黒い旗物語 小川未明 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)爺《じい》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)百|万《まん》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)[#7字下げ]一[#「一」は中見出し] ------------------------------------------------------- [#7字下げ]一[#「一」は中見出し]  どこからともなく、爺《じい》と子供《こども》の二人《ふたり》の乞食《こじき》が、ある北《きた》の方《ほう》の港《みなと》の町《まち》に入《はい》ってきました。  もう、ころは秋《あき》の末《すえ》で、日《ひ》にまし気候《きこう》が寒《さむ》くなって、太陽《たいよう》は南《みなみ》へと遠《とお》ざかって、照《て》らす光《ひかり》が弱《よわ》くなった時分《じぶん》であります。毎日《まいにち》のように渡《わた》り鳥《どり》は、ほばしらの林《はやし》のように立《た》った港《みなと》の空《そら》をかすめて、暖《あたた》かな国《くに》のある方《ほう》へ慕《した》ってゆきました。  爺《じい》は破《やぶ》れた帽子《ぼうし》をかぶっていました。そして西洋《せいよう》の絵《え》にある年《とし》とった牧羊者《ひつじかい》のように、白《しろ》いあごひげがのびていました。子供《こども》は、やっと十《とお》か十一になったくらいの年《とし》ごろで、寒《さむ》そうなふうをして爺《じい》の手《て》を引《ひ》いて町《まち》の中《なか》を歩《ある》きました。爺《じい》は胡弓《こきゅう》を持《も》って、とぼとぼと子供《こども》の後《あと》から従《したが》いました。  その町《まち》の人々《ひとびと》は、この見慣《みな》れない乞食《こじき》の後《うし》ろ姿《すがた》を見送《みおく》りながら、どこからあんなものがやってきたのだろう。これから風《かぜ》の吹《ふ》くときには気《き》をつけねばならぬ。火《ひ》でもつけられたりしてはたいへんだ。早《はや》くどこかへ追《お》いやってしまわなければならぬ、といったものもありました。子供《こども》は毎日《まいにち》爺《じい》の手《て》を引《ひ》いて町《まち》へ入《はい》ってきました。そして戸《こ》ごとの軒下《のきした》にたたずんで、哀《あわ》れな声《こえ》で情《なさ》けを乞《こ》いました。けれど、この二人《ふたり》のものをあわれんで、ものを与《あた》えるものもなければ、また優《やさ》しい言葉《ことば》をかけてくれるものもありませんでした。 「やかましい、あっちへゆけ。」 と、どなるものもあれば、また家《うち》の内《なか》から、大《おお》きな声《こえ》で、 「出《で》ないぞ。」 といったものもありました。  こうして二人《ふたり》のものは、終日《しゅうじつ》この町《まち》の中《なか》をむなしく歩《ある》きまわって、疲《つか》れて空腹を感《かん》じて、日暮《ひぐ》れ方《がた》になると、どこへともなく帰《かえ》ってゆくのでした。爺《じい》の歩《ある》きながら弾《ひ》く胡弓《こきゅう》の音《ね》は、寒《さむ》い北風《きたかぜ》に送《おく》られて、だんだんと遠《とお》くに消《き》えてゆくのでありました。こんなふうに町《まち》の人々《ひとびと》には、この二人《ふたり》の乞食《こじき》を情《なさ》けなく取《と》り扱《あつか》いましたけれど、やはりどんなに風《かぜ》の吹《ふ》く日《ひ》も、また寒《さむ》い日《ひ》にでも、二人《ふたり》はこの町《まち》へやってきました。  町《まち》の人々《ひとびと》は二人《ふたり》を見送《みおく》って、 「まだあの乞食《こじき》がこの辺《あた》りをうろついている。早《はや》くどこへなりとゆきそうなものだ。犬《いぬ》にでもかまれればいいのだ。」 と、涙《なみだ》のない残忍《ざんにん》なことをいったものもあります。  そして爺《じい》と子供《こども》は、犬《いぬ》に追《お》い駆《か》けられてひどいめにあわされたこともありました。そのとき町《まち》の人々《ひとびと》は、子供《こども》が泣《な》きながら爺《じい》さんの手《て》を引《ひ》いて逃《に》げようとして、爺《じい》さんが胡弓《こきゅう》を振《ふ》りあげて犬《いぬ》をおどしている有《あ》り様《さま》を見《み》ても黙《だま》っていました。ある日《ひ》町《まち》の人《ひと》は二人《ふたり》を捕《と》らえて、 「おまえらは、どこからきたのだ。」 といって聞《き》きました。すると子供《こども》は、 「ずっと遠《とお》い南《みなみ》の国《くに》からやってきました。そこは暖《あたた》かで冬《ふゆ》でもつばきの花《はな》が咲《さ》きます。山《やま》の畑《はたけ》にはオレンジの樹《き》があり、日《ひ》の落《お》ちるときには海《うみ》が紫色《むらさきいろ》に光《ひか》って、この町《まち》よりも、ずっときれいな町《まち》であります。」 といいました。すると町《まち》の人《ひと》はこれを聞《き》いて、気持《きも》ちを悪《わる》くいたしました。 「この町《まち》よりもきれいな町《まち》があるといったな。そんならなぜその町《まち》にいなかったのだ。なんでこの町《まち》などへやってきた。さあ早《はや》くどこかへいってしまえ。」 とどなりました。 [#7字下げ]二[#「二」は中見出し]  乞食《こじき》の子供《こども》は、町《まち》の人《ひと》の怖《おそ》ろしいけんまくに震《ふる》えながらいいました。 「北《きた》の方《ほう》へゆけば哀《あわ》れな人間《にんげん》をあわれんでくださる人《ひと》さまのいなさる町《まち》があると聞《き》きましたので、こうして二人《ふたり》はわざわざ遠《とお》いところをやってきました。」  すると町《まち》の人々《ひとびと》は、口々《くちぐち》に虫《むし》のいいことをいう奴《やつ》だといってあざけりました。 「おい、小僧《こぞう》め、これから風《かぜ》が吹《ふ》くから火《ひ》など焚《た》いてはならんぞ。そしてうろついていずに、どこへなりと早《はや》くいってしまったほうがいい。ものがなくなると、おまえたちの盗《ぬす》んだことにするからそう思《おも》え。」  冷酷《れいこく》にも、こんなことまでいいました。  子供《こども》はなんといわれても、これにたいして怒《おこ》ることもできずに、爺《じい》の手《て》を引《ひ》いて町《まち》の中《なか》を戸《こ》ごとにたたずみながら歩《ある》いてゆきました。そしてある店《みせ》の前《まえ》に立《た》っていると、その店《みせ》の主人《しゅじん》はまた、 「なんでそこにぐずぐずしているんだ。早《はや》くいってしまえ、人《ひと》が見《み》ていなかったら盗《ぬす》むつもりだろう。」 とどなりました。  子供《こども》は腹《はら》だたしさに、顔《かお》の色《いろ》を赤《あか》くして、しおしおとしてその店《みせ》の前《まえ》を立《た》ち去《さ》ってしまいました。  ある日《ひ》二人《ふたり》は町《まち》の人々《ひとびと》から追《お》われて、港《みなと》の端《はし》のところにやってきました。そこは海《うみ》の中《なか》に突《つ》き出《で》ていて、岩《いわ》がそばだっています。そして波《なみ》が寄《よ》せて躍《おど》り上《あ》がり、はねかえり、響《ひび》きをたてて砕《くだ》けていました。  空《そら》の色《いろ》は一面《いちめん》に鉛色《なまりいろ》に重《おも》く、暗《くら》く、濁《にご》っていて、地平線《ちへいせん》に墨《すみ》を流《なが》したようにものすごく見《み》えます。風《かぜ》は叫《さけ》び声《ごえ》をあげて頭《あたま》の上《うえ》を鋭《するど》く過《す》ぎていました。名《な》も知《し》らぬ海鳥《かいちょう》が悲《かな》しく鳴《な》いて中空《そら》に乱《みだ》れて飛《と》んでいました。爺《じい》と子供《こども》の二人《ふたり》は、ガタガタと寒《さむ》さに体《からだ》を震《ふる》わして岩《いわ》の上《うえ》に立《た》っていますと、足先《つまさき》まで大波《おおなみ》が押《お》し寄《よ》せてきて、赤《あか》くなった子供《こども》の指《ゆび》を浸《ひた》しています。二人《ふたり》は空腹《くうふく》と疲労《つかれ》のために、もはや一歩《いっぽ》も動《うご》くことができずに、沖《おき》の方《ほう》をながめて、ぼんやりと泣《な》かんばかりにして立《た》っていました。そのうちに、みぞれまじりの雨《あめ》がしとしとと降《ふ》りだしてきて、日《ひ》はとっぷりと暮《く》れてしまいました。二人《ふたり》は闇《やみ》のうちに抱《だ》き合《あ》っていましたが、まったくその影《かげ》が見《み》えなくなってしまいました。  その夜《よ》のことです。この辺《あた》りには近来《きんらい》なかったような暴風《あらし》が吹《ふ》き、波《なみ》が荒《あ》れ狂《くる》ったのであります。そしてその暗《くら》い、すさまじい夜《よ》が明《あ》け放《はな》れたときには、二人《ふたり》の姿《すがた》は、もはやその岬《みさき》の上《うえ》には見《み》えなかったのであります。町《まち》の人々《ひとびと》はその日《ひ》もその翌日《よくじつ》も、かの乞食《こじき》二人《ふたり》の姿《すがた》を見《み》なかったので、なかにはどこへいってしまったろうなどと思《おも》ったものもありました。すると一日《あるひ》天気《てんき》のいい日《ひ》のこと、漁夫《りょうし》が沖《おき》へ出《で》て網《あみ》を下《お》ろしますと、それに胡弓《こきゅう》が一つひっかかってきました。それが、後《あと》になって、乞食《こじき》の持《も》っていた胡弓《こきゅう》であることがわかりました。 [#7字下げ]三[#「三」は中見出し]  その後《ご》というものは日増《ひま》しに海《うみ》が荒《あ》れて、沖《おき》の方《ほう》が暗《くろ》うございました。毎年《まいねん》冬《ふゆ》になると、この港《みなと》から出《で》る船《ふね》の航路《こうろ》がとだえます。  それで沖《おき》を見渡《みわた》しても、一つの帆影《ほかげ》も、また一条《ひとすじ》の煙《けむり》の跡《あと》も見《み》ることがなかったのです。ただ波頭《なみがしら》が白《しろ》く見《み》えるかと思《おも》うと消《き》えたりして、渺茫《びょうぼう》とした海原《うなばら》を幾《いく》百|万《まん》の白《しろ》いうさぎの群《む》れが駆《か》けまわっているように思《おも》われました。  毎夜《まいよ》のように町《まち》では戸《と》を閉《し》めてから火鉢《ひばち》やこたつに当《あ》たりながら、家内《かない》の人々《ひとびと》がいろいろの話《はなし》をしていますと、沖《おき》の方《ほう》で遠鳴《とおな》りのする海《うみ》の声《こえ》がものさびしく、もの怖《おそ》ろしく、ものすさまじく聞《き》こえてくるのでありました。ある夜《よ》のこと、海《うみ》の響《ひび》きが常《つね》よりまして、空怖《そらおそ》ろしく鳴《な》りとどろきましたので、人々《ひとびと》は、なにごとか起《お》こるのではなかろうかと不安《ふあん》におののき、夜《よ》の明《あ》けるのを待《ま》ちました。ほのぼのと、夜《よ》が明《あ》け放《はな》れると、人々《ひとびと》は浜辺《はまべ》にきて海《うみ》をながめました。そして顔《かお》の色《いろ》を変《か》えてびっくりいたしました。 「あのいやな色《いろ》をした船《ふね》は、どこからきたのだろう。」 と、一人《ひとり》はいって、沖《おき》のかなたに見《み》えた船《ふね》を指《ゆび》さしました。 「あの不思議《ふしぎ》な黒《くろ》い旗《はた》をごらんなさい。いったいあの船《ふね》はどこからきた船《ふね》でしょう。」 と、ほかのものがやはり沖《おき》をながめていっていました。遠《とお》く沖《おき》の方《ほう》を見渡《みわた》しますと、昨日《きのう》にまして暗《くら》く、ものすごうございました。その地平線《ちへいせん》から抜《ぬ》け上《あ》がったように真《ま》っ赤《か》な船《ふね》が浮《う》いていて、黒《くろ》い旗《はた》がひらひらと二|本《ほん》のほばしらの上《うえ》にひるがえっていました。 「昨夜《ゆうべ》は怖《おそ》ろしい海鳴《うみな》りがしたから、なにか変《か》わったことがなければいいと思《おも》った。」 と、老人《ろうじん》がいっていました。 「よくこの荒波《あらなみ》の上《うえ》を航海《こうかい》して、この港《みなと》近《ちか》くまでやってきたものだ。なにか用《よう》があって、この港《みなと》にきたものだろうか。」 と、一人《ひとり》がいっていました。 「ごらんなさい。あの船《ふね》は止《と》まっています。だれかあの船《ふね》はどこの国《くに》の船《ふね》か、お知《し》りの方《かた》はありませんか。」 と聞《き》いている若者《わかもの》もありました。 「たぶんこの大波《おおなみ》でゆくえを迷《まよ》ったか、それとも船《ふね》に故障《こしょう》ができてこの港《みなと》に入《はい》ってきたのでありましょう。」 といったものもありました。そこでその船《ふね》に向《む》かって、陸《りく》からいろいろの合図《あいず》をいたしました。けれど、その船《ふね》からはなんの返答《へんとう》もありませんでした。 「あれはあたりまえの船《ふね》と違《ちが》うようだ。きっと幽霊船《ゆうれいせん》であるかもしれない。」 といったものもありました。そして幽霊船《ゆうれいせん》というものは見《み》るものでないといって、町《まち》の人々《ひとびと》はだんだん家《うち》の方《ほう》へ帰《かえ》りました。  すると不思議《ふしぎ》なことには、ちょうどその日《ひ》から、町《まち》へ見慣《みな》れないようすをした十《とお》か十一ぐらいの年《とし》ごろの子供《こども》が、体《からだ》に破《やぶ》れた着物《きもの》を着《き》て、しかも霏々《ひひ》として雪《ゆき》の降《ふ》るなかに、素足《すあし》で足《あし》の指《ゆび》を赤《あか》くして、手《て》に一つのかごを下《さ》げて町《まち》の中《なか》を歩《ある》いていました。町《まち》の人々《ひとびと》は顔《かお》をしかめて、そのあわれな子供《こども》の後《うし》ろ姿《すがた》を見送《みおく》りました。子供《こども》は町《まち》のいちばんきれいな呉服屋《ごふくや》に入《はい》りました。 「どうか私《わたし》に着物《きもの》を売《う》ってください。」  慄《ふる》えた声《こえ》で子供《こども》はいいました。 「おまえは銭《ぜに》を持《も》っているか。」  店頭《みせさき》にすわった番頭《ばんとう》は、いぶかしげな顔《かお》つきをしてたずねました。子供《こども》はかごの中《なか》をのぞきながら、 「銭《ぜに》は持《も》っていないが、ここに、さんごや真珠《しんじゅ》や金《きん》の塊《かたまり》があります。これで売《う》ってください。私《わたし》の着物《きもの》でありません。お爺《じい》さんの着《き》る着物《きもの》です。」 と申《もう》しました。  呉服屋《ごふくや》の番頭《ばんとう》は、うさんな目《め》つきで、輝《かがや》く真珠《しんじゅ》や、あかがにの指《ゆび》のような赤《あか》いさんごをながめていましたが、 「どうしておまえはそんなものを持《も》っている。おまえがそんなものを持《も》っているはずがない。きっと偽物《ぎぶつ》だろう。どこから拾《ひろ》ってきたか。」 「いいえ偽物《ぎぶつ》でもなければ、拾《ひろ》ってきたのでもありません。これはほんとうの真珠《しんじゅ》や、さんごです。私《わたし》を疑《うたぐ》ってくださいますな。早《はや》く私《わたし》に着物《きもの》を売《う》ってください。お爺《じい》さんは船《ふね》に待《ま》っています。沖《おき》に止《と》まっています船《ふね》がこれでございます。お爺《じい》さんは、あの黒《くろ》い旗《はた》の立《た》っているほばしらの下《した》のところにすわって待《ま》っています。」 と、子供《こども》はいいました。 「おまえのいうことは、みなうそらしい、着物《きもの》は売《う》ることができない。早《はや》くこの店《みせ》の前《まえ》をいってくれい。」  番頭《ばんとう》は子供《こども》をおいたてました。  子供《こども》はしかたなしに、雪《ゆき》の降《ふ》る中《なか》をとぼとぼと歩《ある》いて、その店《みせ》の前《まえ》を去《さ》って、あてなくこちらにきかかりますと、そこには食《た》べ物《もの》屋《や》があって、おいしそうな魚《さかな》の臭《にお》いや、酒《さけ》の暖《あたた》まる香《にお》いなどがもれてきました。子供《こども》は其店《そこ》の前《まえ》に立《た》ちました。そして戸《と》を開《あ》けてのぞきながら、 「どうか私《わたし》に煮《に》えた魚《さかな》と、暖《あたた》かいご飯《はん》を売《う》ってください。銭《ぜに》はないけれど、ここにみごとなさんご樹《じゅ》と、きれいな星《ほし》のような真珠《しんじゅ》と、重《おも》たい金《きん》の塊《かたまり》があります。私《わたし》はなんでも暖《あたた》かな食《た》べ物《もの》を持《も》っていって、お爺《じい》さんにあげたいと思《おも》います。」 といいました。  すると、このときそこで酒《さけ》を飲《の》んでいた三、四|人《にん》の若者《わかもの》は、目《め》を円《まる》くして子供《こども》のかごと、子供《こども》の顔《かお》を見比《みくら》べていましたが、 「汝《われ》は、いつかこの町《まち》へきた乞食《こじき》の子供《こども》じゃないか、太《ふと》いやつだ。どこからそんな品物《しなもの》を盗《ぬす》んできた。さあ白状《はくじょう》してしまえ。みなその品物《しなもの》をここへおいてゆけ。」 といいながら飛《と》び出《だ》してきました。 「いいえ、盗《ぬす》んだり、拾《ひろ》ってきたりしたものではありません。あの沖《おき》にきている船《ふね》からもらってきたのです。」 と泣《な》きながらいったのです。けれど若者《わかもの》らは無理《むり》にかごを奪《うば》い取《と》って、子供《こども》をおいたててしまいました。子供《こども》はどこともなく雪《ゆき》の降《ふ》る中《なか》を、泣《な》きながら去《さ》ってしまいました。いつしか吹雪《ふぶき》のうちに日《ひ》が暮《く》れてしまいました。  その夜《よ》のことであります。この町《まち》から火事《かじ》が出《で》て、おりしも吹《ふ》き募《つの》った海風《かいふう》にあおられて、一軒《けん》も残《のこ》らず焼《や》きはらわれてしまいました。いまでも北海《ほっかい》の地平線《ちへいせん》にはおりおり黒《くろ》い旗《はた》が見《み》えます。 底本:「定本小川未明童話全集 1」講談社    1976(昭和51)年11月10日第1刷    1982(昭和57)年9月10日第7刷 初出:「日本少年」    1915(大正4)年4月 ※表題は底本では、「黒《くろ》い旗《はた》物語《ものがたり》」となっています。 入力:ぷろぼの青空工作員チーム入力班 校正:ぷろぼの青空工作員チーム校正班 2011年11月2日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。