新・平家物語 “はしがき”に代えて 吉川英治 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)祇園精舎《ぎをんしやうじや》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)旧主|先皇《せんくわう》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定    (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数) (例)异 -------------------------------------------------------  祇園精舎《ぎをんしやうじや》の鐘の声、諸行《しよぎやう》無常の響あり。娑羅《しやら》双樹の花の色、盛者《じやうしや》必衰の理《ことわり》をあらはす。奢《おご》れる人も久しからず。たゞ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂には亡びぬ。偏《ひとへ》に風の前の塵《ちり》におなじ。  遠く異朝をとぶらへば、秦《しん》の趙高《てうかう》、漢の王莽《わうまう》、梁《りやう》の朱异《しゆい》、唐の禄山、これらはみな旧主|先皇《せんくわう》の政《まつりごと》にもしたがはず、楽しみを極め諫《いさ》めをも思ひ入れず、天下《てんが》の乱れん事をさとらずして、民間のうれふる所を知らざりしかば、久しからずして亡《ばう》じにし者共なり。  近く本朝をうかゞふに、承平の将門、天慶《てんぎやう》の純友、康和の義親、平治の信頼、此等は猛き心も奢れることも、皆とりどりにこそありしかども、まぢかくは六波羅の入道、前《さきの》太政大臣平朝臣清盛公と申しし人の有様、伝へ承るこそ心も言葉も及ばれね。 [#地から1字上げ]〈平家物語 序文・抄〉 底本:「吉川英治全集・33 新・平家物語(一)」講談社    1967(昭和42)年8月20日第1刷    1971(昭和46)年11月30日第14刷 初出:「週刊朝日」    1950(昭和25)年4月号 入力:川山隆 校正:トレンドイースト 2023年7月17日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。