商売の繁昌する家 田中貢太郎 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)本舗《ほんぽ》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)大門|脇《わき》 -------------------------------------------------------  芝公園大門|脇《わき》に『わかもと』の本舗《ほんぽ》がある。その『わかもと』の事務所は、寺院の一部であった。観相家《かんそうか》の松井|桂陰《けいいん》君が某時《あるとき》その『わかもと』の某君《ぼうくん》を訪問した時、 「あなたのところは、どうしてこんなところに事務所を置くのですか」  と云って訊いてみると、 「これには面白い話があるよ」  と冒頭して話した。 「わかもと」の主人長尾|欽弥《きんや》君がそこへ入って、製薬に著手《ちゃくしゅ》した時には、貧乏のどん底であったが、忽《たちま》ちめきめきと発展を遂げたので、狭くはあるし、寺の中にいるのも厭《いや》だから、他《ほか》へ移転しようと思って、それを住職に話したところで、住職が因縁話をしてそれを留《と》めた。それはここへ入った者で失敗した者がない。伊東|胡蝶園《こちょうえん》もここへ入って金を作った。その次に入ったのが不動銀行の牧野|元次郎《もとじろう》君であった。だから引越さない方がいいだろうと云うので、何千万円と云う大資産を作り、店は倍《ますます》繁昌して狭い寺の中では不自由であるが、それで出ないとの事であった。 底本:「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」学研M文庫、学習研究社    2003(平成15)年10月22日初版発行 底本の親本:「新怪談集 実話篇」改造社    1938(昭和13)年 入力:Hiroshi_O 校正:noriko saito 2010年10月20日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。