くびわの ない いぬ 小川未明 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)子《こ》ども -------------------------------------------------------  ふたりの 子《こ》どもが、いえの そとに たって いました。 「どこの いぬだろうね。」 と、二郎《じろう》くんが、ちゃいろの いぬを みて いいました。 「しらないけれど、いい いぬだね。」 と、たけおくんは いって、口《くち》ぶえを ふきました。すると、いぬは、おとなしく そばへよって きました。ふたりは、かわるがわる いぬの あたまを なでて やりました。  すなおな せいしつと みえ、からだつきも のびのびと して、どこか りこうそうな かんじが しました。 「おや、くびわが ないね。」 と、二郎《じろう》くんは、ふしぎに おもいながら、 「おまえ、どこで おとして きたの、いぬころしに つかまるぞ。」 と、いぬに むかって いいました。  たけおくんも、それに 気《き》づいて、じっと、目《め》を こらして いましたが、 「すていぬじゃ ないかな。なんだか ようすが すこし さびしそうだ。」 と、まえに いぬを かった ことの ある けいけんから、いいました。  二郎《じろう》くんは、ポケットに あった キャラメルを だして、みちの 上《うえ》へ なげて やりました。しかし、いぬは それを みただけで、ひろって たべようと しませんでした。  二郎《じろう》くんは、じぶんが、キャラメルを 一つ たべて みせ、べつの てのひらに のせて、いぬの 口《くち》もとへ やりますと、いぬは、あんしんしたのか、よろこんで たべました。 「なかなか よく しつけが して あるね。」 と いって、たけおくんも、かんしんしながら みました。  ちょうど そこへ、せんたくやの こぞうさんが、まわって きました。 「この いぬは、すていぬなんですよ。」 と いったので、ふたりは、いまさらのように おどろきました。  こぞうさんが いうのには、まえの しゅじんは、ひじょうに この いぬを かわいがって いたのを、とおくへ ひっこすので、じぶんの いえを ゆずる かわりに、いぬを だいじに かって くれる やくそくで、いまの 人《ひと》に たのんだのだそうです。ところが、そのひとは、いぬなんか せわが やけて きらいだと、くびわを はずして しまったのでした。  この はなしを きくと、ふたりは、 「それでは、じぶんが ころすかわりに、いぬころしに ころさせる つもりじゃ ないか。」 と ふんがいしました。 「ぼくたちが、たすけて やろうよ。うちに、ふるい かわの バンドが あるから、あれを きって、くびわを つくって やる。」 と、たけおくんは いいました。そして、いぬの せを なでながら、 「二郎《じろう》くん、ごらんよ。くびわなんかの ついて いない、しぜんの ままの ほうが、よっぽど うつくしいと おもわない。」 と、目《め》を ほそく して いいました。  二郎《じろう》くんは、また なにを かんがえたのか、 「どうぶつは、いつだって、しょうじきで、いつわるような ことは ないが、にんげんは、そんとくを かんがえて、うらぎる ことなんか へいきで いる。じつに はずかしい ことだと おもうよ。」 と、ためいきを ついたので ありました。 底本:「定本小川未明童話全集 16」講談社    1978(昭和53)年2月10日第1刷発行    1982(昭和57)年9月10日第5刷発行 初出:「幼年クラブ」    1952(昭和27)年9月 入力:特定非営利活動法人はるかぜ 校正:笹平健一 2024年3月12日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。