警戒 C・Mに 富永太郎 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)痴《し》れて [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定    (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数) (例)Ⅱ 〔〕:アクセント分解された欧文をかこむ (例)〔travaille'〕 アクセント分解についての詳細は下記URLを参照してください http://www.aozora.gr.jp/accent_separation.html -------------------------------------------------------  酔ひ痴《し》れて、母君の知り給はぬ女の胸にあるとき、「*[#「*」は行右小書き]ここにわが働かざりし双手あり」の句を君の耳もとにさゝやき、卒然と君の眼の中に、母君の白き髪と額の皺とを呼び入れるものは何であるか。心せよ、これこそ、世界の構成の最下層から突き出でて、君の心臓の内壁にまで達する、かのへらへらとした気味あしき触手の、節奏なき運動の効果なのである。人はこの触手の存在に気付くことがあまりに少なく、しかもそれのために「ちよろりとやられてしまふ」ことがあまりに多いのである。されば友よ、(君は尊敬すべき生活の殉教者だ)、まづ空間を横ぎるこれらの黒い線條の存在に注意しよう。そして、卑しむに堪へたるかれらの機能に対して、心からの敵意を以て警戒しようではないか。 [#1字下げ]* Voici mes mains qui n'ont pas 〔travaille'〕 ―― Verlaine, Sagess e, [#横組み]Ⅱ[#横組み終わり], 1. 底本:「富永太郎詩集」現代詩文庫、思潮社    1975(昭和50)年7月10日初版第1刷    1984(昭和59)年10月1日第6刷 底本の親本:「富永太郎詩集」創元選書、東京創元社    1949(昭和24)年10月 入力:村松洋一 校正:川山隆 2014年3月7日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。