三つのお人形 小川未明 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)外国人《がいこくじん》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)一|生《しょう》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)[#7字下げ] ------------------------------------------------------- [#7字下げ]一[#「一」は中見出し]  外国人《がいこくじん》が、人形屋《にんぎょうや》へはいって、三つ並《なら》んでいた人形《にんぎょう》を、一つ、一つ手《て》にとってながめていました。どれも、同《おな》じ人形師《にんぎょうし》の手《て》で作《つく》られた、魂《たましい》のはいっている美《うつく》しい女《おんな》の人形《にんぎょう》でした。  一つは、すわっていましたし、一つは立《た》っていました。そして、もう一つは、手《て》をあげて踊《おど》っていたのであります。  どれを買《か》ったらいいだろうかと、その外国人《がいこくじん》は、ためらっていましたが、しまいに、つつましやかにすわっているのを買《か》うことにしました。それを箱《はこ》にいれてもらうと、大事《だいじ》そうにして、店《みせ》から出《で》ていってしまいました。  残《のこ》った、二つの人形《にんぎょう》は、たがいに顔《かお》を見合《みあ》わせました。そして、そばに、だれもいなくなると、お話《はなし》をはじめたのです。 「とうとう、あの方《かた》は、いってしまいましたね。」 「わたしたちは、いつまでもいっしょにいたいと思《おも》いましたが、だめでした。このつぎには、だれが先《さき》にお別《わか》れしなければならないでしょうか……。」  二つの人形《にんぎょう》は、心細《こころぼそ》そうにいいました。しかし、こうなることはわかっていたのです。美《うつく》しい、三つの人形《にんぎょう》が、はじめて、このにぎやかな街《まち》の店《みせ》さきにかざられたとき、通《とお》る人々《ひとびと》は、男《おとこ》も、女《おんな》もみんな振《ふ》り向《む》いてゆきました。きれいなお嬢《じょう》さんや、奥《おく》さまたちまでが、うっとりと見《み》とれてゆきました。人形《にんぎょう》は、世《よ》の中《なか》に、自分《じぶん》たちほど、美《うつく》しいものはないと思《おも》うと鼻《はな》が高《たか》かったのです。そして、だれでもが、にこやかな顔《かお》つきで、やさしい目《め》をして自分《じぶん》たちをながめますので、どこへいってもかわいがられるものと考《かんが》えました。 「どんな人《ひと》に、わたしは、つれられてゆきますかしらん。」と、三つの人形《にんぎょう》は、口々《くちぐち》にいって、行《ゆ》く末《すえ》のことを空想《くうそう》しますと、なんとなく、この世《よ》の中《なか》が、明《あか》るく、かぎりなく楽《たの》しいところに思《おも》われたのでした。 「どこへいっても、おたがいの身《み》の上《うえ》を知《し》らせ合《あ》って、おたよりをしましょうね。」と、お人形《にんぎょう》たちは、いったのでした。いま、二つになりました。 「あの方《かた》は、外国《がいこく》へつれられてゆくのでしょうか。」と、踊《おど》りながら、一つの人形《にんぎょう》は、立《た》っている人形《にんぎょう》にいいました。 「そうかもしれません。わたしは、外国《がいこく》へなど、ゆきたくないものです。けれど、あの方《かた》は、おとなしいから、どこへいってもかわいがられると思《おも》います。」  こんなことを話《はな》していると、ふいに、店《みせ》さきへ、娘《むすめ》さんが立《た》ちました。そして、じっとふたりをながめていました。お人形《にんぎょう》は、急《きゅう》に、口《くち》をつぐんでしまいました。  娘《むすめ》さんは、内《うち》へはいって、立《た》っている人形《にんぎょう》を指《ゆび》さして、見《み》せてくれといいました。それから、それを手《て》に取《と》ってよく見《み》ていたが、 「これをくださいな。」といった。  こうして、二つの人形《にんぎょう》は、ついに買《か》われていってしまいました。そして、あとには、踊《おど》っている人形《にんぎょう》がただ一つだけ残《のこ》ったのであります。三つの人形《にんぎょう》は、こうして、べつべつになってしまったので、もはや、お話《はなし》をすることもできなくなりました。 「私《わたし》たちの親《した》しかったお友《とも》だちは、どうなったであろう……。」と、三つのお人形《にんぎょう》は、たがいに、胸《むね》のうちで思《おも》うよりほかなかったのです。 [#7字下げ]二[#「二」は中見出し]  夜《よる》になると、街燈《がいとう》が、店《みせ》さきでともりました。その光《ひかり》は、ちょうど、踊《おど》っている人形《にんぎょう》のところへとどきました。 「おや、あなたおひとりになったのですか。あの方《かた》は、どこへゆかれました。」と、光《ひかり》は、たずねた。 「ひとりは、外国人《がいこくじん》に、ひとりは、どこかの娘《むすめ》さんにつれられてゆきました。わたしは、ふたりの方《かた》のおたよりを知《し》りたいと思《おも》うのですが、あなたはおわかりになりませんか?」と、人形《にんぎょう》は、いいました。  円《まる》い頭《あたま》をした、脊《せ》の高《たか》い街燈《がいとう》は、ため息《いき》をついて、 「いくら、私《わたし》が脊《せ》が高《たか》くても、なんで、おふたりの行方《ゆくえ》がわかりましょう? もし、もし、待《ま》ってください。毎晩《まいばん》、蛾《が》がやってきますから、知《し》っているか聞《き》いてみてあげましょう。」と、答《こた》えました。  踊《おど》っている人形《にんぎょう》は、なにぶんにもよろしくといって頼《たの》みました。夜《よる》になると、街《まち》の中《なか》は、いっそう、にぎやかになりました。楽器《がっき》の音《ね》が流《なが》れたり、草花屋《くさばなや》が出《で》たりしました。ちょうど、そのとき、どこからか、街燈《がいとう》の光《ひかり》を慕《した》って、蛾《が》が飛《と》んできました。光《ひかり》は人形《にんぎょう》と約束《やくそく》をしたことを思《おも》い出《だ》して、二つの人形《にんぎょう》について、なにか知《し》らないかとたずねたのです。 「お人形《にんぎょう》ですって? 私《わたし》がなんで、そんなものを注意《ちゅうい》しましょう。私《わたし》の好《す》きなのは、花《はな》とあなたばかしです。昼《ひる》は、花《はな》をたずねて歩《ある》き、夜《よる》は、こうして光《ひかり》を慕《した》って飛《と》んできます。短《みじか》い私《わたし》たちの一|生《しょう》は、この世《よ》の中《なか》でいちばん美《うつく》しいものを見《み》ることです。」と、蛾《が》は、いいました。  あくる日《ひ》の晩《ばん》、街燈《がいとう》は、このことを踊《おど》っている人形《にんぎょう》に話《はな》しました。これを聞《き》くと人形《にんぎょう》は、がっかりしました。それは、ふたりの友《とも》だちの消息《しょうそく》がわからないということよりも、世《よ》の中《なか》でいちばん美《うつく》しいのは、花《はな》と光《ひかり》であると、蛾《が》がいったというなら、自分《じぶん》は、まったく無視《むし》されたためです。 「そう、力《ちから》を落《お》としたものではありません。もう、しばらく、あなたがここにおいでなさるなら、だれか、ほかのものにも聞《き》いてみてあげますよ。」と、街燈《がいとう》は、なぐさめたのであります。  二、三|日《にち》たってから、あたりのまぶしい昼間《ひるま》のこと、つばめが、ちょうど頭《あたま》の上《うえ》へ飛《と》んできました。 「もし、もし、つばめさん、すこしおたずねしたいことがあるのですが……。」と、街燈《がいとう》は、呼《よ》びとめたのです。すると、つばめは、屋根《やね》のひさしにとまりました。 「なんのご用《よう》ですか?」といって、つばめは、首《くび》をかしげて、街燈《がいとう》を見《み》ました。 「ここから、あの店《みせ》さきに飾《かざ》ってある、踊《おど》っている人形《にんぎょう》が見《み》えるでしょう……。」  つばめの目《め》は、よかったから、すぐわかりました。 「よく見《み》えます。あの小《ちい》さなたなには、たった一つしかありませんね。」 「三つあったのですが、ついこのごろ、二つ売《う》れてしまったのですよ。三つのお人形《にんぎょう》は、同《おな》じ人《ひと》の手《て》で作《つく》られたので、それは仲《なか》がよかったのです。それで、一つになってしまって、あのお人形《にんぎょう》はさびしがっています。」 「それは、無理《むり》もないことです。」と、つばめも、同情《どうじょう》しました。 「そんなわけで、二つのお友《とも》だちは、どこへいったかと思《おも》い暮《く》らしているのですが、あなたは、身軽《みがる》に方々《ほうぼう》をお歩《ある》きなさいますが、お知《し》りにはなりませんか……。」と、街燈《がいとう》は、いいました。 「いくら、私《わたし》が、身軽《みがる》に方々《ほうぼう》を飛《と》びまわるからといって、どうして、家《うち》の内《なか》のことまでがわかりましょう……。それは、無理《むり》というものですよ。」 「一つのすわっているお人形《にんぎょう》は、外国人《がいこくじん》が買《か》っていったというのですが。」 「外国人《がいこくじん》ですって……。そういえば、私《わたし》は、人形《にんぎょう》をたくさん集《あつ》めている外国人《がいこくじん》を知《し》っています。その人《ひと》は、ここから七、八|里《り》離《はな》れた、海岸《かいがん》に住《す》んでいました。家族《かぞく》といっては、ほかに年《とし》とった、雇《やと》いのおばあさんがいるばかり、広《ひろ》い庭《にわ》には、いっぱい草花《くさばな》を植《う》えて、これを愛《あい》していました。また、晩方《ばんがた》になると、その人《ひと》は、海《うみ》のほとりに立《た》って、あちらをながめて、ふるさとのことを思《おも》い出《だ》していました。ある日《ひ》、私《わたし》が、人《ひと》のいない時分《じぶん》に、窓《まど》からのぞくと、いろいろのお人形《にんぎょう》が、たなの上《うえ》に飾《かざ》られてありましたが、それらのお人形《にんぎょう》たちは、近々《ちかぢか》に、主人《しゅじん》が外国《がいこく》へ帰《かえ》るそうだが、たぶん、そのときつれてゆかれるだろうということを話《はな》していました。知《し》らない国《くに》へゆくのをおもしろがっているものもありましたが、また、いったら、もう二|度《ど》とこちらへは帰《かえ》られないといって、悲《かな》しんでいるものもありました。……もし、あの中《なか》に、そのお友《とも》だちがいられたなら、おそらく、もう消息《たより》は聞《き》かれますまい。なぜなら、二|度《ど》めに、私《わたし》が、その家《いえ》の窓《まど》をのぞいたときには、すっかりお人形《にんぎょう》は、荷造《にづく》りされていたようすでしたから……。」  つばめは、こう物語《ものがた》ったのであります。街燈《がいとう》は夜《よる》になったときに、ふたたび、このことを踊《おど》っている人形《にんぎょう》に話《はな》しました。 「あの人形《にんぎょう》は、どこへいってもかわいがられるでしょう。」と、人形《にんぎょう》は沈《しず》みがちに、踊《おど》りながらいいました。 [#7字下げ]三[#「三」は中見出し]  それから、まもない、ある日《ひ》のことでした。酔《よ》っぱらいの紳士《しんし》が、人形屋《にんぎょうや》の店《みせ》さきへはいってきて、いろいろの人形《にんぎょう》を出《だ》させて見《み》ていましたが、どれも気《き》にいりませんでした。そのうち、踊《おど》っている人形《にんぎょう》に目《め》をつけると、さっそく、手《て》に取《と》りあげて、「これがいい。」といって、金《かね》を払《はら》い、例《れい》のごとく箱《はこ》にいれてもらって持《も》ってゆきました。その晩《ばん》、街燈《がいとう》は、店《みせ》さきを照《て》らして、びっくりしました。踊《おど》っている人形《にんぎょう》の姿《すがた》が見《み》えなかったからです。 「とうとうあのお人形《にんぎょう》さんも、どこかへいってしまった。」と、街燈《がいとう》は、ひとりごとをしました。  酔《よ》っぱらいの紳士《しんし》に、つれられていった人形《にんぎょう》は、気《き》が気《き》でなかった。自分《じぶん》は、どんなところへつれられてゆくのだろう? こう、暗《くら》い箱《はこ》の中《なか》で考《かんが》えていました。  紳士《しんし》は、電車《でんしゃ》に乗《の》ると、うとうと居眠《いねむ》りをしました。そして、ふと気《き》がつくと、乗《の》り越《こ》していましたので、びっくりして飛《と》び降《お》りました。家《うち》へ帰《かえ》るまで、人形《にんぎょう》をどこかへ忘《わす》れてきたことに気《き》づかなかったのであります。  不幸《ふこう》な、この人形《にんぎょう》は、それからいろいろのめにあいましたが、その年《とし》の夏《なつ》の末《すえ》の時分《じぶん》に、ほかの古道具《ふるどうぐ》などといっしょに、露店《ろてん》にさらされていました。 「おちぶれても踊《おど》っているなんて、のんきなものですね。」と、こちらのすみで、すずりと筆立《ふでた》てが、あちらの人形《にんぎょう》を見《み》て冷笑《れいしょう》していました。  しかし、露店《ろてん》の主人《しゅじん》は、人形《にんぎょう》を大事《だいじ》にしました。車《くるま》に乗《の》せて、はこぶ時分《じぶん》にも、手《て》や、足《あし》をいためはしないかと新聞紙《しんぶんし》で巻《ま》いて、できるだけの注意《ちゅうい》をしたのです。 「美《うつく》しいものは、ちがったものだ。」と、ほかの古道具《ふるどうぐ》たちは、自分《じぶん》らが、そのようにかわいがられないので、不平《ふへい》をもらしたものもあります。しかし、人形《にんぎょう》は、昔《むかし》のことを思《おも》い出《だ》すたびに、お友《とも》だちは、いまごろは、それぞれおちついて、平和《へいわ》に暮《く》らしているであろう。自分《じぶん》ばかりは、いまだに身《み》の上《うえ》が定《さだ》まらぬのを悲《かな》しく思《おも》いました。ある日《ひ》のことです。いつものごとく、露店《ろてん》にならべられると、かたわらに、新《あたら》しくどこからか売《う》られてきた、電気《でんき》スタンドがありました。 「私《わたし》は、今日《きょう》、ここへお仲間入《なかまい》りにきたのですが、あなたと姉妹《きょうだい》のように似《に》ているお人形《にんぎょう》さんといままで、一つの家《うち》で暮《く》らしていましたよ。」と、スタンドはつくづく、踊《おど》っている人形《にんぎょう》を見《み》ながらいいました。 「どんなようすの人形《にんぎょう》ですか?」と、つい踊《おど》っている人形《にんぎょう》は、スタンドの話《はなし》に、つりこまれて答《こた》えたのでした。なぜなら、自分《じぶん》の知《し》りたいと思《おも》っている友《とも》の身《み》の上《うえ》のような気《き》がしたからです。 「ちょうど、あなたと同《おな》じくらいの脊《せ》をして、すらりとすまして立《た》っているお人形《にんぎょう》でした。」 「それなら、わたしと仲《なか》のいいお友《とも》だちですよ。わたしは、どれほど、その方《かた》の身《み》の上《うえ》を知《し》りたいと思《おも》いましたか。どうか、わたしに、くわしくお話《はなし》を聞《き》かしてくださいませんか。」と頼《たの》みました。  電気《でんき》スタンドは、つぎのように物語《ものがた》ったのであります。 「いままで、私《わたし》がいた家《うち》のお嬢《じょう》さんが、ある日《ひ》、街《まち》から、美《うつく》しい、立《た》ち姿《すがた》のお人形《にんぎょう》を買《か》って帰《かえ》りました。すると、家《うち》じゅうの人《ひと》たちは、まあ、きれいなお人形《にんぎょう》だといって、たなの上《うえ》へ飾《かざ》りました。そして、それまで、たなの上《うえ》に載《の》せてあった、古《ふる》いつぼや、また汚《よご》れたおもちゃなどは、新《あたら》しくきたお人形《にんぎょう》に、蹴落《けお》とされたように、たなから取《と》りのぞかれてしまって、立《た》ち姿《すがた》の美《うつく》しいお人形《にんぎょう》だけが、ひとり、そこを占領《せんりょう》したのであります。すると、いままで、たなの上《うえ》にあった、つぼや、おもちゃは、不平《ふへい》をいいました。あのお人形《にんぎょう》がきたばっかりに、私《わたし》たちは、たなの上《うえ》からおろされて、箱《はこ》の中《なか》へおしこめられてしまった。ほんとうに、にくいお人形《にんぎょう》だといったのでした。耳《みみ》のとれた、馬《うま》のおもちゃは、口《くち》の欠《か》けたつぼに、そう不平《ふへい》をいうものでありません、いつか、あのお人形《にんぎょう》も私《わたし》たちのようになるときがありますよ、といってなぐさめたのでした。それは、まったくお馬《うま》のいったとおりでした。ある朝《あさ》、お嬢《じょう》さんは、そうじをしようとして、はたきで、あやまってお人形《にんぎょう》を落《お》としました。そのはずみに、お人形《にんぎょう》の片手《かたて》がもげてしまった。お嬢《じょう》さんはびっくりして、さっそく、のりで、とれた手《て》をつけました。けれどどうしても傷跡《きずあと》はとれませんでした。このお人形《にんぎょう》が、こうして不具《かたわ》になると、箱《はこ》の中《なか》へいれられた、口《くち》の欠《か》けたつぼや、耳《みみ》のとれたお馬《うま》や、ほかのおもちゃたちは、また取《と》り出《だ》されて、たなの上《うえ》へ並《なら》べられたのでした。それは、もはやひとり、このお人形《にんぎょう》だけが完全《かんぜん》だとは、いわれなかったからです。それで、いまは、お人形《にんぎょう》もほかのおもちゃたちも、平等《びょうどう》のもてなしを受《う》けて、みんなは、仲《なか》よく、平和《へいわ》に暮《く》らしています……。」と、話《はな》したのであります。  踊《おど》っている人形《にんぎょう》は、こうして、二人《ふたり》の友《とも》だちの消息《しょうそく》を知《し》ることができました。一つは、外国《がいこく》へゆき、一つはお嬢《じょう》さんの家《うち》に、暮《く》らしていることがわかった。けれど、自分《じぶん》の消息《しょうそく》は、どうしたら、あのふたりの人形《にんぎょう》に知《し》らせることができましょう? 「もし、お友《とも》だちは、わたしが、まだこうして、街《まち》の露店《ろてん》にさらされていると知《し》ったら、不幸《ふこう》な方《かた》だといって、あわれんでくださるにちがいない。」と、踊《おど》っている人形《にんぎょう》はいいました。 「いえ、そうでありません。きっと、ふたりのお友《とも》だちは、いまごろは、怠屈《たいくつ》して、この明《あか》るい華《はな》やかな街《まち》をもう一|度《ど》見《み》たいと思《おも》っていなさるでしょう。そして、あなたの身《み》の上《うえ》をうらやましがっていなさるにちがいありません。」と、電気《でんき》スタンドは、いいました。なぜなら、ひとのことというものは、なんでもよく見《み》えるものですから……。毎晩《まいばん》、大空《おおぞら》に照《て》らす月《つき》だけは、みんなの運命《うんめい》を知《し》っていました。そして、ある晩《ばん》であったが、あの街燈《がいとう》にも、踊《おど》っている人形《にんぎょう》のことを話《はな》したのです。 底本:「定本小川未明童話全集 6」講談社    1977(昭和52)年4月10日第1刷 底本の親本:「未明童話集4」丸善    1930(昭和5)年7月20日 初出:「キング」    1928(昭和3)年11月 ※表題は底本では、「三つのお人形《にんぎょう》」となっています。 ※「消息」に対するルビの「しょうそく」と「たより」の混在は、底本通りです。 入力:特定非営利活動法人はるかぜ 校正:へくしん 2021年10月27日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。