無題 芥川龍之介 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)尾籠《びろう》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)第一|下痢《げり》を [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)[#地から1字上げ](大正十五年六月) -------------------------------------------------------  わたくしはけふの講演会に出るつもりでゐましたが、腹を壊してゐる為に出られません。元来講演と云ふものは肉体労働に近いものですから、腹に力のない時には出来ないのです。甚だ尾籠《びろう》なお話ですが、第一|下痢《げり》をする時には何だか鮫《さめ》の卵か何かを生み落してゐるやうに感ずるのです。それだけでももうがつかりします。おまけに胃袋まで鯨《くぢら》のやうに時々潮を吐《は》き出すのです。そこで友人佐佐木茂索君にこの文章を読んで貰ふことにしました。勿論佐佐木君は読むだけではなく、佐佐木君自身の講演もされることと信じてゐます。若し万一されなかつたとすれば、どうか足を踏み鳴らして、総立ちになつてお騒ぎ下さい。右とりあへず御挨拶まで。 [#地から1字上げ](大正十五年六月) 底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。