こがらしの ふく ばん 小川未明 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)夜《よる》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)三|人《にん》 -------------------------------------------------------  夜《よる》が ながく なりました。おかあさんは おしごとを なさって います。その そばで、きょうだいは 火《ひ》ばちに あたりながら、くりを たべて いました。 「リンリン リンって、なんの 音《おと》だろう。」  ふいに、正《しょう》ちゃんは あたまを あげました。 「ねずみが おかってへ でて、なべに さわったのでしょう。」 と、おかあさんは おっしゃいました。 「武《たけ》ちゃんが 三りん車《しゃ》に のって いるのよ。」 と、つね子《こ》さんが いいました。 「いまじぶん、だれが あそんで いるものか。」  しばらく すると、また、「リンリン リン。」と、いう 音《おと》が、かすかに きこえました。 「ほら。」 「ほんとうだわ。」  おかあさんと 三|人《にん》が とを あけて、そとを ながめました。こがらしが ふいて、すみわたった いい 月夜《つきよ》でした。  かどの たばこやの まえに ちょうちんの 火《ひ》が みえて、人力車《じんりきしゃ》が みちを きいて いる ようすです。そのうち こちらへ かけだして くると、リンリン リンと、しんぼうに はめた かねの わが なりました。  かさを かぶった おじいさんの 車夫《しゃふ》です。そして 車《くるま》の 上《うえ》には、それは きれいな およめさんが のって いました。  さむく なって、三|人《にん》は とを しめました。 「あれは おばけで ない?」 と、正《しょう》ちゃんが いいました。 「きっと きつねよ。」 と、つね子《こ》さんが いいました。 「いいえ、あの おじいさんは、いつ も ていしゃばの まえに いる おじいさんです。」 と、おかあさんが おっしゃいました。  きょうだいは とこの 中《なか》へ はいりました。その とき、また うちの まえを リンリン リンと、とおる 音《おと》が しました。いま 車《くるま》やさんが、かえるのです。  あとは、こがらしの こえが きこえました。 底本:「定本小川未明童話全集 16」講談社    1978(昭和53)年2月10日第1刷発行    1982(昭和57)年9月10日第5刷発行 入力:特定非営利活動法人はるかぜ 校正:Juki 2012年7月16日作成 2012年9月28日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。