供であつた私たちがいかほど大人になりましても、いつまでも忘れられないのは、幼い時母親や乳母たちからきいたあの子守唄の節まはしです。  でん/″\太皷に笙の笛のあの「ねんねのお守は何処へ行た。」や、山では木のかず萱のかず、天へのぼつて星のかずの「坊やのかはいさ限りない。」や、十三七つの「お月さま」や、十五夜お月さま見て跳ねるのあの「うウさぎ兎」や、こつちの水は甘いぞ、あつちの水は苦《にイが》いぞの「赤い帽子の蛍」や、一羽の雀が云ふことにのあの「三羽の小さな雀」の謡や、思ひ出せば数かぎりもありません。  あの野山の木萱のそよぎからおのづと湧いて出たと云ふ民謡や、かうした純日本の童謡やが、次第に廃れてゆく心細さはありません。私は一方にさうしたいつまでも新らしい、而かも日本人としての純粋な郷土的民謡を復興さしたいと云ふ考を持つてゐますにつれて、おなじやうにかうした童謡をも今の無味乾燥な唱歌風のものから元の昔に還さなければならないと思つてゐます。さうしてその本然の心を失はないで、さらに新らしい今の日本の童謡をもその上に築き上げなければならないと願つてゐます。  私がかういふ心から童謡に興味を持ち出したのも随分と古い事でした。おそらく今の詩人たちの中でも私がいちばん古くから手をつけたのでないかと思ひます。それに私の曾つて公にしました抒情小曲集の「思ひ出」あたりにも随分と童謡味の勝つたものが載せられてあります。この集の中でも「曼珠沙華」の一篇はその「思ひ出」の中から抜いたのでした。外にもいろ/\ありますが、幾分子供たちに読ませるには大人びすぎるので差控えました。 「南京さん」「屋根の風見」の二篇も七八年前に作つたのです。その外は皆新らしいものです。  昨年から丁度折よく、お友だちの鈴木三重吉さんが、子供たちのためにあの芸術味の深い、純麗な雑誌「赤い鳥」を発行される事になりましたので私もその雑誌で童謡の方を受持つ事になつて、それでいよいよかねての本願に向つて私も進んでゆけるいい機会を得ました。  これらの童謡はおほかたその「赤い鳥」で公にされたものですが、今度改めて今までの分を一《ひと》まとめにして出版する事になりました。これを第一輯として、これからも次ぎ次ぎに刊行するつもりでゐます。それに私自身のものばかりでなく、いろ/\の国々の童謡をも御参考のために手をつけて訳して見たいと考へて居ります。  私の童謡はただ美しいとか上品とか云ふばかりを主にして居ますのではありません。それに多少物心のついた十三四歳以上の少年少女たちの謡ひものとしてよりも、それ以下の子供たちに読ませるもの、それには素朴な混り気のない子供の感覚といふこと、さうした溌剌《いき/\》とした感覚に根ざしたあるものから、素裸な子供の心を直接にうつ、さうしたものをと心がけて居りますのです。  ほんたうの童謡は何よりわかりやすい子供の言葉で、子供の心を歌ふと同時に、大人にとつても意味の深いものでなければなりません。然し乍ら、なまじ子供の心を思想的に養はうとすると、却つて悪い結果をもたらす事が多いのです。それであくまでもその感覚から子供になつて、子供の心そのままな自由な生活の上に還つて、自然を観、人事を観なければなりません。  子供の感覚が、どんなに鋭く、新らしいか、生きてゐるかと云ふ事について、一例をあげますと、子供はあの陰鬱な灰色の空から、初めて鮮かな白い雪の粉がチラチラと降り出しでもして来ますと、それは喜び勇んで、小躍りしながら、かう歌ひます。 [#ここから3字下げ] 雪花《ゆきばな》ふるわな、 空に虫が湧くわな、 扇腰にさいて、 きりりつと舞ひましよ。 [#ここで字下げ終わり]  これを大人に咏ませると、「雪は鵝毛に似て飛んで散乱し。」と歌ひます。子供は空に湧く白い粉雪の一片一片を今生れたばかりの活きた羽虫の一匹一匹として喜び、大人は死んだ鵝鳥のそのむしり散らした羽毛の一片一片に譬へて観賞します。子供の感覚は活きて動き、大人の感覚はその智慧から先づ盲《めしひ》にされて死んで了つてゐます。大した違ひではあるまいかと思ひます。  子供に還ることです。子供に還らなければ、何一つこの忝い大自然のいのちの流をほんたうにわかる筈はありません。 「子供は大人の父だ。」と申す事も、この心をまさしく云つたものに外なりません。私たちはいつも子供に還りたい還りたいと思ひながらも、なかなか子供になれないので残念です。  私の童謡に少しでもまだ大人くさいところがあれば、それは私がまだほんたうの子供の心に還つてゐないのです。さう思ふと、子供自身の生活からおのづと言葉になつて歌ひあげねばならぬ筈の童謡を大人の私が代つて作るなどと云ふ事も私には空おそろしいやうな気がします。然し、私たちから先づ、その子供たちのさうした歌ごころを外へ引き出してあげる事も必要だと思ひます。さういふ心で私は童謡を作つて居りますのです。  私もこれから努めます。だんだんとほんたうの子供の心に還るやうに、ほんたうの童謡をも作れるやうに。  私はいま小田原のとある山の上に木兎の家といふお伽噺の中にあるやうな幼びた小さな家を自分でこしらえて、花を育てたり野菜を栽ゑたりして住つてゐます。子供たちも随分と遊びに見えます。私はその罪のない子供たちの笑ひ声の中に交つて、いつも童謡の中の世界で子供らしく遊んでゐます。どなたでもお子さんのある方は御一緒にお遊びにいらして下さるやうに。 [#2字下げ][#1段階小さな文字]大正八年九月[#小さな文字終わり] [#地から4字上げ][#1段階小さな文字]相州小田原木兎の家にて[#小さな文字終わり] [#地から2字上げ][#1段階大きな文字]白秋[#大きな文字終わり] [#改丁] [#ページの左右中央] [#2字下げ][#大見出し]とんぼの眼玉[#大見出し終わり] [#改丁] [#2字下げ][#中見出し]蜻蛉《とんぼ》の眼玉《めだま》[#中見出し終わり] 蜻蛉《とんぼ》の眼玉《めだま》は大《でつ》かいな、 銀《ぎん》ピカ眼玉《めだま》の碧眼玉《あをめだま》、 円《まア》るい円《まア》るい眼玉《めだま》、 地球儀《ちきうぎ》の眼玉《めだま》、 忙《せは》しな眼玉《めだま》、 眼玉《めだま》の中《なか》に、 小人《こびと》が住《す》んで、 千《せん》も万《まん》も住《す》んで、 てんでんに虫眼鏡《むしめがね》で、あつちこつち覗《のぞ》く。 上《うウへ》向《む》いちやピカピカピカ。 下《しイた》向《む》いちやピカピカピカ。 クルクル廻《まは》しちやピカピカピカ。 玉蜀黍《たうもろこし》に留《とま》れば玉蜀黍《たうもろこし》が映《うつ》る。 雁来紅《はげいとう》に留《とま》れば雁来紅《はげいとう》が映《うつ》る。 千《せん》も万《まん》も映《うつ》る。 綺麗《きイれい》な、綺麗《きれい》な、 五色《ごしき》のパノラマ、綺麗《きイれい》な。 ところへ、子供《こども》が飛《と》んで出《で》た、 黐棹《もちざを》ひゆうひゆう飛《と》んで出《で》た。 さあ、逃《に》げ、 わあ、逃《に》げ、 麦稈帽子《むぎわらばうし》が追《お》つて来《き》た。 千《せん》も万《まん》も追《お》つて来《き》た。 おお怖《こは》、 ああ怖《こは》。 ピカピカピカピカ、ピッカピカ、 クルクル、ピカピカ、ピッカピカ。 [#2字下げ][#中見出し]夕焼《ゆふやけ》とんぼ[#中見出し終わり] 大《おほ》きな、赤《あアか》い蟹《かに》が出《で》て、 藺草《ゐぐさ》をチヨッキリちよぎります。 藺草《ゐぐさ》の中《なか》から火《ひ》が燃《も》えて、 その火《ひ》が蜻蛉《とんぼ》に燃《も》えついた。 蜻蛉《とんぼ》は逃《に》げても逃《に》げきれぬ、 唐黍畑《たうきびばたけ》に逃《に》げて来《く》る、 唐黍《たうきび》の頭《あたま》が紅《あこ》なつた。 蓼《たで》の花《はアな》に飛《と》んで来《く》る、 蓼《たで》の花《はな》にも火《ひ》がついた。 野川《のがは》の薄《すゝき》に留《とヲま》つた、 薄《すゝき》の穂《ほ》さきも火《ひ》になつた。 お庭《には》の鶏頭《けいとう》にやすみませう、 鶏頭《けいとう》もいつぱい火事《くわじ》になる。 助《たす》けて下《くだ》され焼《や》け死《し》ぬる、 蜻蛉《とんぼ》は藺草《ゐぐさ》に縋《すが》りつく。 蜻蛉《とんぼ》の眼玉《めだま》は円《まる》ござる、 くるくる廻《まは》せば山《やま》が見《み》え、 山《やま》の中《なか》から猿《さる》が出《で》て、 あつち向《む》いちや、赤《あアか》んべ、 こつち向《む》いちや、赤《あアか》んべ。 [#2字下げ][#中見出し]八百屋《やをや》さん[#中見出し終わり] 大枇杷《おほびわ》、小枇杷《こびわ》、 水蜜桃《すゐみつ》、葡萄《ぶだう》、 苺《いちご》や野菜《やさい》、 お籠《かご》に入《い》れて、 頭《あたま》に載《の》せて、 かつこ、かつこ、行《ゆ》けば、 薄紫《うすむらさアき》の、 馬鈴薯畑《じやがいもばたけ》の花盛《はなざか》り。 あちらでもかつこう、 こちらでもかつこう、 郭公《かつこう》が啼《な》いて、 雨《あアめ》が霽《は》れて、 田舎《ゐなか》は涼《すゞ》しい涼《すゞ》しいな。 かつこう、かつこう、 私《わたし》もいそいそ口笛《くちぶえ》吹《ふ》いて、 足拍子《あしべうし》とつて、 お靴《くつ》でかつこかつこ、躍《をど》りませう。 かつこ、かつこ、かつこな、 たららら、らるら。 小母《をば》さん、今日《こんにち》は、 小父《をぢ》さん、今日《こんにち》は。 [#2字下げ][#中見出し]お祭《まつり》[#中見出し終わり] わつしよい、わつしよい、 わつしよい、わつしよい。 祭《まつり》だ、祭《まつり》だ。 脊中《せなか》に花笠《はながさ》、 胸《むね》には腹掛《はらがけ》、 向《むか》う鉢巻《はちまき》、そろひの半被《はつぴ》で、 わつしよい、わつしよい。 わつしよい、わつしよい、 わつしよい、わつしよい。 神輿《みこし》だ、神輿《みこし》だ。 神輿《みこし》のお練《ねり》だ。 山椒《さんせう》は粒《つぶ》でも、ピリッと辛《から》いぞ、 これでも勇《いさ》みの山王《さんのう》の氏子《うぢこ》だ。 わつしよい、わつしよい。 わつしよい、わつしよい。 わつしよい、わつしよい。 真赤《まつか》だ、真赤《まつか》だ、夕焼小焼《ゆふやけこやけ》だ。 しつかり担《かつ》いだ。 明日《あした》も天気《てんき》だ。 そら、揉《も》め、揉《も》め、揉《も》め。 わつしよい、わつしよい。 わつしよい、わつしよい。 わつしよい、わつしよい。 俺《おい》らの神輿《みこし》だ。死《し》んでも離《はな》すな。 泣虫《なきむし》やすつ飛《と》べ。差上《さしあ》げて廻《まは》した。 揉《も》め、揉《も》め、揉《も》め、揉《も》め。 わつしよい、わつしよい。 わつしよい、わつしよい、 わつしよい、わつしよい。 廻《まは》すぞ、廻《まは》すぞ、 金魚屋《きんぎよや》も逃《に》げろ、鬼灯屋《ほゝづきや》も逃《に》げろ。 ぶつかつたつて知《し》らぬぞ。 そら退《ど》け、退《ど》け、退《ど》け、 わつしよい、わつしよい。 わつしよい、わつしよい、 わつしよい、わつしよい、 子供《こども》の祭《まつり》だ、祭《まつり》だ、祭《まつり》だ、 提灯《てうちん》点《つ》けろ、 御神燈《ごしんとう》献《あ》げろ、 十五夜《じふごや》お月様《つきさま》まんまるだ。 わつしよい、わつしよい。 わつしよい、わつしよい、 わつしよい、わつしよい。 あの声《こゑ》何処《どこ》だ、 あの笛《ふえ》何《なん》だ。 あつちも祭《まつり》だ、こつちも祭《まつり》だ。 そら揉《も》め、揉《も》め、揉《も》め。 わつしよい、わつしよい。 わつしよい、わつしよい、 わつしよい、わつしよい。 祭《まつり》だ、祭《まつり》だ。 山王《さんのう》の祭《まつり》だ、子供《こども》の祭《まつり》だ。 お月様《つきさま》紅《あか》いぞ、御神燈《ごしんとう》も紅《あか》いぞ。 そら揉《も》め、揉《も》め、揉《も》め、 わつしよい、わつしよい。 わつしよい、わつしよい。 わつしよい、わつしよい。 [#2字下げ][#中見出し]のろまのお医者《いしや》[#中見出し終わり] 蚊《か》の声《こゑ》ぶんぶん。 ごろすけほう。 今夜《こんや》はお盆《ぼん》の十六日《じふろくんち》。 お閻魔様《えんまさま》の盆踊《ぼんをどり》。 蛙《かへろ》の音頭《おんど》で始《はじ》めよか、 蛙《かへろ》の小母《をば》さん物《もの》云《い》へぬ。 咽喉《のど》が腫《は》れたか、腹痛《はらいた》か、 腹《はら》が痛《いた》けりや医者《いしや》呼《よ》んで来《こ》う、 医者《いしや》は何医者《なにいしや》、かへろ医者《いしや》。 蚊《か》の声《こゑ》ぶんぶん。 ぱあくぱく。 空《そら》には紅《あアか》いお月様《つきさま》、 小藪《こやぶ》ぢやわんぐり蟾蜍《ひきがへろ》。 今夜《こんや》のお菜《かず》は旨《うも》ござる。 ところへ兎《うさぎ》が飛《と》んで来《き》て、 もしもし、頼《たの》みぢや、早《は》よお出《い》で、 よしよし待《ま》たしやれ、今《いま》直《す》ぐぢや。 お腹《なか》が減《へ》つてはどもならぬ。 蚊《か》の声《こゑ》ぶんぶん。 雨《あめ》しよぼしよ。 いそいで御座《ござ》れよ間《ま》にあはぬ。 それではまゐろと、のつそのそ。 両手《りやうて》に洋杖《ステッキ》、折鞄《をりかばん》、 山高帽子《やまたかばうし》でやつて来《き》たが、 踊《をどり》も済《す》んだか声《こゑ》もなし。 こいつはしまつた、面目《めんぼく》ない。 田圃《たんぼ》はまつくら、暗闇《くウらやみ》。 蚊《か》の声《こゑ》ぶんぶん。 ごろすけほう、 ごろすけほうこう、むだぼうこう。 お山《やま》ぢや梟《ふくろ》が嗤《わら》ひ出《だ》す。 雨《あめ》はざあざと降《ふ》つて来《く》る。 おやおやおやおや、こりやどうぢや。 目《め》ばかりぱちくり、のろま医者《いしや》、 のろくさ、困《こま》つて逃《に》げこんだ。 お閻魔様《えんまさアま》の、そりや、縁《えん》の下《した》、縁《えん》の下《した》。 [#2字下げ][#中見出し]ほうほう蛍《ほたる》[#中見出し終わり] ほうほう蛍《ほウたる》、篠蛍《しのぼたる》、 昼間《ひるま》は赤《あアか》い豆頭巾《まめづきん》、 日暮《ひぐれ》はピカピカ、豆袴《まめばかま》、 一《いイち》のお宮《みや》で灯《ひ》を貰《も》ろて、 二《に》の宮《みや》田圃《たんぼ》へ灯《ひ》とぼしに、 三《さアん》の鳥居《とりゐ》は藪《やぶ》の中《なか》、 四《し》の宮《みや》くぐれば貉堀《むじなぼり》、 貉《むじな》が啼《な》き出《だ》しや、雨《あめ》がふる、 早《は》よ早《は》よお戻《もど》り、夜《よ》は凄《すご》い、 真夜中《まよなか》過《す》ぎれば帰《かへ》られぬ。 ほうほう、蛍《ほウたる》、篠蛍《しのぼたる》、 水神様《すゐじんさアま》はまだ遠《とほ》い。 [#2字下げ][#中見出し]鳰《にほ》の浮巣《うきす》[#中見出し終わり] 鳰《にイほ》の浮巣《うきす》に灯《ひ》がついた、 灯《ひ》がついた。 あァれは蛍《ほたる》か、星《ほし》の尾《を》か、 それとも蝮《まむし》の目《め》の光《ひかり》。 蛙《かはづ》もころころ啼《な》いてゐる、 啼《な》いてゐる。 ねんねんころころ、ねんころよ。 梟《ふくろ》もぽうぽう啼《な》き出《だ》した。 [#2字下げ][#中見出し]金魚《きんぎよ》[#中見出し終わり] 母《かあ》さん、母《かあ》さん、 どこへ行《い》た。  紅《あアか》い金魚《きんぎよ》と遊《あそ》びませう。 母《かあ》さん、帰《かへ》らぬ、 さびしいな。  金魚《きんぎよ》を一匹《いつぴき》突《つ》き殺《ころ》す。 まだまだ、帰《かへ》らぬ、 くやしいな。  金魚《きんぎよ》を二匹《にイひき》締《し》め殺《ころ》す。 なぜなぜ、帰《かへ》らぬ、 ひもじいな。  金魚《きんぎよ》を三匹《さんびき》捻《ね》ぢ殺《ころ》す。 涙《なみだ》がこぼれる、 日《ひ》は暮《く》れる。  紅《あアか》い金魚《きんぎよ》も死《しイ》ぬ、死《し》ぬ。 母《かあ》さん怖《こは》いよ、 眼《め》が光《ひか》る、  ピカピカ、金魚《きんぎよ》の眼《め》が光《ひか》る。 [#2字下げ][#中見出し]雨《あめ》[#中見出し終わり] 雨《あめ》がふります。雨《あめ》がふる。 遊《あそ》びにゆきたし、傘《かさ》はなし、 紅緒《べにを》の木履《かつこ》も緒《を》が切《き》れた。 雨《あめ》がふります。雨《あめ》がふる。 いやでもお家《うち》で遊《あそ》びませう、 千代紙《ちよがみ》折《を》りませう、たたみませう。 雨《あめ》がふります、雨《あめ》がふる。 けんけん小雉子《こきじ》が今《いま》啼《な》いた、 小雉子《こきじ》も寒《さむ》かろ、寂《さび》しかろ。 雨《あめ》がふります。雨《あめ》がふる。 お人形《にんぎやう》寝《ね》かせどまだ止《や》まぬ。 お線香花火《せんかうはなび》もみな焚《た》いた。 雨《あめ》がふります。雨《あめ》がふる。 昼《ひる》もふるふる。夜《よる》もふる。 雨《あめ》がふります。雨《あめ》がふる。 [#2字下げ][#中見出し]赤《あか》い帽子《ぼうし》、黒《くろ》い帽子《ぼうし》、青《あを》い帽子《ぼうし》[#中見出し終わり] ここは谷川《たにがは》、丸木橋《まるきばし》。 赤《あか》い帽子《ぼうし》をかぶつた子供《こども》、 黒《くろ》い帽子《ぼうし》をかぶつた子供《こども》、 青《あを》い帽子《ぼうし》をかぶつた子供《こども》。 渡《わた》るにやあぶなし、戻《もど》られず。 みんなが前向《まへむ》き、一《いち》、二《にい》、三《さん》、 みんなが後向《あとむ》き、一《いち》、二《にい》、三《さん》。 赤《あか》い帽子《ぼうし》は笑《わら》ひ出《だ》す、 黒《くろ》い帽子《ぼうし》は泣《なア》き出《だ》す、 青《あを》い帽子《ぼうし》は怒《おこ》り出《だ》す。 みんながびくびく、一《いち》、二《にい》、三《さん》、 みんながぶるぶる、一《いち》、二《にい》、三《さん》。 [#2字下げ][#中見出し]南京《なんきん》さん[#中見出し終わり] 李《リイ》さん、鄭《てい》さん、支那服《しなふく》さん、 あなたの眼鏡《めがね》はなぜ光《ひか》る、 涙《なみだ》がにじんで日《ひ》に光《ひか》る。 鳥屋《とりや》の硝子《ガラス》も日《ひ》に光《ひか》る。 目白《めじろ》、カナリヤ、四十雀《しじゆうがら》、 鶉《うづら》に文鳥《ぶんてう》に黒鶫《くろつぐみ》、 鳥《とり》もいろいろあるなかに、 おかめ鸚哥《いんこ》はおどけもの、 焦《ぢ》れて頓狂《とんきやう》に啼《な》きさけぶ。 さてもいとしや、しをらしや、 けふも入日《いりひ》があかあかと わかい南京《なんきん》さんは涙顔《なみだがほ》。 [#2字下げ][#中見出し]曼珠沙華《ひがんばな》[#中見出し終わり] [#太字]ゴンシヤン[#太字終わり]、[#太字]ゴンシヤン[#太字終わり]、何処《どこ》へ行《ゆ》く。 赤《あか》いお墓《はか》の曼珠沙華《ひがんばな》、 曼珠沙華《ひがんばな》、 けふも手折《たを》りに来《き》たわいな。 [#太字]ゴンシヤン[#太字終わり]、[#太字]ゴンシヤン[#太字終わり]、何本《なんぼん》か。 地《ち》には七本《しちほん》血《ち》のやうに、 血《ち》のやうに、 ちやうどあの児《こ》の年《とし》の数《かず》。 [#太字]ゴンシヤン[#太字終わり]、[#太字]ゴンシヤン[#太字終わり]、気《き》をつけな。 ひとつ摘《つ》んでも、日《ひ》は真昼《まひる》、 日《ひ》は真昼《まひる》、 ひとつあとからまたひらく。 [#太字]ゴンシヤン[#太字終わり]、[#太字]ゴンシヤン[#太字終わり]、何故《なし》泣《な》くろ。 何時《いつ》まで取《と》つても曼珠沙華《ひがんばな》、 曼珠沙華《ひがんばな》、 恐《こは》や、赤《あか》しや、まだ七《なゝ》つ。 [#ここから2字下げ、折り返して4字下げ] [#ここから26字詰め] [#ここから1段階小さな文字] 註 ゴンシヤンは九州の柳河といふ町の言葉で、お嬢さんといふことです。 [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字詰め終わり] [#ここで字下げ終わり] [#2字下げ][#中見出し]ちんころ兵隊《へいたい》[#中見出し終わり] ちんころ、ちんころ、ちりちりちん、 ちりちり、ちんころ、ちりちりちん。 ちんころ兵隊《へいたい》、喇叭卒《らつぱそつ》、 てとてと、鉄砲《てつぱう》も肩《かた》にかけ。 ちんころ、ちんころ、ちりちりちん、 ちりちり、ちんころ、ちりちりちん。 それそれ、いくさに出《で》かけませう、 尖《とん》がり帽《ぼう》の緋房《ひぶさ》も伊達《だて》ぢやない。 ちんころ、ちんころ、ちりちりちん、 ちりちり、ちんころ、ちりちりちん。 いやいや、いくさは、飴《あめ》ほしい、 お腹《なか》がすいては歩《あゆ》まれぬ。 ちんころ、ちんころ、ちりちりちん、 ちりちり、ちんころ、ちりちりちん。 ちんころ兵隊《へいたい》、赤胴衣《あかチヨッキ》、 飴屋《あめや》のお鉦《かね》で泣《な》き出《だ》した。 ちんころ、ちんころ、ちりちりちん、 ちりちり、ちんころ、ちりちりちん。 [#2字下げ][#中見出し]とほせんぼ[#中見出し終わり] 赤《あアか》い赤《あアか》い鳳仙花《ほうせんくわ》。 白《しイろ》い白《しイろ》い鳳仙花《ほうせんくわ》。 その中《なか》くぐつて通《とほ》りやんせ。 赤《あアか》い花《はな》ちるよ。 白《しイろ》い花《はな》ちるよ。 いやいや、おまへは通《とほ》しやせぬ。 [#2字下げ][#中見出し]りすりす小栗鼠《こりす》[#中見出し終わり] 栗鼠《りす》、栗鼠《りす》、小栗鼠《こりす》、 ちよろちよろ小栗鼠《こりす》、 葡萄《ぶだう》の房《ふウさ》が熟《うウ》れたぞ、 啼《な》け、啼《な》け、小栗鼠《こりす》。 栗鼠《りす》、栗鼠《りす》、小栗鼠《こりす》、 ちよろちよろ小栗鼠《こりす》、 あつちの尻尾《しつぽ》が太《ふウと》いぞ、 揺《ゆ》れ、揺《ゆ》れ、小栗鼠《こりす》。 栗鼠《りす》、栗鼠《りす》、小栗鼠《こりす》、 ちよろちよろ小栗鼠《こりす》、 ひとりで飛《と》んだらあぶないぞ、 負《おぶ》され、負《おぶ》され、小栗鼠《こりす》。 [#2字下げ][#中見出し]山《やま》のあなたを[#中見出し終わり] 山《やアま》のあなたを 見《み》わたせば、 あの山《やま》恋《こウひ》し、 里《さと》こひし。 山《やアま》のあなたの 青空《あをぞら》よ、 どうして入日《いりひ》が 遠《とほ》ござる。 山《やアま》のあなたの ふるさとよ、 あの空《そら》恋《こウひ》し、 母《はは》こひし。 [#2字下げ][#中見出し]ねんねのお鳩《はと》[#中見出し終わり] ねんねん、ほろろん、ねんほろよ。 坊《ばう》やはよい子《こ》だ、ねんねしな。 ねんねのお鳩《はと》が歌《うた》ひませう。 泣《な》かずに、ほろほろ、ほろりこよ。 坊《ばう》やは乳《ち》が無《な》し、母《はは》もなし。 雪《ゆウき》はふるふる、夜《よ》は長《なが》し。 ねんねんほろろと啼《な》いたとて、 どうして、お鳩《はと》よ、眠《ねむ》らりよか。 [#2字下げ][#中見出し]赤《あか》い鳥《とり》小鳥《ことり》[#中見出し終わり] 赤《あか》い鳥《とり》、小鳥《ことり》、 なぜなぜ赤《あか》い。 赤《あか》い実《み》をたべた。 白《しろ》い鳥《とり》、小鳥《ことり》、 なぜなぜ白《しろ》い。 白《しろ》い実《み》をたべた。 青《あを》い鳥《とり》、小鳥《ことり》、 なぜなぜ青《あを》い。 青《あを》い実《み》をたべた。 [#2字下げ][#中見出し]鳥《とり》の巣《す》[#中見出し終わり] あれ、あれ、なアに。 ありや、鳥《とり》の巣《すウ》よ。 あの巣《す》をとろか。 あの木《き》は高《たか》い。 あの山《やま》のぼろ。 あの山《やま》寒《さむ》い。 なぜ/\寒《さむ》い。 夕焼《ゆふやけ》が寒《さむ》い。 まだ空《そら》赤《あか》いに。 それでも、風《かアぜ》はさアむいよ。 [#2字下げ][#中見出し]なつめ[#中見出し終わり] 棗《なアつめ》。棗《なつめ》。 赤《あアか》い棗《なつめ》。 盗《ぬす》んだ棗《なつめ》。 この棗《なつめ》どうしやう。 食《た》べれば怖《こは》い、 見《み》せれば叱《しか》る、 棄《す》てるは惜《を》しい。 鸚哥《いんこ》にあげよ、 鸚哥《いんこ》は逃《に》げる。 鴉《からす》にあげよ、 鴉《からす》は睨《にら》む。 七面鳥《しちめんてう》にやつたれば、 怒《おオこ》つた怒《おこ》つた、真赤《まつか》になつて怒《おオこ》つた。 怖《こオは》い棗《なつめ》、 盗《ぬす》んだ棗《なつめ》、 お手々《てて》に入《い》れて、 袂《たもと》に入《い》れて、 帰《かへ》つて寝《ね》たら、 棗《なつめ》がぶんぶん鳴《な》り出《だ》した。 蜂《はアち》になつた、蜂《はアち》になつた、 棗《なつめ》がいつぱい螫《さ》しに来《き》た。 怖《こオは》い棗《なつめ》、 怖《こオは》い棗《なつめ》。 [#2字下げ][#中見出し]うさうさ兎《うさぎ》[#中見出し終わり] てんてん手毬《てまり》、 おててん手毬《てまり》、 手毬《てまり》の中《なか》に、 何《なに》がゐて跳《は》ねる。 てんてん手《て》のなし、 めんめん眼《め》のなし、 みんみん耳《みみ》のなし、 うさうさ兎《うさぎ》の子《こ》が跳《は》ねる。  一《ひと》つ追《お》ひ出《だ》そ。  二《ふた》つ追《お》ひ出《だ》そ。  三《みつ》つ追《お》ひ出《だ》そ。  四《よつ》つ追《お》ひ出《だ》そ。  五《いつ》つ追《お》ひ出《だ》そ。  六《むつ》つ追《お》ひ出《だ》そ。  七《なな》つ追《お》ひ出《だ》そ。  八《やつ》つ追《お》ひ出《だ》そ。  九《ここの》つ追《お》ひ出《だ》そ。 手毬《てまり》てんてん、雪《ゆき》こんこん、 遠《とほ》いお山《やま》の山奥《やまおく》へ、 十《とを》、たうとう追《お》ひ出《だ》した。 [#2字下げ][#中見出し]屋根《やね》の風見《かざみ》[#中見出し終わり] 子《こ》を奪《と》ろ、子《こ》奪《と》ろ、 「鴻《こう》の巣《す》」の窓《まど》に、 硝子《がらす》が光《ひか》る。 露西亜《ろしや》のサモワル、紅茶《こうちや》の湯気《ゆげ》に、 かつかと光《ひか》る。 江戸橋《えどばし》、荒布橋《あらめばし》、 青《あを》い燈《ひ》が点《つ》く……向《むか》うの屋根《やね》に、 株《かぶ》の風見《かざみ》がくるくるまはる。 晴《はれ》か、曇《くもり》か、霙《みぞれ》か、雪《ゆき》か、 雲《くも》はあかるし、夕日《ゆふひ》は寒《さむ》し、 七歳《ななつ》お店《たな》の長松《ちやうまつ》さへも、 黒《くろ》い前掛《まへかけ》ちよいとしめて、 空《そら》を見上《みあ》げちや真面目顔《まじめがほ》、 真面目顔《まじめがほ》。 [#ここから2字下げ] [#ここから1段階小さな文字] 鴻の巣とは西洋料理屋の名です。 [#ここで小さな文字終わり] [#ここで字下げ終わり] [#2字下げ][#中見出し]かぜひき雀《すゞめ》[#中見出し終わり] 草山《くさやま》越《こオ》えて、野《の》を越《こ》えて、 大《おほ》きなお靴《くつ》と小《ちひ》さなお帽子《ぼうし》。 お家《うち》も見《み》えたぞ、うんとこしよ、 大《おほ》きな爺《ぢい》さんお靴《くつ》を脱《ぬ》ぐと、 小《ちひ》さな婆《ばあ》さんお帽子《ぼうし》を脱《ぬ》ぐと、 いつしよに草臥《くたび》れ、ぐうぐうぐう。 空《そウら》は赤《あアか》い夕焼《ゆふやけ》で、 雀《すゞめ》も帰《かへ》ろと、ふたりづれ、 よいもの見《み》つけた、ちゆうちゆうちゆ、 婿《むこ》さん雀《すゞめ》はお靴《くつ》へこそり、 嫁《よめ》さん雀《すゞめ》はお帽子《ぼうし》へこそり、 いつしよに草臥《くたび》れ、ぐうぐうぐう。 風《かアぜ》が吹《ふ》きます、月《つき》が出《で》る、 白《しイろ》いお蕎麦《そば》の花《はな》の中《なか》、 あんまり寒《さむ》いで目《め》が醒《さ》めた。 爺《ぢい》さん、婆《ばあ》さんハックッシヨと云《い》へば、 お靴《くつ》の中《なか》でも雀《すゞめ》がハックッシヨ、 お帽子《ぼうし》の中《なか》でもハァハァハックッシヨ。 おやおや大変《たいへん》、風邪《かぜ》ひいた、 お山《やま》は雪《ゆウき》で真白《まつしろ》だ。 ハックッシヨ、/\、ハァハァハックッシヨ、 ハックッシヨ、/\、ハァハァハックッシヨ。 [#2字下げ][#中見出し]あわて床屋《とこや》[#中見出し終わり] 春《はる》は早《はや》うから川辺《かはべ》の葦《あし》に、 蟹《かに》が店《みせ》出《だ》し、床屋《とこや》でござる。  チヨッキン、チヨッキン、チヨッキンナ。 小蟹《こがに》ぶつぶつ石鹸《しやぼん》を溶《と》かし、 親爺《おやぢ》自慢《じまん》で鋏《はさみ》を鳴《な》らす。  チヨッキン、チヨッキン、チヨッキンナ。 そこへ兎《うさぎ》がお客《きやく》にござる。 どうぞ急《いそ》いで髪《かみ》刈《か》つておくれ。  チヨッキン、チヨッキン、チヨッキンナ。 兎《うさぎ》ァ気《き》がせく、蟹《かに》ァ慌《あわ》てるし、 早《はや》く早《はや》くと客《きやく》ァ詰《つ》めこむし。  チヨッキン、チヨッキン、チヨッキンナ。 邪魔《じやま》なお耳《みゝ》はぴよこぴよこするし、 そこで慌《あわ》ててチヨンと切《き》りおとす。  チヨッキン、チヨッキン、チヨッキンナ。 兎《うさぎ》ァ怒《おこ》るし、蟹《かに》ァ耻《はぢ》ょかくし、 為方《しかた》なくなく穴《あな》へと逃《に》げる。  チヨッキン、チヨッキン、チヨッキンナ。 為方《しかた》なくなく穴《あな》へと逃《に》げる。  チヨッキン、チヨッキン、チヨッキンナ。 [#2字下げ][#中見出し]舌切雀《したきりすゞめ》[#中見出し終わり] 舌切雀《したきりすゞめ》はどこへ行《い》た、 どこへ行《い》た、 どれどれ探《さが》しに出《で》かけませう。 雀《すゞめ》のお宿《やど》はあれかいな、 あれかいな、 チヨッポリ小藪《こやぶ》が山《やま》の蔭《かげ》。 とんとんからりこ、とんからり、 とんからり、 中《なか》ではとんから梭《をさ》の音《おと》。 お宿《やど》はここかとたづねたら、 たづねたら、 おおおお、お爺《ぢい》さん、ようお出《い》で。 舌切雀《したきりすゞめ》のお土産《みやげ》は、 お土産《みやげ》は、 葛籠《つづら》にいつぱい綾錦《あやにしき》。 雀《すゞめ》のお宿《やど》はどこかいな、 どこかいな、 爺《ぢい》さん私《わたし》も行《い》て見《み》よか。 慾《よく》ばり婆《ばばあ》のお葛籠《つづら》は、 お葛籠《つづら》は、 開《あ》けたらびつくりおオ化《ばアけ》。 [#2字下げ][#中見出し]雀《すずめ》のお宿《やど》[#中見出し終わり] 笹藪《ささやぶ》、小藪《こやぶ》、小藪《こやぶ》のなかで、 ちゆうちゆうぱたぱた、雀《すずめ》の機織《はたおり》。 彼方《あちら》でとんとん、 此方《こちら》でとんとん、 やれやれ、いそがし、日《ひ》がかげる。 ちゆうちゆうぱたぱた、ちゆうぱたり。 雀《すウずめ》、雀《すずめ》、雀《すずめ》の子《こ》らは、 ちゆうちゆうぱたぱた、その梭《をさ》ひろひ。 上《うへ》へ行《い》つたり、 下《した》へ行《い》つたり、 やれやれ、いそがし、日《ひ》がつまる。 ちゆうちゆうぱたぱた、ちゆうぱたり。 青縞《あをじま》、茶縞《ちやじま》、茶縞《ちやじま》のおべべ、 ちゆうちゆうぱたぱた、何反《なんだん》織《お》れたか。 朝《あさ》から一|反《たん》、 昼《ひる》から一|反《たん》、 やれやれいそがし、日《ひ》が暮《く》れる。 ちゆうちゆうぱたぱた、ちゆうぱたり。 [#2字下げ][#中見出し]物臭太郎《ものぐさたらう》[#中見出し終わり] 物臭太郎《ものぐさたらう》は朝寝坊《あさねばう》、 お鐘《かね》が鳴《な》つても目《め》がさめぬ、 鶏《こけこ》が啼《な》いてもまだ知《し》らぬ。 物臭太郎《ものぐさたらう》は家《うち》持《も》たず、 お馬《うま》が通《とほ》れど道《みち》の端《はた》、 お地頭《ぢとう》見《み》えても道《みち》の端《はた》。 物臭太郎《ものぐさたらう》はなまけもの、 お腹《なか》が空《す》いても臥《ね》てばかり、 藪蚊《やぶか》が螫《さ》しても臥《ね》てばかり。 物臭太郎《ものぐさたらう》は慾《よく》しらず、 お空《そら》の向《むか》うを見《み》てばかり、 桜《さくら》の花《はな》を見《み》てばかり。 [#2字下げ][#中見出し]雉《きじ》ぐるま[#中見出し終わり] 雉《きイじ》、雉《きイじ》、雉《きじ》ぐるま、 お雉《きじ》の背中《せなか》に積《つ》むものは、 子雉《こきじ》、子々雉《ここきじ》、孫《まご》の雉《きじ》。 雉《きイじ》、雉《きイじ》、雉《きじ》ぐるま、 お雉《きじ》のくるまを曳《ひ》くものは、 子鳩《こばと》、子々鳩《ここばと》、孫《まご》の鳩《はと》。 雉《きイじ》、雉《きイじ》、雉《きじ》ぐるま、 雉《きじ》は子《こ》の雉《きじ》、父《ちゝ》恋《こひ》し、 鳩《はと》は子《こ》の鳩《はと》、母《はゝ》恋《こひ》し。 雉《きイじ》、雉《きイじ》、雉《きじ》ぐるま、 雉《きじ》はけんけん、鳩《はと》ぽつぽ、 啼《な》いてお山《やま》を今朝《けさ》越《こ》えた。 [#ここから1段階小さな文字] [#ここから2字下げ] [#ここから30字詰め] 雉ぐるまの玩具は今でも筑後の清水寺の観世音で売つてゐます。この寺は行基菩薩といふ方の御開基です。 [#ここで字詰め終わり] [#ここから4字下げ] [#ここから20字詰め] ほろろうつ山の雉子《きぎす》の声きけば父かとぞ思ふ母かとぞ思ふ。[#地から1字上げ]行基 [#ここで字詰め終わり] [#ここで字下げ終わり] [#ここで小さな文字終わり] 底本:「白秋全集 25」岩波書店    1987(昭和62)年1月8日発行 底本の親本:「とんぼの眼玉」アルス    1919(大正8)年10月15日 初出:蜻蛉の眼玉「赤い鳥 3巻3号」    1919(大正8)年9月1日    夕焼とんぼ「赤い鳥 1巻5号」    1918(大正7)年11月1日    八百屋さん「赤い鳥 3巻3号」    1919(大正8)年9月1日    お祭「赤い鳥 1巻4号」    1918(大正7)年10月1日    のろまのお医者「赤い鳥 3巻2号」    1919(大正8)年8月1日    ほうほう蛍「赤い鳥 2巻6号」    1919(大正8)年6月1日    鳰の浮巣「赤い鳥 2巻6号」    1919(大正8)年6月1日    金魚「赤い鳥 2巻6号」    1919(大正8)年6月1日    雨「赤い鳥 1巻3号」    1918(大正7)年9月1日    赤い帽子、黒い帽子、青い帽子「赤い鳥 1巻3号」    1918(大正7)年9月1日    南京さん「朱欒 創刊号」    1911(明治44)年11月1日    ちんころ兵隊「赤い鳥 3巻5号」    1919(大正8)年11月1日    とほせんぼ「赤い鳥 1巻2号」    1918(大正7)年8月1日    りすりす小栗鼠「赤い鳥 創刊号」    1918(大正7)年7月1日    山のあなたを「赤い鳥 1巻2号」    1918(大正7)年8月1日    ねんねのお鳩「赤い鳥 1巻2号」    1918(大正7)年8月1日    赤い鳥小鳥「赤い鳥 1巻4号」    1918(大正7)年10月1日    鳥の巣「赤い鳥 1巻4号」    1918(大正7)年10月1日    なつめ「赤い鳥 1巻6号」    1918(大正7)年12月1日    うさうさ兎「赤い鳥 2巻2号」    1919(大正8)年1月15日    屋根の風見「朱欒 1巻2号」    1911(明治44)年12月1日    かぜひき雀「赤い鳥 2巻1号」    1919(大正8)年1月1日    あわて床屋「赤い鳥 2巻4号」    1919(大正8)年4月1日    舌切雀「赤い鳥 2巻5号」    1919(大正8)年5月1日    雀のお宿「大阪朝日新聞」    1919(大正8)年5月19日    物臭太郎「赤い鳥 2巻5号」    1919(大正8)年5月1日    雉ぐるま「赤い鳥 創刊号」    1918(大正7)年7月1日 ※「脊中」と「背中」の混在は、底本通りです。 ※「帽子」に対するルビの「ばうし」と「ぼうし」、「硝子」に対するルビの「ガラス」と「がらす」、「七」に対するルビの「なゝ」と「なな」、「母」に対するルビの「はは」と「はゝ」、「耳」に対するルビの「みみ」と「みゝ」、「雀」に対するルビの「すゞめ」と「すずめ」の混在は、底本通りです。 ※「八百屋さん」の初出時の表題は「子供《こども》の八百屋《やほや》」です。 ※「ほうほう蛍」の初出時の表題は「ほう/\蛍《ほたる》」です。 ※「赤い帽子、黒い帽子、青い帽子」の初出時の表題は「まる木橋《きばし》」です。 ※「りすりす小栗鼠」の初出時の表題は「りす/\小栗鼠《こりす》」です。 ※「うさうさ兎」の初出時の表題は「うさ/\兎《うさぎ》の子《こ》(手毬歌)」です。 入力:岡村和彦 校正:きりんの手紙 2021年12月27日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。