不可能 L'IMPOSSIBLE エミイル・ヹルハアレン Emile Verhaeren 上田敏訳 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)攀《よ》ぢ |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)人|苟《いやしく》も [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定    (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数) (例)𢌞 〔〕:アクセント分解された欧文をかこむ (例)〔E'mile Verhaeren〕 アクセント分解についての詳細は下記URLを参照してください http://www.aozora.gr.jp/accent_separation.html ------------------------------------------------------- 人よ、攀《よ》ぢ難《がた》いあの山がいかに高いとも、  飛躍の念さへ切《せつ》ならば、  恐れるなかれ不可能の、  金《きん》の駿馬《しゆんめ》をせめたてよ。 登れなほ高く、なほ遠く。たとひ賢《さか》しらに  なんぢが心、山腹《さんぷく》の  泉のそばを慕ふとも、  悦《よろこび》はすべて飛躍である。 途《みち》のなかばにとまる者は、やがて途に迷ふ。  かつは苦《くるし》みかつ悶え  錯《あやま》ち怒《いか》ることあつて  燃立つ心に命がある。 きのふの目標《めあて》、あすの日は途《みち》の障礙《しやうげ》ぞ、  籠の戸いかに固いとも、  思想はたえず相尅《さうこく》し  とはに盡きぬはその饑渇《きかつ》。 變化あれよ、向上あれとは、この世の大法《たいはふ》、  不動の今がいかにして、  現世《げんぜ》の榮《はえ》を引き𢌞はす  大《だい》コムパスの支點となる。 過ぎし世の智慧《ちゑ》といふもの何の益《えき》かある、  授くるものは梭櫚《しゆろ》の葉の  危《あぶ》なげも無い勝利のみ。  これを越えて飛べ、熱烈の夢。 人|苟《いやしく》も飛躍せば、たえず己に超越せよ。  われとおのれに驚けよ、  頭《かしら》果《はた》してこの熱に、  堪へるか否かを問ふ勿れ。 不斷の慾《よく》のたえまない人の心を、  攀《よ》ぢ難《がた》い山の上から、ましぐらに、  未來めがけて不可能の、  金《きん》の駿馬《しゆんめ》は推《お》し上げる。 底本:「上田敏全訳詩集」岩波文庫、岩波書店    1962(昭和37)年12月16日第1刷発行    2010(平成22)年4月21日第38刷改版発行 初出:「朱欒 創刊号」    1911(明治44)年11月 ※「Les Forces tumultueuses」の「L'Impossible」の訳です。 ※著者名の原綴り「〔E'mile Verhaeren〕」は、ファイル冒頭ではアクセント符号を略し、「Emile Verhaeren」としました。 入力:川山隆 校正:成宮佐知子 2012年11月2日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。