おとうさんが かえったら 小川未明 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)花《はな》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)[#3字下げ] -------------------------------------------------------  やけあとの、たがやされた ところには、みどりいろの むぎが ふさふさと しげって いました。また、やわらかそうに みえる わかなに、きいろの 花《はな》が さいて いました。  しかし、まだ あとかたづけの してない ところには、大《おお》きな 石《いし》などが ころがって いました。こんなに あれて いる あきちだけが、ぼくたち 子《こ》どもの あそびば でした。  ちょうど、大《おお》きな 石《いし》の 下《した》から、すいせんが ねじれて あたまを だして います。その くきは、やせて いたけれど、つぼみを もって いました。もし、この 石《いし》さえ なければ、のびのびと して、うつくしい 花《はな》が さくで あろうにと おもうと、かわいそうに なりました。  ぼくは、かおを ふくらまして、りょう手《て》へ 力《ちから》を いれ、うんうんと うなって、石《いし》を どかそうと しましたが、石《いし》は びくとも うごきませんでした。 「ああ。」 と、ためいきを ついて いると、いつ かえって きたのだろうか、あたまの 上《うえ》を つばめが、ピイチク ピイチク、ほがらかに なきながら、とんで いました。 「ぼくも、おとうさんが かえったらなあ。」 と、とおい 空《そら》を みて、かなしく なりました。 「もう ちっとの あいだ がまんして おいで。ぼくが あした、みんなを つれて くるから。そして、この 石《いし》を どかして あげようね。」 と、ぼくは 花《はな》に むかって いいました。  花《はな》は、わたくしの ことばが わかったのだろうか、そよ風《かぜ》に からだを かすかに うごかしました。  ばんがた、ぼくは うちの ほうへ かえって いきました。しきいを またぐと、へやから ラジオの 音《おと》が して、にいさんの きいて いるのが わかりました。 「ただいま。」 と、ぼくが いうと、あちらから にいさんの こえで、 「たけちゃん、はやくおいで、いま、ラジオから、日本《にっぽん》むけの でんぱが はいったんだよ。」 と しらせました。そう きくと、 「ほんとう?」 と、ぼくは おぼえず さけんで、その そばへ かけよりました。  だが、その ときは、おはなしが おわったばかりの あとで、なつかしい レコードが きこえて きました。 [#ここから3字下げ] ほたあるの ひかり、まどの 雪《ゆき》 ……………………………………… [#ここで字下げ終わり]  そこで いっしょに きいて いらした おかあさんは、 「おとうさんも、あちらで この うたを おききに なって、たけしは、もう なん年生《ねんせい》に なるかなと、おもって いらっしゃるでしょう。」 と、おっしゃったので、ぼくは いっそう おとうさんを こいしく なりました。 底本:「定本小川未明童話全集 16」講談社    1978(昭和53)年2月10日第1刷発行    1982(昭和57)年9月10日第5刷発行 底本の親本:「みどり色の時計」新子供社    1950(昭和25)年4月5日 初出:「こどもペン」    1948(昭和23)年4月 入力:特定非営利活動法人はるかぜ 校正:笹平健一 2024年8月4日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。