無題 富永太郎 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)状《さま》 ------------------------------------------------------- 月青く人影なきこの深夜 家々の閨をかいま見つゝ 白き巷を疾くよぎる侏儒の影あり 愚かなる状《さま》して黒々と立てる屋根の下に 臥所《ふしど》ありて人はいぎたなく眠れり 家々はかく遠く連なりたれど 眠の罪たるを知るもの絶えてあらず 月も今宵その青き光を恥ぢず 快楽《けらく》を欲する人間の流す いつはりの涙に媚ぶと見えたり かゝる安逸の領ずる夜《よる》なれば あらんかぎりの男女《をとこをみな》の肌を見んとて 魔性の侏儒は心たのしみ おもはゆげもなく軒より軒へ 白き巷をよぎりゆくなり 底本:「富永太郎詩集」現代詩文庫、思潮社    1975(昭和50)年7月10日初版第1刷    1984(昭和59)年10月1日第6刷 底本の親本:「定本富永太郎詩集」中央公論社    1971(昭和46)年1月 入力:村松洋一 校正:川山隆 2014年3月7日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。