お母さんはえらいな 小川未明 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)下《した》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)四|人《にん》 -------------------------------------------------------  いちばん下《した》の勇《いさむ》ちゃんには、よくおなかをいためるので、なるべく果物《くだもの》はたべさせないようにしてありましたから、ほかの兄《にい》さんや、姉《ねえ》さんたちが、果物《くだもの》をたべるときには、勇《いさむ》ちゃんの遊《あそ》びに出《で》て、いないときとか、また夜《よる》になって、勇《いさむ》ちゃんが寝《ね》てしまってから、こっそりとたべることにしていました。 「僕《ぼく》、びわがたべたいのだけど。」 「私《わたし》は、水蜜《すいみつ》がたべたいわ。」  兄《にい》さんや、姉《ねえ》さんたちは、果物《くだもの》の季節《きせつ》になると、いろいろおいしそうな、果物《くだもの》が、店頭《てんとう》に並《なら》ぶのを見《み》てきて話《はなし》をしました。 「晩《ばん》に、勇《いさむ》ちゃんが休《やす》んでから、買《か》ってきておたべなさい。」と、お母《かあ》さんは、おっしゃったのであります。  ところが、ある日《ひ》のこと、お土産《みやげ》に、みごとなパイをもらったのでした。 「まあ、おいしそうね。」と、お姉《ねえ》さんが、いいました。 「お母《かあ》さん、すぐに、切《き》っておくれよ。」と、太郎《たろう》さんが、いいました。 「果物《くだもの》がはいっているから、勇《いさむ》ちゃんは、たべていけないのですね。」と、二郎《じろう》さんが、パイをながめながらいいました。  さっきから、やはりだまって、おいしそうな大《おお》きなパイをながめていた、勇《いさむ》ちゃんは、これをきくと真《ま》っ赤《か》な顔《かお》をして、二郎《じろう》さんにとびつきました。 「そんなこと、あるもんか、僕《ぼく》、みんなたべるんだい。」と、けんかがはじまったのでした。 「ああ、これは、勇《いさむ》ちゃんもたべていいんですよ。」と、お母《かあ》さんが、おっしゃったので、やっと勇《いさむ》ちゃんの怒《いか》りは解《と》けましたが、 「僕《ぼく》、たくさんもらうんだ。」と、勇《いさむ》ちゃんが、がんばると、 「ずるいや、お母《かあ》さん、公平《こうへい》に分配《ぶんぱい》してくださいね。」と、二郎《じろう》さんが、叫《さけ》びました。 「お母《かあ》さんは、いつも、公平《こうへい》に分配《ぶんぱい》するじゃありませんか。」  このとき、二郎《じろう》さんが、メートル尺《じゃく》を持《も》ってきたので、みんなは、笑《わら》い出《だ》しました。  パイをたべた後《あと》で、お母《かあ》さんは、たなからゼリビンズのはいった袋《ふくろ》をおろして、四|人《にん》の子供《こども》たちに、分《わ》けてくださいました。色《いろ》とりどりな曲玉形《まがたまがた》のお菓子《かし》は、めいめいの前《まえ》にあったさらの中《なか》でかがやいて見《み》えました。 「僕《ぼく》のは、これんばかし。」と、太郎《たろう》さんがいいました。 「姉《ねえ》ちゃんが、いちばんたくさんだ。」と、二郎《じろう》さんがいいました。 「いいえ、みんなおんなじですよ。かんじょうをしてごらんなさい。」と、お母《かあ》さんがいわれました。四|人《にん》はかんじょうすると、いちばん小《ちい》さい勇《いさむ》ちゃんのが、一つ多《おお》かっただけで、三|人《にん》のゼリビンズの数《かず》はまったくおんなじだったのです。 「それごらんなさい。お母《かあ》さんは、かんじょうしなくても公平《こうへい》でしょう。」 「お母《かあ》さんは、えらいな。」と、子供《こども》たちは感心《かんしん》して目《め》をみはりました。 底本:「定本小川未明童話全集 10」講談社    1977(昭和52)年8月10日第1刷発行    1983(昭和58)年1月19日第6刷発行 ※表題は底本では、「お母《かあ》さんはえらいな」となっています。 入力:特定非営利活動法人はるかぜ 校正:仙酔ゑびす 2012年2月19日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。