蝉 中原中也 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)奴《やつ》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)蝉が[#「蝉が」は底本では「 蝉が」] ------------------------------------------------------- 蝉が鳴いてゐる、蝉が鳴いてゐる 蝉が鳴いてゐるほかになんにもない! うつらうつらと僕はする ……風もある…… 松林を透いて空が見える うつらうつらと僕はする。 『いいや、さうぢやない、さうぢやない!』と彼が云ふ 『ちがつてゐるよ』と僕がいふ 『いいや、いいや!』と彼が云ふ 『ちがつてゐるよ』と僕が云ふ と、目が覚める、と、彼はもうとつくに死んだ奴《やつ》なんだ それから彼の永眠してゐる、墓場のことなぞ目に浮ぶ…… それは中国のとある田舎《ゐなか》の、水無河原《みづなしがはら》といふ 雨の日のほか水のない 伝説付の川のほとり、 藪蔭の砂土帯の小さな墓場、 ――そこにも蝉は鳴いてゐるだろ チラチラ夕陽も射してゐるだろ…… 蝉が鳴いてゐる、蝉が鳴いてゐる 蝉が鳴いてゐるほかなんにもない! 僕の怠惰? 僕は『怠惰』か? 僕は僕を何とも思はぬ! 蝉が[#「蝉が」は底本では「 蝉が」]鳴いてゐる、蝉が鳴いてゐる 蝉が[#「蝉が」は底本では「 蝉が」]鳴いてゐるほかなんにもない! [#地から4字上げ](一九三三・八・一四) 底本:「中原中也詩集」角川文庫、角川書店    1968(昭和43)年12月10日改版初版発行    1973(昭和48)年8月30日改版13版発行 ※誤植を疑った箇所を、「中原中也詩集」角川文庫、角川書店、1995(平成7)年5月30日改版54版発行の表記にそって、あらためました。 入力:ゆうき 校正:木浦 2013年1月23日作成 2018年12月27日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。