夏の夜の博覧会はかなしからずや 中原中也 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)明《あかり》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定    (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数) (例)Ⅱ  [#(…)]:訓点送り仮名  (例)不忍[#(ノ)]池 ------------------------------------------------------- 夏の夜の、博覧会は、哀しからずや 雨ちよと降りて、やがてもあがりぬ 夏の夜の、博覧会は、哀しからずや 女房買物をなす間、かなしからずや 象の前に余と坊やとはゐぬ 二人蹲んでゐぬ、かなしからずや、やがて女房きぬ 三人博覧会を出でぬかなしからずや 不忍[#(ノ)]池の前に立ちぬ、坊や眺めてありぬ そは坊やの見し、水の中にて最も大なるものなりきかなしからずや、 髪毛風に吹かれつ 見てありぬ、見てありぬ、 それより手を引きて歩きて 広小路に出でぬ、かなしからずや 広小路にて玩具を買ひぬ、兎の玩具かなしからずや [#3字下げ]2[#「2」は中見出し] その日博覧会に入りしばかりの刻は なほ明るく、昼の明《あかり》ありぬ、 われら三人《みたり》飛行機にのりぬ 例の廻旋する飛行機にのりぬ 飛行機の夕空にめぐれば、 四囲の燈光また夕空にめぐりぬ 夕空は、紺青の色なりき 燈光は、貝釦の色なりき その時よ、坊や見てありぬ その時よ、めぐる釦を その時よ、坊やみてありぬ その時よ、紺青の空! [#地付き](一九三六・一二・二四) 底本:「新編中原中也全集 第二巻 詩Ⅱ」角川書店    2001(平成13)年4月30日初版発行 ※底本のテキストは、著者自筆稿によります。 ※()内の編者によるルビは省略しました。 入力:きりんの手紙 校正:hitsuji 2021年3月27日作成 2022年2月27日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。