暗い天候 中原中也 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)お道化《どけ》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定    (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数) (例)颺 ------------------------------------------------------- [#3字下げ]二[#「二」は中見出し] こんなにフケが落ちる、    秋の夜に、雨の音は トタン屋根の上でしてゐる……    お道化《どけ》てゐるな―― しかしあんまり哀《かな》しすぎる。 犬が吠える、虫が鳴く、    畜生! おまへ達には社交界も世間も、 ないだろ。着物一枚持たずに、    俺も生きてみたいんだよ。 吠えるなら吠えろ、    鳴くなら鳴け、 目に涙を湛《たた》へて俺は仰臥さ。    さて、俺は何時死ぬるのか、明日か明後日か…… ――やい、豚、寝ろ! こんなにフケが落ちる、    秋の夜に、雨の音は トタン屋根の上でしてゐる。    なんだかお道化てゐるな しかしあんまり哀しすぎる。 [#3字下げ]三[#「三」は中見出し] この穢《けが》れた涙に汚れて、 今日も一日、過ごしたんだ。 暗い冬の日が梁《はり》や壁を搾《し》めつけるやうに、 私も搾められてゐるんだ。 赤ン坊の泣声や、おひきずりの靴の音や、 昆布や烏賊《するめ》や洟紙《はながみ》や首巻や、 みんなみんな、街頭沿ひの電線の方へ 荷馬車の音も耳に入らずに、舞ひ颺《あが》り舞ひ颺り 吁《ああ》! はたして昨日が晴日《おてんき》であつたかどうかも、 私は思ひ出せないのであつた。 底本:「中原中也詩集」角川文庫、角川書店    1968(昭和43)年12月10日改版初版発行    1973(昭和48)年8月30日改版13版発行 ※第一節(「一」)がないのは底本通りです。第一節は「山羊の歌」に収録されている「冬の雨の夜」です。 入力:ゆうき 校正:木浦 2013年1月23日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。