爬虫館事件 海野十三 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)帆村荘六《ほむらそうろく》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)一時間|懸《かか》ります。 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)しかも[#「しかも」に傍点]だ -------------------------------------------------------      1  前夜の調べ物の疲れで、もう少し寝ていたいところを起された私立探偵局の帆村荘六《ほむらそうろく》だった。 「お越し下すったのは、どんな方かね」 「ご婦人です」助手の須永《すなが》が朗《ほが》らかさを強《し》いて隠すような調子で答えた。「しかも年齢《とし》の頃は二十歳《はたち》ぐらいの方です」 (なにが、しかも[#「しかも」に傍点]だ)と帆村はパジャマの釦《ボタン》を一つ一つ外《はず》しながら思った。この手でも確かに目は醍《さめ》る。…… 「十分間お待ちねがうように申上げて呉《く》れ」 「はッ。畏《かしこ》まりました」  須永はチョコレートの兵隊のように、わざと四角ばって、帆村の寝室《しんしつ》を出ていった。  隣りの浴室の扉《ドア》をあけ、クルクルと身体につけたものを一枚残らず脱ぎすてると、冷水を張った浴槽《よくそう》へドブンと飛び込み、しぶきをあげて水中を潜《くぐ》りぬけたり、手足をウンと伸《のば》したり、なんのことはない膃肭獣《おっとせい》のような真似をすること三分、ブルブルと飛び上って強《こわ》い髭《ひげ》をすっかり剃《そ》り落《おと》すのに四分、一分で口と顔とを洗い、あとの二分で身体を拭《ぬぐ》い失礼ならざる程度の洋服を着て、さて応接室の内扉《うちドア》をノックした。  応接室の函《はこ》のなかには、なるほど若い婦人が入っていた。 「お待たせしました。さあどうぞ」と椅子を進めてから、「早速《さっそく》ご用件を承《うけたまわ》りましょう」 「はァ有難とう存じます」婦人は帆村の切り出し方の余りに早いのにちょっと狼狽《ろうばい》の色を見せたが、思いきったという風《ふう》で、黒眼がちの大きい瞳を帆村の方に向け直した。その瞳の底には言いしれぬ憂《うれ》いの色が沈んでいるようであった。「ではお話を申しあげますが、実は父が、突然行方不明になってしまったんでございます――。昨日の夕刊にも出たのでございますが、あたくしの父というのは、動物園の園長をして居ります河内武太夫《かわちたけだゆう》でございます」 「ああ、貴女が河内園長のお嬢さんのトシ子さんでいらっしゃいますか」帆村は夕刊で、憂いに沈む園長の家族として令嬢トシ子(二〇)の写真を見た記憶があった。その記事は社会面に三段抜きで「河内園長の奇怪な失踪《しっそう》・動物園内に遺留《いりゅう》された帽子と上衣」といったような標題《ひょうだい》がついていたように思う。 「はァ、トシ子でございます」と美しい眼をしばたたき、「ご存知でもございましょうが、私共の家は動物園の直《す》ぐ隣りの杜《もり》の中にございまして、その失踪しました十月三十日の朝八時半に父はいつものように出て行ったのです。午前中は父の姿を見たという園の方も多いのでございますが、午後からは見たという方が殆んどありません。お午餐《ひる》のお弁当を、あたくしが持って行きましたが、それはとうとう父の口に入らなかったのでした。正午にも事務所へ帰ってこないことを皆様不思議に思っていらっしゃいましたが、父は大分変り者の方でございまして、気が変るとよく一人でブラリと園を出まして、広小路《ひろこうじ》の方まで行って寿司屋《すしや》だのおでん屋などに飛び込み、一時半か二時にもなってヒョックリ帰園《きえん》いたしますこともございますので、その日も多分いつもの伝《でん》だろうと、皆さん考えておいでになったのです。しかし閉園時間の午後五時になっても帰って参りません。たまにはずっと街へ出掛けて夜分まで帰らないこともありますが、その日は事務室に帽子もあり上衣も残って居ますので、いつもとは少し違うというので、西郷《さいごう》さん――この方は副園長をしていらっしゃる若い理学士です――その西郷さんがお帰りにうちへお寄り下すって、『園長の例の病気が始まった様《よう》ですよ』と注意をしていって下さいました。ところが其の夜は、とうとう帰って参りません。夜遅くなることはありましても、たとい一時になっても二時になっても帰ってくる父です。それが帰って来ないのですから、どうしたことだろうと母も私共も非常に心配しています。園内も調べていただきましたが判りません。警察の方へも捜索方《そうさくかた》をお願いいたしましたが、『別に死ぬ動機も無いようだから今夜あたり帰って来られますよ』と云って下さいました。しかし私共は、なんだか其《そ》の儘《まま》では、じっと待っていられないほど不安なのでございます。万一父が危害《きがい》を加えられてでもいるようですと、一刻《いっこく》も早く見付けて助け出したいのでございます。それで母と相談をして、お力を拝借《はいしゃく》に上《あが》ったわけなのでございます。どう思召《おぼしめ》しましょうか、父の生死《せいし》のほどは」  トシ子嬢は語り終ると、ほんのり紅潮《こうちょう》した顔をあげて、帆村の判定を待った。 「さあ――」と帆村は癖で右手で長くもない顎《あご》の先をつまんだ。「どうもそれだけでは、河内園長の生死《しょうし》について判断はいたしかねますが、お望みとあらば、もう少し貴女《あなた》様からも伺《うかが》い、その上で他の方面も調べて見たいと思います」 「お引受け下すって、どうも有難とう存じます」トシ子嬢はホッと溜息《ためいき》をついた。「何なりとお尋《たず》ねくださいまし」 「動物園では大いに騒いで探したようですか」 「それはもう丁寧《ていねい》に探して下すったそうでございます。今朝、園にゆきまして、副園長の西郷さんにお目に懸《かか》りましたときのお話でも、念のためと云うので行方不明になった三十日の閉門《へいもん》後、手分けして園内を一通り調べて下すったそうです。今朝も、また更《さら》に繰返《くりかえ》して探して下さるそうです」 「なるほど」帆村は頷《うなず》いた。「西郷さんは驚いていましたか」 「はァ、今朝なんかは、非常に心配して居て下さいました」 「西郷さんのお家とご家族は?」 「浅草《あさくさ》の今戸《いまど》です。まだお独身《ひとり》で、下宿していらっしゃいます。しかし西郷さんは、立派な方でございますよ。仮《か》りにも疑うようなことを云って戴《いただ》きますと、あたくしお恨《うら》み申上げますわ」 「いえ、そんなことを唯今考えているわけではありません」  帆村は今時《いまどき》珍らしい、日本趣味の女性に敬意と当惑《とうわく》とを捧《ささ》げた。 「それから、園長はときどき夜中の一時や二時にお帰宅《かえり》のことがあるそうですが、それまでどこで過していらっしゃるのですか」 「さァそれは私もよく存じませんが、母の話によりますと、古いお友達を訪ねて一緒にお酒を呑んで廻るのだそうです。それが父の唯一の道楽でもあり楽しみなんですが、それというのもそのお友達は、日露戦役《にちろせんえき》に生き残った戦友で、逢えばその当時のことが思い出されて、ちょっとやそっとでは別れられなくなるんだということです」 「すると園長は日露戦役に出征《しゅっせい》されたのですね」 「は、沙河《さか》の大会戦《だいかいせん》で身に数弾《すうだん》をうけ、それから内地へ送還《そうかん》されましたが、それまでは勇敢に闘いましたそうです」 「では金鵄勲章組《きんしくんしょうぐみ》ですね」 「ええ、功《こう》六級の曹長《そうちょう》でございます」応《こた》えながらも、こんなことが父の失踪に何の関係があるのかと、トシ子は探偵の頭脳《あたま》に稍《やや》失望を感じないわけにゆかなかった。  しかし最後へ来て、この些細《ささい》らしくみえるのが、事件解決の一つの鍵となろうとは二人もこの時は夢想《むそう》だもしなかった。 「園長はそんなとき、帽子も上衣も着ないでお自宅《うち》にも云わず、ブラリと出掛けるのですか」 「そんなことは先ずございません。自宅に云わなくとも、帽子や上衣《うわぎ》は暖いときならば兎《と》に角《かく》、もう十一月の声を聞き、どっちかと云えば、オーヴァーが欲しい時節です。帽子や洋服は着てゆくだろうと思いますの」 「その上衣はどこにありましょうか。鳥渡《ちょっと》拝見したいのですが……」 「上衣はうちにございますから、どうかいらしって下さい」 「ではこれから直ぐに伺いましょう。みちみち古い戦友のことも、もっと話して戴《いただ》こうと思います」 「ああ、半崎甲平《はんざきこうへい》さんのことですか?」トシ子嬢は、父の戦友の名前を初めて口にしたのだった。      2  園長邸を訪ねた帆村は心痛《しんつう》している夫人を慰《なぐさ》め、遺留《いりゅう》の上衣を丹念に調べてから何か手帖に書き止めると、外《ほか》に園長の写真を一葉借り、園長の指紋を一通り探し出した上で地続《じつづ》きの動物園の裏門を潜《くぐ》ったのだった。  西郷という副園長は、すぐ帆村に会ってくれた。あの西郷隆盛の銅像ほど肥《こ》えている人ではなかったが、随分《ずいぶん》と身体の大きい人だった。 「園長さんが失踪《しっそう》されたそうで御心配でしょう」  と帆村は挨拶《あいさつ》をした。「一体いつ頃お気がつかれたのですか」 「全く困ったことになりましたよ」巨漢《きょかん》の理学士は顔を曇らせて云った。「いつ気がついたということはありませんが、不審をいだいたのは、あの日の正午過《ひるすぎ》でしょう。園長が一向《いっこう》食事に帰ってこられませんでしたのでね」 「園長は午前中なにをしていられたのです」 「八時半に出勤せられると、直ぐに園内を一巡《いちじゅん》せられますが、先ず一時間|懸《かか》ります。それから十一時前ぐらい迄は事務を執《と》って、それから再び園内を廻られますが、そのときは何処ということなしに、朝のうちに気がつかれた檻《おり》へ行って、動物の面倒をごらんになります。失踪《しっそう》されたあの日も、このプログラムに別に大した変化は無かったようです」 「その日は、どの動物の面倒を見られるか、それについてお話はありませんでしたか」 「ありませんでしたね」 「園長を最後に見たという人は、誰でした」 「さあ、それは先刻《さっき》警察の方が来られて調べてゆかれたので、私も聞いていましたが、一人は爬虫館《はちゅうかん》の研究員の鴨田兎三夫《かもだとみお》という理学士医学士、もう一人は小禽暖室《しょうきんだんしつ》の畜養《ちくよう》主任の椋島二郎《むくじまじろう》という者、この二人です。ところが両人が園長を見掛けたという時刻が、殆んど同じことで、いずれも十一時二十分頃だというのです。どっちも、園長は入って来られて二三分、注意を与えて行かれたそうですが、其《そ》の儘《まま》出てゆかれたそうです」 「その爬虫館と小禽暖室との距離は?」 「あとで御案内いたしますが、二十間ほど距《へだた》った隣り同士です。もっとも其の間に挟《はさま》ってずっと奥に引込んだところに、調餌室《ちょうじしつ》という建物がありますが、これは動物に与える食物を調理したり蔵《しま》って置いたりするところなんです。鳥渡《ちょっと》図面を描いてみますと、こんな工合です」  そういって西郷理学士は、鉛筆をとりあげると、爬虫館附近の見取図を描いてみせた。 「この二十間の空地《あきち》には何もありませんか」 「いえ、桐《きり》の木が十二本ほど植《うわ》っています」 「その調理室へ園長は顔を出されなかったんでしょうか」 「今朝の調べのときには、園長は入って来られなかったと云っていました」 「それは誰方《どなた》が云ったんです」 「畜養員《ちくよういん》の北外星吉《きたとせいきち》という主任です」 「園長がいよいよ行方不明《ゆくえふめい》と判った前後のことを話していただけませんか」 「よろしゅうございます。閉園《へいえん》近い時刻になっても園長は帰って来られません。見ると帽子と上衣は其儘《そのまま》で、お自宅から届いたお弁当もそっくり其儘です。黙って帰るわけにも行きませんので、畜養員と園丁《えんてい》とを総動員して園内の隅から隅まで探させました。私は園丁の比留間《ひるま》というのを連《つれ》て、猛獣の檻《おり》を精《くわ》しく調べて廻りましたが異状なしです」 「素人《しろうと》考えですがね、例えば河馬《かば》の居る水槽《すいそう》の底深く死体が隠れていないかお検《しら》べになりましたか」 「なる程ご尤《もっと》もです」と西郷副園長は頷《うなず》いた。「そういう個所は、多少の準備をしなければ検《しら》べられませんので直ぐには参りませんでしたが、今日の午後には一つ一つ演《や》っているのです」 「そりゃ好都合です」と帆村探偵が叫んだ。「すぐに、私を参加させていただきたいのですが」  西郷理学士は承諾して、卓上電話機を方々へかけていたが、やっとのことで、捜索隊《そうさくたい》がこれから爬虫館の方へ移ろうというところだと解ったので、その方へ帆村を案内して呉《く》れることになった。  白い砂利の上に歩を運んでゆくと、どこからともなく風に落葉が送られ、カサコソと音をたてて転がっていった。もう十一月になったのだ。杜蔭《もりかげ》に一本《ひともと》鮮《あざや》かな紅葉《もみじ》が、水のように静かな空気の中に、なにかしら唆《そその》かすような熱情を溶《と》かしこんでいるようだった。帆村は、ちょっと辛い質問を決心した。 「園長のお嬢さんは、まだお独身《ひとり》なんですかねエ」 「え?」西郷氏は我が耳を疑うもののように聞きかえした。 「お嬢さんはまだ独身です。探偵さんは、いろんなことが気に懸《かか》るらしいですね」 「私も若い人間として気になりますのでね」 「こりゃ驚いた」西郷理学士は大きな身体をくねらせて可笑《おか》しがった。「僕の前でそんなことを云ったって構《かま》いませんが、鴨田君の前で云おうものなら、蟒《うわばみ》を嗾《け》しかけられますぜ」 「鴨田さんていうと、爬虫館の方ですね」 「そうです」と返事をしたが、西郷氏はすこし冗談を云いすぎたことを後悔した。「ありゃ学校時代の同級生なので、有名な真面目な男だから、からかっちゃ駄目ですよ」  帆村は何も応えなかったが、先に園長令嬢のトシ子と語ったときのことと、いま西郷副園長が冗談に紛《まぎ》らせて云ったこととを併《あわ》せて頭脳《あたま》の中で整理していた。この上は、鴨田という爬虫館の研究員に会うことが楽しみとなった。 「鴨田さんは、主任では無いのですか」 「主任は病気で永いこと休んでいるのです。鴨田君はもともと研究の方ばかりだったのが、気の毒にもそんなことで主任の仕事も見ていますよ」 「研究といいますと――」 「爬虫類《はちゅうるい》の大家です。医学士と理学士との肩書をもっていますが、理学の方は近々学位論文を出すことになっているので、間もなく博士でしょう」 「変った人ですね」 「いや豪《えら》い人ですよ。スマトラに三年も居て蟒《うわばみ》と交際《つきあ》いをしていたんです。資産もあるので、あの爬虫館を建てたとき半分は自分の金を出したんです。今も表に出ているニシキヘビは二頭ですが、あの裏手には大きな奴が六七頭も飼ってあるのです」 「ほほう」と帆村は目を円《まる》くした。「その非公開の蛇も検《しら》べたんですか」 「そりゃ勿論ですよ。研究用のものだからお客さんにこそ見せませんが、検べることは一般と同じに検べますよ。別に園長さんを呑んでいるような贅沢《ぜいたく》なのは居ませんでした」  帆村は副園長の保証の言葉を、そう簡単に受入れることはできなかった。園長を最後に見掛けたというところが、此の爬虫館と小禽暖室の辺であってみれば、入念に検べてみなければならないと思った。 「さあ、ここが爬虫館《はちゅうかん》です」  副園長の声に、はッと目をあげると、そこにはいかにも暖室《だんしつ》らしい感じのする肉色の丈夫な建物が、魅惑的《みわくてき》な秘密を包んで二人の前に突立っていた。      3  扉《ドア》を押して入ると、ムッと噎《む》せかえるような生臭《なまぐさ》い暖気《だんき》が、真正面から帆村の鼻を押《おさ》えた。  小劇場の舞台ほどもある広い檻《おり》の中には、頑丈《がんじょう》な金網《かなあみ》を距《へだ》てて、とぐろを捲《ま》いた二頭のニシキヘビが離れ離れの隅《すみ》を陣取ってぬくぬくと睡《ねむ》っていた。その褐色《かっしょく》に黒い斑紋《はんもん》のある胴中は、太いところで深い山中《さんちゅう》の松の木ほどもあり、こまかい鱗《うろこ》は、粘液《ねんえき》で気味のわるい光沢《こうたく》を放っていた。頭は存外《ぞんがい》に小柄で、眼を探すのに骨が折れたが、やっとのことで彫《ほ》りこんだような黄色い半開きの眼玉を見つけたときには、余りいい気持はしなかった。帆村たちの入って来たのが判ったものか、フフッ、フフッと、風に吹きつけられたように身体の一部を波うたせていたのだった。  こんなのが、裏手にはまだ六七頭もいるんだと思うと、生来《せいらい》蛇嫌いな帆村はもうすっかり憂鬱《ゆううつ》になってしまった。  そのとき奥の潜《くぐ》り戸《ど》をあけて、副園長の西郷が、やや小柄の、蟒《うわばみ》に一呑みにやられてしまいそうな、青白い若紳士を引張ってきた。 「ご紹介します。こちらがこの爬虫館《はちゅうかん》の鴨田研究員です」  二人は言葉もなく頭を下げた。 「園長の最後に此の室へ来られたときのことをお伺《うかが》いしたいのですが」 「今朝も大分警視庁の人に苛《いじ》められましたから、もう平気で喋《しゃべ》れますよ」と鴨田研究員は前提《ぜんてい》して「私は時計を見ない癖《くせ》なのでしてネ、正午《ひる》のサイレンからして、あれは多分十一時二十分頃だったろうと思うのですが、カーキ色の実験衣を着た園長が入って来られまして、そうです、二三分間だと思いますが、ここに出ている一頭のニシキヘビの元気が無いことから、食餌《しょくじ》の注意などを云って下すって其儘《そのまま》出てゆかれたんです」 「それは此の室だけへ入って来られたのですか、それとも」 「今の話は奥でしました。私は別にお送りもしませんでしたが、園長は確かにこの潜《くぐ》り戸《ど》をぬけて此の室へ入られたようです」 「表へ出られた物音でも聞かれましたか」 「いえ、別に気に止めていなかったものですから」 「なにか様子に変ったことでもありましたでしょうか」 「ありません」 「園長が表へ出られたと思う時刻から正午《ひる》までに、戸外に何か異様な叫び声でもしませんでしたか」 「そうですね。裏の調餌室へトラックが到着して、何だかガタガタと、動物の餌を運びこんでいたようですがね、その位です」 「ほほう」帆村は眼を見張《みは》った。「それは何時頃です」 「さあ、園長が出てゆかれて十五分かそこらですかね」 「すると十一時三十五分前後ですね。動物の食うものというと、随分|嵩張《かさば》ったものでしょうね」 「それア相当なもんですなア」と副園長が横合《よこあい》から云った。 「馬鈴薯《じゃがいも》、甘藷《かんしょ》、胡羅蔔《にんじん》、雪花菜《ゆきやさい》、麬《ふすま》、藁《わら》、生草《なまくさ》、それから食パンだとか、牛乳、兎《うさぎ》、鶏《とり》、馬肉《ばにく》、魚類など、トラックに満載《まんさい》されてきますよ」 「なるほど」帆村は又《また》鴨田の方へ向き直った。「莫迦《ばか》げたことをお尋《たず》ねいたしますが、この蟒《うわばみ》は人間を呑みますか」 「呑まないとは保証できませんが、あまり人間は襲《おそ》わない習性《しゅうせい》です。先刻《さっき》もそんなことを訊かれましたが、園長を呑んでいないことは確かですよ。人間を呑むには時間もかかれば呑んでも腹が膨《ふく》れているので直ぐ判ります」  帆村は黙って頷《うなず》いた。  しかし人間の身体を九つ位にバラバラに切断《せつだん》して、この蟒に一塊《いっかい》ずつ喰べさせれば、比較的容易に片づくわけだし、腹も著しく膨《ふくら》むこともなかろうと考えたので、質問してみようと思ったが、これは重大な結果になりそうだから、もっと先で訊《き》くことにした。そしてそれとなく蟒全部の腹の膨れ工合《ぐあい》を検《しら》べてやろうと思った。  それで裏手の鴨田理学士の研究室を見せて欲しいと云うと、直ぐ許されて、一同は潜り戸を入っていった。  其処《そこ》はいとも奇妙な広い部屋だった。竪長《たてなが》の三十坪ほどもあろうという、ぶちぬきの一室だったが、縦《たて》に二等分し、一方には白ペンキを盛んに使った卓子《テーブル》や書棚や、書類函や、それから手術台のようなもの、硝子戸《ガラスど》の入った薬品棚、標本棚、外科器械棚などが如何にも贅沢《ぜいたく》に並び、其他《そのた》、人間が入れそうなタンクのような訳のわからぬ装置が二つも三つも置かれてあった。窓は上の方に小さく、天井《てんじょう》には水銀灯をつかった照明灯が、気味の悪い青白光《せいはっこう》を投げかけていた。床《ゆか》の一ヶ所を開けて地下に潜《ひそ》んでいる園丁の一団があったが、それは話のあった捜索隊に違いなかった。室の一隅《いちぐう》には警視庁の制服《せいふく》警官が二人ほどキラキラする眼を光らせていた。  他の縦半分《たてはんぶん》には頑丈な檻があって、その中に見るも恐ろしい大ニシキヘビが七頭、死んだようになって勝手な場所を占領していた。帆村は檻に掴《つか》まると、端《はし》の蟒から一頭一頭、腹の大きさを見ていった。しかしどうやらどの蛇も思いあたるような大きな腹をしたのは居なかった。しかしバラバラの死体を呑んだとして、犯行が三十日の正午《ひる》近くと仮定し今日は二日の午後であるから二日過ぎとすると、この間に蟒の腹は目立たぬ程に小さくなったのではあるまいか。 「鴨田さん」帆村は背後を振返《ふりかえ》った。「ニシキヘビには山羊《やぎ》を喰べさせるそうですが、何日位で消化しますか」 「そうですね」鴨田は揉《も》み手《で》をしながら実直《じっちょく》そうな顔を出した。「六貫位はある山羊を呑んだとしまして、先ず三日でしょうか」  それなれば十二三貫ある園長を八つか九つの切れにして、九頭の蟒に与えるなら、いままでまる二日は過ぎたから、もう程よく溶《と》けたころに違いない。しかし一体誰が殺したか、誰が死体をバラバラにし、誰が蟒に与えたか。それは一向にハッキリ判っていなかったが、この生白《なまじろ》い鴨田研究員の関係していることは否《いな》めなかった。 「ああ、西郷君」そう云ったのは鴨田理学士だった。「一昨日この爬虫館の前で拾得《しゅうとく》したので僕が事務所へ届けて置いた万年筆ね、あれは先刻警官の方が調べられて、園長さんのものだと判ったそうですよ」 「ああ、そう」西郷副園長は簡単に応《こた》えたが、其の後でチラリと帆村の方に素早《すばや》い視線を送った。  帆村は知らぬ風をして、この会話の底に流れる秘密について考えた。館の前で園長の持ち物を拾ったということは、場合によっては決して鴨田氏の利益ではなかった。万年筆はよく落すものではあるが、そんなに具合よく館の入口に落すものではない。また物静かな園長が落すというのも可怪《おか》しい。鴨田が後に怪《あやし》まれることを勘定《かんじょう》に入れて落して行ったか、さもなくて鴨田が自《みずか》ら落ちていたと偽《いつわ》り届けたものか、どっちかである。始めのようだと鴨田を陥《おとしい》れようとしているのは誰かという問題となり、後のようだと鴨田は自ら嫌疑《けんぎ》をうけようとするもので、そこには容易ならぬ犯罪性を発見することになって、帆村は鴨田の性格を知るために、室内を隅から隅まで見廻して、何か怪《あや》しい物はないかと探し求めた。 「鴨田さんの鞄ですか、これは」と帆村は棚の上に載っている黒皮の書類鞄を指した。 「そうです、私のです」 「随分大きいですね」 「私達は動物のスケッチを入れるので、こんな特製のものじゃないと間に合わないのです」 「こっちの方に、同じような形をした大きなタンクみたいなものが三つも横になっていますが、これは何ですか」 「それは私の学位論文に使った装置なんです。いまは使っていませんので、空《から》も同様です」 「前は何が入っていたのですか」 「いろいろな目的に使いますが、ヘビが風邪《かぜ》をひいたときには、此《こ》の中に入れて蒸気で蒸《む》してやったりします」 「それにしては、何だか液体でも入っていそうなタンクですね」 「ときには湯を入れたりすることもあります」 「だが蟒の呼吸《いき》ぬけもないし、それに厳重《げんじゅう》な錠《じょう》がかかっていますね」 「これは兎《と》に角《かく》、論文通過まで、内部を見せたくない装置なんです」 「論文の標題《ひょうだい》は?」 「ニシキヘビの内分泌腺《ないぶんぴせん》について――というのです」  そこへドヤドヤと、警官と園丁との一団が鴨田研究員を取巻いた。 「もうこの建物は天井から床下《ゆかした》まで調べましたが、異状がありませんでした。唯《ただ》残っているのは、あの三つのタンクですが、お言葉を信用してそのままにして置きます」  帆村はそれを聞くと飛出してきた。 「待って下さい。あのタンクは、是非調べて下さい」 「でも開けられないのですよ」帆村の見識《みし》り越《ご》しの警官が云った。 「そんなことは無い。ね、鴨田さん、開けた方が貴方《あなた》のためにもいいですよ。あのタンクだけで、清浄潔白《せいじょうけっぱく》になるのじゃありませんか」 「いやそう簡単に明けられません」鴨田は強く反対した。「あれを明けると、爬虫館の室温や湿度が急降《きゅうこう》して、爬虫《はちゅう》に大危害《だいきがい》を加えることになるので、ちょっとでも駄目です」 「私は大したことはあるまいと思うのですが、演《や》ってみては?」帆村は尚《なお》も主張した。 「いやそうは行きません。私は園長から相当の責任を持って爬虫類を預っているのですから、拒絶《きょぜつ》する権利があります。尤《もっと》も他《た》を求めて、どうにも解決の鍵が見つからぬときは開けもしましょうが、それにはちょっと準備が入ります。この爬虫たちを、元居た暖室《だんしつ》の方へ移すのですが、それにはあの室を充分なところまで温め、湿度を整《ととの》えてやらねばならんのです」 「弱ったな」帆村は苦い顔をした。「一体何時間あったら、別室の準備ができるのです」 「まア五時間か六時間でしょうね」 「そりゃ大変だ。じゃ私も暫く考えてみましょう」と帆村は断乎《だんこ》として云った。「その間に別の部屋を検べて来ましょう。西郷さん、調餌室というのを案内して下さい」      4  帆村は爬虫館の外へ出ると、チェリーに火を点《つ》けて、うまそうに吸った。  彼の観察したところでは、若《も》し鴨田《かもだ》に嫌疑《けんぎ》をかけるならば、鴨田は何かの原因で、河内園長を爬虫館に引摺《ひきず》りこみ、これを殺害して裸体《らたい》に剥《は》ぐと、手術台の上でバラバラに截断《せつだん》し、彼が飼育している蟒《うわばみ》に一部分喰わしてしまったのであろう。真逆《まさか》バラバラにしたとは気が付かなかったので、捜索隊も蟒の腹を見るには見たが、人間を頭から呑んでいる程の膨《ふく》れた腹をした蟒が居なかったので、それで安心していたものと思う。あの特殊装置というものの中には、きっと血染《ちぞめ》になった園長の服とか靴とかが隠匿されているのではなかろうか。万年筆は、園長を館の入口で絞《し》めあげるときに落ちたもので、それを後に何かの事情があって遺失品《いしつひん》として届けたものであろう。  しかし今横に並んで歩いている西郷副園長が、この万年筆について不審な行動を演《や》っているのにも気がつかないわけではない。第一に三十日の遺失品として届けられたものなら、直ぐにも疑って調べなければならないのが、今まで黙っていたし、一と目みれば園長のものだ位は判りそうなものを何故《なにゆえ》口を閉めていたのか、嫌な眼付で帆村を覗いたところと云い、ひょっとしたら西郷がすべてを画策《かくさく》し、嫌疑が鴨田にかかるように、わざと爬虫館の前に落して置いたのではあるまいか。園長殺害の方法も死体も判らぬが、原因は勤務上の怨恨《えんこん》又は、失恋でもあろう。そう思って西郷の横顔を見ると、どこやら悪人らしいところも無いでは無かった。  しかし嫌疑薄弱《けんぎはくじゃく》な西郷まで疑うのは、探偵上の恐しい無限地獄へ落ちこんだようにも思われた。園長令嬢トシ子の言葉としても、副園長を疑うことは申訳なかった。でも疑えば、トシ子は鴨田のことを爪の尖《さき》ほども言わず、却《かえ》って西郷のことを弁明した。これは西郷の愛に酬《むく》うことができなかったので自《みずか》ら弁解をつとめて償《つぐな》いをし、一方鴨田との愛の問題はもう解決を見ているので一言も云わなかったと考えてはどうか。いよいよ縺《もつ》れ糸のように乱れてくる帆村の足許《あしもと》に、事件解決の鍵かと思われる物が転がっていた。それは一個の釦《ボタン》だった。 「おお、これは園長の洋服についていた釦に違いない。どうしてこんなところに在るのだろう」  帆村は兼《か》ねて園長の遺《のこ》していった上衣の釦《ボタン》の特徴を手帳に書き留めて置いたことが役立って大変好運だと思った。それにしても釦を拾った場所というのが、調餌室の直ぐ前の、桐《きり》の木材との間に挟《はさま》った路面だったので、これでは調餌室の人達について一応嫌疑をかけてみないわけにはゆかない。いや、ひょっとすると、爬虫館前に落ちていたという園長の万年筆もこの釦と殆んど同時に落ちたものと認定すると、これは園長の身体を搬《はこ》んで行った経路を自《おのずか》ら語っていることになりはしないであろうか。恐らく万年筆が最初に落ちて、次にチョッキの釦と思うものが落ちたと考えていいであろう。園長の身体は、爬虫館の前から調餌室へ搬ばれたと考えていいであろう。  だが、どうして人目につかず搬んで行けたかということが次の疑問だった。それが出来たとすると、特殊の状況が必要だったことになる。白昼下《はくちゅうか》では、その時、幸《さいわ》いにも観覧人も少く畜養員や園丁も現場《げんじょう》に居合わせなかったというとき、又夜間なれば、これは極《きわ》めて容易に行われる。しかし万年筆は園長失踪の日に発見されたのだから、搬《はこ》ばれたのは夜間になる以前だといわなければならない。しかも十一時二十分頃までは園長を見掛けたという人があるのだから、正午《ひる》になれば園長は食事のため事務所へ帰って行った筈で、それが無かったとすると、どうしても失踪は十一時二十分から正午の間と断定するのが常識のように思う。コースは調餌室から爬虫館ではなくて、反対に爬虫館から調餌室へと考えられる。そこで帆村は、爬虫館の鴨田研究員が十一時三十五分前後に、調餌室の前へトラックが到着して動物の餌を搬びこんでいるらしい騒ぎを聴いたということを思い出した。すると犯行は、この前か後か。――帆村は調餌室の内部にも多分の疑問|符号《ふごう》が秘められていることも考えないわけにはゆかなかった。  西郷理学士と一緒に調餌室に入ってみると、帆村は思わず「呀《あ》ッ」と叫びたいくらいだった。塀の外で調餌室を想像しているのと、こうやって大きな俎上《そじょう》に、血のタラタラ滲《にじ》みでそうな馬肉《ばにく》の塊《かたまり》を見るのとでは、まるっきり調餌室というものの実感が違った。壁には、象を料理するのじゃないかと思うほどの大鉞《おおまさかり》や大鋸《おおのこぎり》、さては小さい青竜刀《せいりゅうとう》ほどもある肉切庖丁《にくきりほうちょう》などが、燦爛《さんらん》たる光輝《ひかり》を放って掛っていた。倉庫には竪《たて》半分に立ち割った馬の裸身《はだかみ》や、ダラリと長い耳を下げた兎《うさぎ》の籠《かご》などが目についた。  この物凄い光景を見た瞬間、帆村の頭脳《あたま》の中に電光のように閃《ひらめ》いた幻影《げんえい》があった。それは、園長の死体が調餌室に搬ばれたと見る間に、料理人が壁から大きな肉切庖丁を下《おろ》して、サッと死体を截断《せつだん》する。そして駭《おどろ》くべき熟練をもって、胸の肉、臀部《でんぶ》の肉、脚の肉、腕の肉と截り分け、運搬車に載せると、ライオンだの虎だの檻の前へ直行して、園長の肉を投げ込んでやる。……いや、恐《おそろ》しいことである。 「これが、調餌室の主任、北外星吉《きたとせいきち》氏です」西郷副園長が、ゴム毬《まり》のように肥《こ》えた男を紹介した。 「やあ、帆村さんですか」北外畜養員はニコヤカに笑った。 「貴方《あなた》のお名前は兼《か》ねてよく知っていましたよ。今度の事件はまるで、貴方に挑戦しているようなもので、実にうってつけの大事件ですなア」  帆村はこの機嫌のいい、しかし何だかひやかされているような気がしないでもない北外の挨拶に対して、頓《とみ》に言うべき言葉もなかった。しかし此《こ》のまんまるく太った子供の相撲取《すもうとり》のような男の顔を見ていると、彼が悪事を企図《たくら》むような種類の人間だとは思えなくなった。帆村は勢い率直な質問をこの男に向ってする勇気を得たのだった。 「北外さん、私は園長の身体が、この調餌室《ちょうじしつ》か、それとも隣りの爬虫館かで、料理されちまったように思うのですがね」 「はァはァ」北外は小さい口を勢一杯《せいいっぱい》に開けて、わざとらしく駭《おどろ》いた。「いやそれは大発見ですな」 「貴方は園長が失踪された朝の、十一時二十分頃から正午《ひる》まで何処に居られましたか」 「僕が有力なる容疑者というお見立ですな」北外はニヤリと笑った。「さてお尋《たず》ねの時間に於《おい》ては、この室内に僕一人が残っていた――とこう申上げると、貴方は喜ばれるのでしょうが、実はその時間フルに、一族郎党《いちぞくろうとう》ここに控《ひか》えていたんです。それというのが、十一時四十分頃に、けだもの[#「けだもの」に傍点]の弁当の材料が届くことになっていまして、室からズラかることが出来ないのです」 「それでは其の時間前後は、何をしておいででした?」 「先《ま》ず時間前は、当日も六人の畜養員が、庖丁《ほうちょう》を研《と》いだり、籠を明けたり、これでなかなか忙しく立ち働きました。そのうちにいつもの時間になると、トラックに満載された材料がドッと搬《はこ》ばれて来ます。するともう戦場のような騒ぎで、この寒さに襯衣《シャツ》一枚でもって全身水を浴《あび》たように、汗をかきます。それが済むと早速《さっそく》調理です。煮《に》るものは大してありませんが、それぞれのけだもの[#「けだもの」に傍点]に頃合いの大きさに切ったり、分けて容物《いれもの》に入れたりするのが大変です。肉類の方は、生きている兎《うさぎ》だの鶏《にわとり》だのには、冥途《めいど》ゆきの赤札《あかふだ》をぶら下げるだけですが、その外《ほか》のは必ず頭のある魚を揃えたり馬肉の目方をはかって適当の大きさに截断し、中には必ず骨つきでないといけないものもあって、それを拵《こしら》えるやら、なかなか忙しくて、おひるの弁当が、キチンと正午《ひる》にいただけることは殆んど稀《まれ》で、いつも一時近くですね。その忙しさの間に、園長を掴《つかま》えてきて、これも料理しスペシァルの御馳走として象《ぞう》や河馬《かば》などにやらなきゃならんそうで、いやはや大変な騒《さわ》ぎですよ」  帆村は、うっかり園丁に象や河馬に人間を食わせる話をしたのが、こんなところへヒョックリ出て来ようとは思いがけなかったので、横を向いて苦笑《にがわら》いをした。兎《と》も角《かく》、調餌室の連中はあの時間、犯行を遂《と》げるなどとは非常に困難であることが判った。  してみると、園長の万年筆や釦《ボタン》は、一体何を語っているのだろうか。理窟からゆけば、どうしても調餌室の連中が疑われてくるのであるが、北外《きたと》の話では疑うのが無理である。すると、残るのは何者かが調餌室の人たちに嫌疑を向けるために、万年筆を落し、釦を調餌室の前に捨てたとしかかんがえられない。何者がやったことかは知らぬが、そうだとすると、犯人は実に容易ならぬ周到な計画を持っていたものと思われる。  そこで帆村は大事にしていた切札を、ポイと投げ出す気になった。 「北外《きたと》さん。隣りの爬虫館《はちゅうかん》の蟒《うわばみ》どものことですがね。皆で九頭ほどいますが、あれに人間の身体を九個のバラバラの肉塊《にくかい》にし、蟒どもに振舞ってやったら、嘸《さぞ》よろこんで呑むことでしょうな」帆村は北外の答えを汗ばむような緊張の裡《うち》に待った。 「うわッはッはッ」北外は無遠慮《ぶえんりょ》に笑い出した。「いや、ごめんなさい、帆村さん、あの蟒という動物はですな、生きているものなら躍りかかって、たとい自分の口が裂けようと呑《の》みこみますが、死んでいるものはどんなうまそうなものでも見向《みむ》きもしないという美食家《びしょくか》です。ここでは主に生きた鶏や山羊《やぎ》を食わせています。貴方は多分園長の死体のことを云っていられるのでしょうが、バラバラでは蟒の先生、相手にしませんでしょうよ」  帆村は折角《せっかく》登りつめた断崖から、突っ離されたように思った。穴があれば入りたいとは、この場のことだろう。彼は北外畜養員に挨拶をして、遁《に》げるように室を出た。  彼は人に姿を見られるのも厭《いと》うように、スタスタと足早に立ち去った。園内の反対の側に遺《のこ》されたる藤堂家《とうどうけ》の墓所《ぼしょ》があった。そこは鬱蒼《うっそう》たる森林に囲まれ、厚い苔《こけ》のむした真《しん》に静かな場所だった。彼はそこまで行くと、園内の賑《にぎや》かさを背後《あと》にして、塗りつぶしたような常緑樹《じょうりょくじゅ》の繁みに対して腰を下した。 「ああ、何もかも無くなった!」  帆村は一本の煙草をつまむと、火を点けて歎息《たんそく》した。 「一体、何が残っているだろう」  最初から一つ一つ思いかえしてゆく裡《うち》に、特に気のついたことが二つあった。一つは園長がいつも呑み仲間としてブラリと訪ねて行った古き戦友|半崎甲平《はんざきこうへい》に会うことだった。そうすれば、まだ知られていない園長の半面生活が曝露《ばくろ》するかも知れない。もう一つはどうしても事件に関係があるらしい爬虫館を、徹底的に捜索しなおすことだった。ことに開けると爬虫たちの生命を脅《おびやか》すことになるという話のあった鴨田研究員苦心の三本のタンクみたいなものも、此際《このさい》どうしても開けてみなければ済《す》まされなかった。あのタンクは、故意か偶然か、人間一匹を隠すには充分な大きさをしているのだった。  そんな結論を生んでゆく裡に、帆村の全身にはだんだんに反抗的な元気が湧き上ってきたのだった。 「須永《すなが》を呼ぼう」  彼は公衆電話に入って帆村探偵局の須永助手を呼び出すと直《す》ぐに動物園へ来るように命じた。      5  爬虫館の鴨田研究室の裡《うち》へツカツカと入って行った帆村探偵は、そこに鴨田氏が背後《うしろ》向きになり、ビーカーに入った茶褐色《ちゃかっしょく》の液体をパチャパチャ掻《か》き廻しているのを発見した。外には誰も居なかった。  帆村の跫音《あしおと》に気がついたらしく、鴨田は静かにビーカーを振る手をちょっと停《とど》めたが、別に背後を振返りもせず、横に身体を動かすと、硬質陶器《こうしつとうき》でこしらえた立派な流し場へ、サッと液体を滾《こぼ》した。すると真白な烟《けむり》が濛々《もうもう》と立昇《たちのぼ》った。どうやら強酸性《きょうさんせい》の劇薬らしい。なにをやっているのだろう。 「鴨田さん、またお邪魔《じゃま》に伺《うかが》いました」帆村はぶっきら棒に云った。 「やあ!」と鴨田は愛想よく首だけ帆村の方へ向いて「まだお話があるのですか」とニヤニヤ笑い乍《なが》ら、水道の水でビーカーの底を洗った。 「先刻《さっき》の御返事をしに参りました」 「先刻の返事とは?」 「そうです」と帆村は三つの大きな細長いタンクを指《さ》して云った。「このタンクを直ぐに開いていただきたいのです」 「そりゃ君」と鴨田はキッとした顔になって応えた。「さっきも言ったとおり、これを直ぐ開けたんでは、動物が皆|斃死《へいし》してしまいます」 「しかし人間の生命には代えることは出来ません」 「なに人間の生命? はッはッ、君は此のタンクの中に、三日前に行方不明になった園長が隠されているのだと思っているのですね」 「そうです。園長はそのタンクの中に入っているのです!」  帆村はグンと癪にさわった揚句《あげく》(それは彼の悪い癖だった)大変なことを口走ってしまった。それは前から多少疑いを掛けていたものの、まだ断定すべきほどの充分な条件が集っていなかったのだ。怒鳴《どな》ったあとで大いに後悔《こうかい》はしたものの、不思議に怒鳴ったあとの清々《すがすが》しさはなかった。 「君は僕を侮辱《ぶじょく》するのですね」 「そんなことは今考えていません。それよりも一分間でも早く、このタンクを開いていただきたいのです」 「よろしい、開けましょう」断乎として鴨田が思切《おもいき》ったことを云った。「しかし若《も》しもこのタンクの中に園長が入っていなかったら君は僕に何を償《つぐな》います」 「御意《ぎょい》のままに何なりと、トシ子さんとあなたの結婚式に一世《いっせ》一代の余興《よきょう》でもやりますよ」  この帆村の言葉はどうやら鴨田理学士の金的《きんてき》を射《う》ちぬいたようであった。 「よろしい」彼は満更《まんざら》でない面持《おももち》で頷《うなず》いた。「ではこの装置を開けましょうが、爬虫どもを別の建物へ移さねばならぬので、その準備に今から五六時間はかかります。それは承知して下さい」 「ではなるべく急いで下さい。今は、ほう、もう四時ですね。すると十時ごろまでかかりますね。警官と私の助手を呼びますから、悪《あ》しからず」 「どうぞご随意《ずいい》に」鴨田は云った。「僕も今夜は帰りません」  帆村はその部屋から警官を呼んだ。副園長の西郷にも了解《りょうかい》を求めたが、彼も今夜はタンクが開くまで、爬虫館に停っていようと云った。  しかし帆村は、彼等と別なコースをとる決心をしていた。丁度そこへ助手の須永がやってきたので、万事について、細々《こまごま》と注意を与え、爬虫館の見張りを命じてから、彼一人、動物園の石門を出ていった。既に秋の陽《ひ》は丘の彼方に落ち、真黒な大杉林の間からは暮れのこった湖面《こめん》が、切れ切れに仄白《ほのじろ》く光っていた。そして帆村探偵の姿も、やがて忍《しの》び闇《やみ》の中に紛《まぎ》れこんでしまった。それからは時計のセコンドの響きばかりがあった。午後五時、六時、七時、それから八時がうっても九時がうっても、帆村の姿は爬虫館へ帰ってこなかった。九時半を過ぎると多勢の畜養員や園丁が檻を担《かつ》いで入って来て無造作《むぞうさ》にニシキヘビを一頭入れては別の暖室《だんしつ》の方へ搬んで行った。仕事は間もなく終った。助手の須永は、先ほどから勝誇ったように元気になってくる鴨田理学士の身体を、片隅《かたすみ》から睨《にら》みつけていた。やがて爬虫館の柱時計がボーン、ボーンと、あたりの壁を揺すぶるように午後十時を打ちはじめた。人々は、首をあげてじっと時計の文字盤を眺め、さて入口をふりかえったが、どうやら求める跫音《あしおと》は蟻の走る音ほども聞えなかった。 「帆村さんはもう帰って来ないかも知れませんよ」  鴨田理学士が両手を揉《も》み揉《も》み云った。 「いつまで待って居たって仕様がありませんから、この儘《まま》閉めて帰ろうではありませんか」  警官と西郷副園長とが、腰を伸して立ち上った。須永も立ち上った。しかし彼は鴨田の解散説に賛成して立ったわけではなかった。 「もう少し待って下さい。先生は必ず帰って来られます」  須永は叫んだ。 「いや、帰りません」  鴨田は尚《なお》も云った。 「それでは――」と須永は決心をして云った。「先生の代りに僕が拝見しますから、このタンクを開けて下さい」 「それはこっちでお断《ことわ》りします」  憎々《にくにく》しい鴨田の声に、須永が尚も懸命に争っている裡《うち》に、いつの間に開いたか、入口の扉《ドア》が開かれ、そこには此の場の光景《ありさま》を微笑《ほほえ》ましげに眺めている帆村の姿があった。 「皆さん大変お待たせをしました」と挨拶《あいさつ》をした後で、「おや蟒どもは皆、退場いたしましたね、では今度は私が退場するか、それとも鴨田さんが退場なさるか、どっちかの番になりました。ではどうか、あれを開いていただきましょう、鴨田さん」 「……」鴨田は黙々《もくもく》として第一のタンクの傍へ寄り、スパナーで六角の締め金を一つ一つガタンガタンと外《はず》していった。一同は鴨田の背後から首をさし伸べて、さて何が現れることかと、唾を呑みこんだ。 「ガチャリ!」  と音がして、タンクの上半部がパクンと口を開いた。が、内部は同心管《どうしんかん》のようになっていて、鱶《ふか》の鰭《ひれ》のような大きな襞《ひだ》のついた其の同心管の内側が、白っぽく見えるだけで、中には何も入っていなかった。 「空虚《から》っぽだッ」  誰かが叫んだ。  鴨田研究員は第二のタンクの前へ、黙々として歩を移した。同じような操作がくりかえされたが、これも開かれた内部は、第一のタンクと同じく、空虚《から》だった。  失望したような、そして又安心したような溜息が、どこからともなく起った。  遂に第三のタンクの番だった。流石《さすが》の鴨田も、心なしか緊張に震える手をもって、スパナーを引いていった。 「ガチャリ!」  とうとう最後の唐櫃《からびつ》が開かれたのだった。 「呀《あ》ッ!」 「これも空虚っぽだッ!」  帆村は須永に目くばせをして彼一人、前に出た。彼の手には自動車の喇叭《らっぱ》の握りほどあるスポイトとビーカーとが握られていた。  彼は念入りに、白い襞《ひだ》のまわりを獵《あさ》って、何やら黄色い液体をスポイトで吸いとり、ビーカーへ移していた。  だがそれは大した量でなく、ほんの底を潤《うる》おす程度にとどまった。  帆村は尚《なお》もスポイトの先で、弾力のある襞《ひだ》を一枚一枚かきわけ、検《しら》べていたが、 「呀ッ」  と叫んで顔を寄せた。 「これだッ。とうとう見付かった」  そう云って素早《すばや》く指先でつまみあげたのは長さ一寸あまりの、柳箸《やなぎばし》ほどの太さの、鈍く光る金属――どうやら小銃《しょうじゅう》の弾丸《たま》のような形のものだった。  一同は怪訝《けげん》な面持で、帆村が指先にあるものを眺《なが》めた。帆村はその弾丸のようなものを鴨田の鼻先へ持っていった。 「貴方《あなた》はこれをご存知ですか」  鴨田は腑《ふ》に落ちかねる顔付で、無言に首を振った。 「貴方はご存知なかったのですね」  帆村はどうしたのか、ひどく歎息《たんそく》して云った。 「これはですね――」  一同は帆村の唇を見つめた。 「――これは露兵《ろへい》の射った小銃弾《しょうじゅうだん》です。そして、これは三十日から行方不明になられた河内園長の体内に二十八年この方、潜《もぐ》っていたものです。云わば河内園長の認識標《にんしきひょう》なんです。しかも園長の身体を焼くとか、溶かすかしなければ出て来ない終身《しゅうしん》の認識標なんです」 「そんな出鱈目《でたらめ》は、よせ!」  鴨田が蒼白《まっさお》にブルブルと慄えながら呶鳴った。 「いや、お気の毒に鴨田さんの計画は、とんだところで失敗しましたよ。貴方《あなた》は園長を殺すために、医学を修《おさ》め、理学を学び、スマトラまで行って蟒の研究に従事《じゅうじ》せられた。そして日本へ帰られると、多額の寄附をしてこの爬虫館を建て、貴方は研究を続けられた。七頭のニシキヘビは貴方の研究材料であると共に、貴重な兇器《きょうき》を生むものだった。私どもはよく医学教室で、犬を手術し、唾液腺《だえきせん》を体外へ引張《ひっぱ》り出して置いて、これにうまそうな餌を見せることにより、体外の容器へ湧きだした犬の唾液を採集する実験を見かけますが、貴方は生物学と外科とにすぐれた頭脳と腕とで、蟒《うわばみ》の腹腔《ふくこう》に穴をあけ、その消化器官の液汁《えきじゅう》を、丹念に採集したのです。それは周到なる注意で今日まで貯蔵されていました。そして又ここに並んでいるタンクは、巧妙な構造をもった人造胃腸だったんです」  あまりに意外な帆村の言葉に、一同は唖然《あぜん》として彼の唇を見守るばかりだった。 「鴨田さんは三十日の午前十一時二十分頃、園長をひそかに人気《ひとけ》のない此の室に誘い、毒物で殺したんです。そこで直ちに園長の軽装《けいそう》を剥《は》いで裸体とし、着衣などは、あの大鞄《おおかばん》に入れ其《そ》の夕方、何喰わぬ顔で園外に搬《はこ》び去りましたが、それは後《のち》の話として、鴨田さんは園長の口をこじ開けるや、蟒の消化液では溶けない金歯をすっかり外《はず》して別にすると、もうこれで全部が溶けるものと安心して此の第三タンクに入れました。そこで永年貯蔵して置いたニシキヘビ消化液をタンクへ入れて密封をすると、電動仕掛けで同心管――それは襞《ひだ》をもった人造胃腸なんですが、その胃腸を動かし始めたんです。適当な温度に保ってこれを続けたものですから、鴨田さんの研究によると、今夜の八時頃までに完全に園長の身体はタンクの中で、影も形もなく融解《ゆうかい》してしまうことが判っていました。  鴨田さんにその自信があったればこそ、この時間になってタンクを開くことを承知されたのです。そして尚《なお》も計画をすすめて、タンクの中の溶液を、そのまま下水へ流してしまうことにしました。急いで流せば、こんな静かなところだからそれと音を悟《さと》られるので、排水弁《はいすいべん》を半開《はんびらき》とし、ソロソロと園長の溶けこんだタンクの内容液を流し出したんです。しかしそれは一つの大失敗を残しました。流出速度が極めて緩慢《かんまん》だったために、園長の体内に潜入していた弾丸《たま》は流れ去るに至らず、そのまま襞《ひだ》の間に残留《ざんりゅう》してしまったんです。この弾丸というのは、園長が沙河《さか》の大会戦《だいかいせん》で奮戦《ふんせん》の果《はて》に身に数発の敵弾をうけ、後《のち》に野戦《やせん》病院で大手術をうけましたが、遂に抜き出すことの出来なかった一弾《いちだん》が身体の中に残りました。その一弾が皮肉《ひにく》にも棺桶《かんおけ》ならぬ此のタンクの中へ残ったわけなんです。本当に恐ろしいことですね。なお附け加えると、園長の金歯《きんば》は、大胆《だいたん》にも私の見ている前でビーカー中の王水《おうすい》に溶かし下水道へ流しました。万年筆や釦《ボタン》は鴨田さん自身が撒《ま》いたもので、これは犯罪者特有のちょっとした掻乱手段《そうらんしゅだん》です」 「出鱈目《でたらめ》だ、捏造《ねつぞう》だ!」  鴨田は尚も咆哮《ほうこう》した。 「では已《や》むを得ませんから、最後のお話をいたしましょう」帆村は物静かな調子で云った。「この犯行の動機は、まことに悲惨《ひさん》な事実から出て居ます。話は遠く日露戦争の昔にさかのぼりますが、河内園長が満州の野に出征《しゅっせい》して軍曹《ぐんそう》となり、一分隊の兵を率いて例の沙河《さか》の前線《ぜんせん》、遼陽《りょうよう》の戦いに奮戦《ふんせん》したときのことです。其《そ》のとき柵山南条《さくやまなんじょう》という二等兵がどうした事か敵前というのに、目に余るほど遺憾《いかん》な振舞《ふるまい》をしたために、皇軍《こうぐん》の一角が崩れようとするので已《や》むを得ず、泪《なみだ》をふるって其の柵山二等兵を斬殺《ざんさつ》したのです。これは、軍規《ぐんき》に定めがある致方《いたしかた》のない殺人ですが、それを見ていた分隊中の或る者が、本国へ凱旋後《がいせんご》柵山二等兵の未亡人にうっかり喋《しゃべ》ったのです。未亡人は殺された夫に勝《まさ》るしっかり者で、そのときまだ幼かった一人の男の子を抱きあげて、河内軍曹への復讐《ふくしゅう》を誓ったのです。その男の子――兎三夫《とみお》君は爾来《じらい》、母方の姓《せい》鴨田を名乗って、途中で亡くなった母の意志を継《つ》ぎ、さてこんなことになったのです」  帆村は語を切った。しかし鴨田学士は、今度は何も云わずに項低《うなだ》れていた。 「もう後は云う必要がありますまい。最後に御紹介したい一人の人物があります。それはこの話のヒントを与えて以後私の調べに貢献《こうけん》して下すった故園長の古い戦友、半崎甲平老人であります。この老人は同郷《どうきょう》の出身ですが、衛生隊員として出征せられていたので、後に園長がX線で体内の弾丸《たま》を見たときにも立合い、また戦場の秘話を園長から聴きもした方です。鴨田さんの亡《な》き父君のことも知ってられるんですから、此処《ここ》へお連れしました。いま御案内して参りましょう」  そういって帆村は立上ると、入口の扉《ドア》をあけた、が、其処には老人の姿は見えなかった。向うを見ると、爬虫館の出入口が人の身体が通れるほどの広さにあき、その外に真黒な暗闇《やみ》があった。 「呀《あ》ッ、鴨田さんが自殺しているッ」  そういう声を背後に聞いた帆村は、もう別にその方へ振返ろうともしなかった。  そして彼の胸中には、事件を解決するたびに経験するあの苦《に》が酸《ず》っぱい悒鬱《ゆううつ》が、また例の調子で推《お》し騰《のぼ》ってくるのであった。 底本:「海野十三全集 第2巻 俘囚」三一書房    1991(平成3)年2月28日第1版第1刷発行 初出:「新青年」    1932(昭和7)年10月号 入力:tatsuki 校正:花田泰治郎 2005年5月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。