位牌と鼠 田中貢太郎 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)壁厨《おしいれ》 -------------------------------------------------------  大正十二年の震災の時であった。幡ヶ谷に住んでいた三好七郎と云う人の許へ、荻原高三郎と云う知人が避難して来て、一月ばかり厄介になっていて他へ移って往ったが、移って往く時、 「大事の書類が入れてあるから、すまないが預っておいてもらいたい」  と云って、高さ三尺位の箱を置いて往ったので、三好の方ではそれを壁厨《おしいれ》へ入れておいた。ところで、翌年になって七郎が病気になって夜になると、 「うん、うん」  と云って、魘《うな》されるので、女房の留《とめ》が鬼魅《きみ》をわるがって、 「おまえさん、どうしたの」  と云って聞いてみると、七郎は蒼《あお》い顔をして、 「彼《あ》の箱の中から、男と女が出て来て紙幣を数える」  と云ったが、そのうちに死んでしまった。ところで、それから間もなく長女の芳と次男の次郎と云うのが病気になった。そして、次郎は夜になると、 「何人《たれ》か来た」  と云って飛び起きたり、突然、 「わっ」  と云って叫んだりするので、留は気が注《つ》いて、荻原から預っていた彼《か》の箱を開けてみた。  中には十数個の阿弥陀仏とした位牌と六匹の鼠が入っていたが、鼠は箱の蓋を開けるなりばらばらと飛び出して往った。三好家では驚いて代代幡署《よよはたしょ》へ荻原の捜査方《そうさかた》を願い出た。 底本:「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」学研M文庫、学習研究社    2003(平成15)年10月22日初版発行 底本の親本:「新怪談集 実話篇」改造社    1938(昭和13)年 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:Hiroshi_O 校正:noriko saito 2010年10月20日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。