四つの道徳 大杉栄 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)小児《こども》 -------------------------------------------------------  小児《こども》が河の中に溺れている。そこを四人の人が通り掛かる。  その一人は思った。自己はただ自己のためにすれば善い。彼はそ知らぬ顔をして通り過ぎた。  もう一人は考えた。もしあの児を助けたら、神様はきっと何かの褒美を下さるに違いない。彼はただちに水の中に飛び込んだ。  もう一人も考えた。人の満足には、内的満足と外的満足との二種類がある。しかして、人を助けるのはその前者に属して、永久に続くところの快感を得る道である。救わざるべからず。彼もまた、ただちに水の中に飛び込んだ。  もう一人は、幼少の頃より自己は人類の一分子であると教えられている。したがって、人の苦痛は即ち我が苦痛である、人の幸福は即ち我が幸福であると感じている。されば、その小児の叫び声を聞くや否や、何等の考うるところなく、ほとんど無意識に水の中に踏り込んだ。 底本:「大杉栄全集 第14巻」日本図書センター    1995(平成7)年1月25日復刻発行 底本の親本:「大杉栄全集 第14巻 人生について」現代思潮社    1965(昭和40)年3月31日発行 初出:「家庭雑誌 五巻四号」    1907(明治40)年2月 入力:笹平健一 校正:持田和踏 2021年12月27日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。