少女と老兵士 小川未明 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)某幼稚園《ぼうようちえん》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)六|人《にん》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)[#ここから3字下げ] -------------------------------------------------------  某幼稚園《ぼうようちえん》では、こんど陸軍病院《りくぐんびょういん》へ傷痍軍人《しょういぐんじん》たちをおみまいにいくことになりましたので、このあいだから幼《おさな》い生徒《せいと》らは、歌《うた》のけいこや、バイオリンの練習《れんしゅう》に余念《よねん》がなかったのです。きょうも、「父《ちち》よあなたは、強《つよ》かった」を、バイオリンを弾《ひ》くものと、うたうものとで調子《ちょうし》を合《あ》わせたのでありました。 「よくできました。これでおしまいにしましょうね。あしたは、お国《くに》のために、負傷《ふしょう》をなさった、兵隊《へいたい》さんたちをおみまいにまいるのですよ。」と、女《おんな》の先生《せんせい》がいいました。  門《もん》から流《なが》れ出《で》る生徒《せいと》らを、二人《ふたり》の若《わか》い保姆《ほぼ》が、たがいに十五、六|人《にん》ずつ引《ひ》きつれて、いつものごとく、道《みち》を左右《さゆう》に、途中《とちゅう》まで見送《みおく》ったのであります。 「ああ、わたしくたびれたわ。先生《せんせい》、おんぶしてちょうだい。」と、白《しろ》い帽子《ぼうし》を被《かむ》った、一人《ひとり》の女《おんな》の子《こ》が、お姉《ねえ》さんにでもねだるように、保姆《ほぼ》さんに、いいました。  子供《こども》のわがままをきくことになれている、そして、できることはしてやっている彼女《かのじょ》は、日《ひ》の照《て》り返《かえ》す、道《みち》の上《うえ》へかがんで、背中《せなか》をまるくして、その子《こ》をおぶおうとしました。すると、かたわらから、 「先生《せんせい》、わたしもよ。」と、いって、目《め》のぱっちりした、同《おな》じ年《とし》ごろの女《おんな》の子《こ》が、いっしょに飛《と》びつきました。たとえ小《ちい》さくても、二人《ふたり》の子供《こども》の力《ちから》に押《お》されて、若《わか》い保姆《ほぼ》は、危《あや》うく前《まえ》のめりになろうとしました。 「いっしょに、おんぶできませんから、ひとりずつになさいね。」  二人《ふたり》が、手《て》を放《はな》した間《ま》に保姆《ほぼ》は、立《た》ち上《あ》がりました。 「赤《あか》ちゃんみたいに、おんぶなんかして、おかしいから、さあ、歩《ある》いていきましょう。」  先《さき》へいった、四、五|人《にん》の子供《こども》たちは、先生《せんせい》のくるのを待《ま》っていました。そして、近《ちか》づくと両手《りょうて》へほかの子供《こども》がひとりずつすがり、もうけっしてだれにも先生《せんせい》を渡《わた》さないというふうにして、歩《ある》いていきました。 「とも子《こ》ちゃん、あすこに大《おお》きなキューピーさんがあってよ。」  さっきの白《しろ》い帽子《ぼうし》を被《かむ》った子《こ》が、ランドセルの中《なか》の筆入《ふでい》れを鳴《な》らしながら、片側《かたがわ》にある店《みせ》の方《ほう》に向《む》かって走《はし》りました。 「ほんと。」  目《め》のぱっちりした子《こ》が、その後《あと》を追《お》ったのであります。 「大《おお》きなおめめで、大《おお》きなおぽんぽんね。」 「とも子《こ》ちゃんのおめめみたいよ。」 「あら、私《わたし》の目《め》、こんなに大《おお》きくないわ。」 「あら、先生《せんせい》が見《み》えなくなったわ。」  二人《ふたり》は、店《みせ》の前《まえ》をはなれると、駈《か》け出《だ》しました。ちょうどそのとき、横合《よこあ》いから、演習《えんしゅう》にいった兵隊《へいたい》さんたちが道《みち》をさえぎりました。砲兵隊《ほうへいたい》とみえて、馬《うま》が、大砲《たいほう》や、いろいろのものを乗《の》せた車《くるま》を引《ひ》いて、あとからも、あとからも、ガラガラとつづきました。兵隊《へいたい》さんの黄色《きいろ》な服《ふく》は、いくところか、汗《あせ》がにじみ出《で》て黒《くろ》くなっていました。けれど、くつ音《おと》をそろえてわき見《み》もせず、顔《かお》を前《まえ》に向《む》けて進《すす》んでいました。 「通《とお》れなくて、困《こま》るわ。」 「しかたがないわ、兵隊《へいたい》さんですもの。」と、とも子《こ》ちゃんは、いいました。  ふと、とも子《こ》ちゃんは、頭《あたま》を上《あ》げて、青《あお》い空《そら》をながめました。すると、なんだか急《きゅう》に悲《かな》しくなったのです。 「兄《にい》さんは、どうしていらっしゃるだろう?」  翌日《よくじつ》の午後《ごご》でありました。先生《せんせい》に引《ひ》きつれられて、女《おんな》の子《こ》の多《おお》い、幼稚園《ようちえん》の生徒《せいと》たちは、ぞろぞろと町《まち》の中《なか》を歩《ある》いていました。病院《びょういん》への途中《とちゅう》であります。バイオリンを提《さ》げている子《こ》をのぞいて、ほかの子供《こども》たちは、なにかしら兵隊《へいたい》さんをなぐさめるためにあげようとするものを手《て》に持《も》っていました。白《しろ》い服《ふく》、青《あお》い服《ふく》、白《しろ》い帽子《ぼうし》、水色《みずいろ》の帽子《ぼうし》、ようすはいろいろでありましたが、いずれも小《ちい》さくてぴちぴちしていて、お人形《にんぎょう》の行列《ぎょうれつ》のように見《み》られました。通《とお》り合《あ》わせるものは、だれでも、この無邪気《むじゃき》な一人《ひとり》一人《ひとり》の顔《かお》をのぞき込《こ》むようにして、ほほえまぬものはなかったのでした。やがて、ゴー=ストップのところへ出《で》ました。けれど、この虫《むし》のはうようなのろい行列《ぎょうれつ》は、進《すす》めも、止《と》まれも、おかまいなしに歩《ある》くよりは、どうすることもできなかったので、やはり、のろのろと歩《ある》いていました。右《みぎ》からも左《ひだり》からも、前《まえ》からも後《うし》ろからも、きかかった車《くるま》は、みんな子供《こども》のために止《と》まってしまいました。 「兵隊《へいたい》さんと子供《こども》にかかってはなあ。」と、ガソリンの損《そん》になるのも忘《わす》れて、運転手《うんてんしゅ》が、笑《わら》いながらいっていました。  白《しろ》い雲《くも》の峰《みね》がくずれたころ、この列《れつ》は、広々《ひろびろ》とした病院《びょういん》の門《もん》を入《はい》って、小砂利《こじゃり》の上《うえ》へ軽《かろ》やかなくつ音《おと》をたてたのであります。  いくつか病棟《びょうとう》があったが、この幼《おさな》い子供《こども》たちの向《む》かったのは、いちばん後方《こうほう》にあった、白《しろ》い病舎《びょうしゃ》でした。そうじのゆきとどいた、大《おお》きなへやの中《なか》には、幾列《いくれつ》となくベッドが整《ただ》しく並《なら》んでいました。かたわらの卓《たく》の上《うえ》には、薬《くすり》びんや、草花《くさばな》の鉢《はち》がのせてありました。そして、白《しろ》い服《ふく》を着《き》た兵隊《へいたい》さんはベッドの上《うえ》へ横《よこ》になっているもの、あるいは、腰《こし》をかけているもの、また、すわっているもの、また、松葉《まつば》づえを抱《かか》えて立《た》ち話《ばなし》をしているもの、ちょうどアルファベットのビスケットのように、その形《かたち》がいろいろでありました。毎日《まいにち》のように、個人《こじん》となく、団体《だんたい》となく、みまう人《ひと》が絶《た》えないので、こうした行列《ぎょうれつ》が珍《めずら》しくなかったが、この暑《あつ》いのに、よくきてくれたと、目《め》を細《ほそ》くして、汗《あせ》に額《ひたい》のぬれた子供《こども》たちを見《み》ていたものもあります。そのうちに、子供《こども》らは、正面《しょうめん》へずらりとお行儀《ぎょうぎ》よく並《なら》んで、兵隊《へいたい》さんの方《ほう》を見《み》て、バイオリンに合《あ》わせてうたいはじめました。 [#ここから3字下げ] 父《ちち》よあなたは強《つよ》かった かぶとをこがす炎熱《えんねつ》に 敵《てき》の屍《かばね》とともにねて 泥水《どろみず》すすり草《くさ》をかみ [#ここで字下げ終わり]  終《お》わると、兵隊《へいたい》さんたちは、手《て》をパチパチとたたいてくれました。拍手《はくしゅ》はそのへやからばかりでなく、へやの外《そと》の方《ほう》からも起《お》こったのです。それから、子供《こども》たちは、一人《ひとり》、一人《ひとり》、兵隊《へいたい》さんのそばへいって、自分《じぶん》の持《も》ってきたもの、たとえば作文《さくぶん》や、自由画《じゆうが》や、またお人形《にんぎょう》などを真心《まごころ》こめて、おみまいにあげたのです。このとき、兵隊《へいたい》さんは、みんなのくれるものを受《う》け取《と》ってにこにこしていました。  とも子《こ》ちゃんは、へやの中《なか》を見《み》まわしていました。自分《じぶん》は、どの人《ひと》にあげよう……もとより、自分《じぶん》の知《し》る顔《かお》のあろうはずがないけれど、それでも、やさしそうな、話《はなし》をしてくれる人《ひと》にと思《おも》ったのです。  若《わか》い兵隊《へいたい》さんたちとくらべて、年《とし》とった兵隊《へいたい》さんがあちらのすみの方《ほう》に、さびしそうにしてすわっていました。顔《かお》にはひげがのびて、片手《かたて》を繃帯《ほうたい》していました。たぶん激戦《げきせん》に、手《て》をやられたのでしょう。とも子《こ》ちゃんは、その兵隊《へいたい》さんのところへいって、自分《じぶん》が骨《ほね》をおって色紙《いろがみ》で造《つく》った、千|羽《ば》づるとかめの子《こ》をあげました。 「ありがとう。」と、兵隊《へいたい》さんは、にっこりとして、会釈《えしゃく》しました。 「おじさん、うちの兄《にい》さんを知《し》らないでしょう。」 「あなたのお兄《にい》さんも、戦争《せんそう》にいっていられますか。」と、兵隊《へいたい》さんが、ききました。 「ええ、もう一|年《ねん》になるのよ。」  少女《しょうじょ》は、なにか考《かんが》え出《だ》そうとするように、ぱっちりとした目《め》をみはって、窓《まど》の方《ほう》を見《み》ました。 「それは、ご苦労《くろう》さまですね。」  年老《としと》った兵隊《へいたい》さんは、この子供《こども》の頭《あたま》をなでてやりたい気《き》がしましたが、やめました。 「また、いいものこしらえたら、おじさんに持《も》ってきてあげるわ。」  少女《しょうじょ》は、振《ふ》り向《む》いて、先生《せんせい》の立《た》っていらっしゃる方《ほう》へ走《はし》っていきました。  病院《びょういん》の屋上《おくじょう》へ出《で》ると、清《きよ》らかな流《なが》れのように、いつも涼《すず》しい風《かぜ》が吹《ふ》いていました。月《つき》がなく、星明《ほしあ》かりでは、たがいの顔《かお》もよくわからなかったが、傷兵《しょうへい》たちは、静《しず》かにして、レコードに聞《き》き入《い》っていました。両眼《りょうがん》を失《うしな》って、ここまで上《のぼ》ってくるのに、二人《ふたり》の看護婦《かんごふ》の肩《かた》に助《たす》けられなければならぬ人《ひと》もあったが、その人《ひと》もやがて腰《こし》をかけると、じっとして、同《おな》じように聞《き》き入《い》っているのでありました。あちらの地平線《ちへいせん》をほど近《ちか》い、にぎやかな街《まち》の燈火《ともしび》が、ぽうと闇《やみ》を染《そ》めているのを見《み》て、兵士《へいし》の中《なか》には、戦場《せんじょう》を思《おも》い出《だ》すものもあったでしょう。ちょうどレコードは、愛馬行進歌《あいばこうしんか》をうたいはじめたところです。  老兵士《ろうへいし》も、みんなといっしょに、この歌《うた》に耳《みみ》を傾《かたむ》けていましたが、汲《く》み尽《つ》くせない悲《かな》しみが、胸《むね》の底《そこ》から、新《あた》らしくこみ上《あ》げてくるのを覚《おぼ》えました。同時《どうじ》に、心《こころ》の目《め》は、昼間《ひるま》慰問《いもん》にきてくれた、幼稚園《ようちえん》の生徒《せいと》らの混《まじ》じりけのない姿《すがた》をよみがえらせました。そして、あの目《め》のぱっちりした少女《しょうじょ》の、 「おじさん、うちの兄《にい》さんを知《し》らない?」と、いった言葉《ことば》までが、いまだに、耳《みみ》についているのを感《かん》じたのです。  おそらく、あの子《こ》の兄《あに》も補充兵《ほじゅうへい》であろうと思《おも》うと、老兵士《ろうへいし》をして○○攻撃《こうげき》の際《さい》に、自分《じぶん》の見《み》た一|光景《こうけい》を思《おも》い出《だ》させるのでした。険阻《けんそ》な敵《てき》の陣地《じんち》へ突撃《とつげき》に移《うつ》る暫時前《しばらくまえ》のことです。 「君《きみ》たち、いらないものは捨《す》て、ごく身軽《みがる》になっていくのだ。」  こう注意《ちゅうい》してやると、後方《こうほう》から、前線《ぜんせん》へ送《おく》られたばかりの、若《わか》い兵士《へいし》の一人《ひとり》が、目前《もくぜん》で、背嚢《はいのう》をおろして、その内《うち》を改《あらた》めていました。そのとき、老兵士《ろうへいし》は、ふくらんだ背嚢《はいのう》をみつめて、まごまごしている若《わか》い兵士《へいし》に向《む》かって、 「なにがそんなに入《はい》っているのか。」と、きいたのです。すると、その年若《としわか》の兵士《へいし》は、一つ、一つ出《だ》して見《み》せて、 「これは、お守《まも》りです。出《で》るときに、みんながくださったのです。」 「これは、お薬《くす》りです。お母《かあ》さんが、入《い》れてくださったのです。」 「これは、日《ひ》の丸《まる》の旗《はた》に、たくさんの人《ひと》の名《な》が書《か》いてあるのです。」 「これは、姉《あね》からの手紙《てがみ》です。みんな、大事《だいじ》なものばかりです。」  そういって、じっと老兵士《ろうへいし》の顔《かお》を見上《みあ》げた、あの青年《せいねん》の澄《す》んだ目《め》には、これを身《み》につけて自分《じぶん》は死《し》んでいくという純情《じゅんじょう》があらわれていました。 「いや、おれたちの体《からだ》が弾丸《だんがん》になるのだ。みんな捨《す》ててしまえ!」と、老兵士《ろうへいし》は、口《くち》まで出《で》たが、無理《むり》に、だまって、じっと若《わか》い兵士《へいし》の顔《かお》を見返《みかえ》しました。その光《ひか》った瞳《ひとみ》の中《なか》に、たとえ肉体《にくたい》は亡《ほろ》びても、けっして永久《えいきゅう》に死《し》なない生命《せいめい》のあることが刹那《せつな》に感《かん》じられたのであります。  いま、老兵士《ろうへいし》は、蓄音機《ちくおんき》の歌《うた》をきくためでなく、そのときのことを思《おも》い出《だ》して、深《ふか》くうなだれていました。 「まもなくして、あの突撃《とつげき》が起《お》こったのだな。」  大《おお》きく開《ひら》いた目《め》、真《ま》っ赤《か》な顔《かお》、火《ひ》がだるまのようになって、敵陣《てきじん》目《め》がけて、一塊《ひとかたまり》となって、突《つ》っ込《こ》んでいった友軍《ゆうぐん》の姿《すがた》が……。 「おじさんは、うちの兄《にい》さんを知《し》らないでしょう。」  またしても、こういって、自分《じぶん》を見上《みあ》げた、少女《しょうじょ》のぱっちりとした目《め》が浮《う》かびました。その目《め》は、清《きよ》らかなうちに、どこか悲《かな》しみに傷《いた》んだところがあった。 「おお、あのときの青年《せいねん》の目《め》と、さっきの少女《しょうじょ》の目《め》と同《おな》じでなかったか。」と、老兵士《ろうへいし》は、おどろきました。さらに、彼《かれ》は、二人《ふたり》が、兄妹《きょうだい》でないのかとさえ考《かんが》えられるのでした。  それは、あまりにも空想的《くうそうてき》な考《かんが》えようであったでしょう。しかし、たとえ兄《あに》と妹《いもうと》でなくても、その澄《す》みきったかがやく目《め》の中《なか》に、相通《あいつう》ずるものを見《み》ました。人間《にんげん》であって、人間以上《にんげんいじょう》のものを感《かん》じたのです。 「いったい、それはなんであろうか。」と、彼《かれ》は、考《かんが》えました。そして、ついに、悟《さと》りました。生命《せいめい》というものは、はかないが、真実《しんじつ》は、なんらかの形《かたち》で永久《えいきゅう》に残《のこ》るということでした。  彼《かれ》は、しだいにふけていく、初秋《しょしゅう》の夜《よる》の空《そら》を仰《あお》ぎました。金色《きんいろ》に、緑色《みどりいろ》に、うすく紅《くれない》に、無数《むすう》の星《ほし》が輝《かがや》いています。おそらく、どの一つにも烈々《れつれつ》として、炎《ほのお》が燃《も》え上《あ》がっているにちがいない。しばらくすると、それが、みんな人間《にんげん》の目《め》になって見《み》えるのでした。寂然《じゃくぜん》として、ものこそいわないが、永遠《えいえん》に真実《しんじつ》と正義《せいぎ》とを求《もと》めている。その光《ひかり》は、胸《むね》の底《そこ》に深《ふか》く浸《し》み入《い》って、魂《たましい》をかきむしるのでした。 「傷《きず》がなおったら、早《はや》く戦線《せんせん》へ帰《かえ》ろう。」  彼《かれ》は、ほっとして、はじめて多《おお》くの傷兵《しょうへい》たちといっしょに、レコードに耳《みみ》を傾《かたむ》けようとしたが、いつのまにか心《こころ》は、また、あらぬほうへと飛《と》んでいました。 「人間《にんげん》は死《し》ぬと、あの星《ほし》になるってな。」  すでに、去年《きょねん》のいまごろ、塹壕《ざんごう》の中《なか》で、異郷《いきょう》の空《そら》を見《み》ながらいった、戦友《せんゆう》の言葉《ことば》が、思《おも》い出《だ》されたのでした。 底本:「定本小川未明童話全集 12」講談社    1977(昭和52)年10月10日第1刷発行    1982(昭和57)年9月10日第5刷発行 底本の親本:「赤土へ来る子供たち」文昭社    1940(昭和15)年8月 初出:「中央公論」    1939(昭和14)年8月 ※表題は底本では、「少女《しょうじょ》と老兵士《ろうへいし》」となっています。 入力:特定非営利活動法人はるかぜ 校正:酒井裕二 2017年6月25日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。