怪談会の怪異 田中貢太郎 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)白画堂《はくがどう》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)喜多村|緑郎《ろくろう》 -------------------------------------------------------  震災の前であった。白画堂《はくがどう》の三階で怪談会をやったことがあった。出席者は泉鏡花、喜多村|緑郎《ろくろう》、鈴木|鼓村《こそん》、市川猿之助、松崎天民などで、蓮の葉に白い強飯《こわめし》を乗せて出し、灯明は電灯を消して盆燈籠を点《つ》け、一方に高座を設けて、譚《ものがたり》をする者は皆その高座にあがった。  数人の怪異|譚《ものがたり》がすむと、背広服を着た肥った男があがった。それは万朝報《まんちょうほう》の記者であった。 「この話は、私の家の秘密で、公開を禁ぜられておりますが、もう時代もすぎましたから、話してもいいと思いますから話しますが、これは田中河内守を殺した話でありますが、それを殺した者は、私の祖父……」  と云いかけて詞《ことば》がもつれだした。一座の者はおやと思って記者の顔へ眼をやる間もなく、その記者は前のめりになって高座の下へ落ちたので、怪談会はしらけてしまって、未明までやるはずのものが、一人帰り二人帰りして、十二時頃には何人《だれ》もいなくなった。そして、その記者は脳溢血《のういっけつ》のような病気で、三日ばかりして歿《な》くなった。これは市川猿之助の実話をそのまま。 底本:「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」学研M文庫、学習研究社    2003(平成15)年10月22日初版発行 底本の親本:「新怪談集 実話篇」改造社    1938(昭和13)年 入力:Hiroshi_O 校正:noriko saito 2010年10月20日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。