机の抽斗 田中貢太郎 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)賃銀《ちんぎん》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)大正三年|比《ごろ》 -------------------------------------------------------  ハワイのヒロはホノルルに次ぐ都会であるが、そのヒロに某と云う商店があって、賃銀《ちんぎん》の関係から支那《しな》人や日本人を事務員に使っていた。某時《あるとき》その事務員の一人であった支那人がしくじったので、すぐ解雇してその後《あと》へ新らしく事務員を入れたところで、数日してその事務員は来なくなった。商店の方では事務にさしつかえるのでまた別の事務員を入れたが、その事務員も数日すると来なくなった。商店の方ではなんと云う事務員の落ちつかない机だろうと云ってまた別の事務員を入れたが、それも数日すると来なくなり、その後《のち》も一人二人入れてみたがそれもすぐ来なくなった。そこで店主が不審して来なくなった事務員について詮議してみると、解雇せられた支那人のいた机で事務を執《と》っていて、その机の抽斗《ひきだし》を啓《あ》けると傍へ人が来て立つような気がして、事務を執っていられないので来なくなると云うことが判った。  これは「電球にからまる怪異」の話とともに、大正三年|比《ごろ》ハワイに住っていた田島金次郎|翁《おう》の土産話《みやげばなし》である。 底本:「日本怪談大全 第二巻 幽霊の館」国書刊行会    1995(平成7)年8月2日初版第1刷発行 底本の親本:「日本怪談全集 第一巻」改造社    1934(昭和9)年 入力:川山隆 校正:門田裕志 2012年5月22日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。